第4話:冒険者ギルド

 待っていたのは初心者の街とは思えないほど豪華な街並みだった。


 地球でいう中世のヨーロッパのような街並み。立ち並ぶ露天。そして何より武器や防具を売っているお店が多い。

 街の中心に建っているのがどうやら冒険者ギルドらしい。「ギルド」と大きく書かれている。なぜか金色でだ。

 

 街全体がすごい活気に満ち溢れている。

 鎧を着た冒険者だと思われる人やローブを着た魔法使いみたいな人たちがたくさんいる。しかもどの人も高価そうな装備を着用しているな。

 

 あそこの大男は武器の店でとんでもなく大きな剣を買っている。

 値段は……金貨10枚?

 どのくらいかよく分からないけど、きっと高いんだろうな。

 入場料が銀貨4枚な訳だし。


 ウィンディがいないと不安だ。1人で冒険者ギルドに入って行けるかな?

 さっきから出入りしてる人たちはまるで雷神様のように凶暴そうだし、僕なんかが入っていいような雰囲気ではない。


 「そんなに不安そうな顔をしないでください。私がついていますから」


 耳元でウィンディの声がする。でも振り返っても誰もいない。


 「水分に紛れています。なので目では見えないですよ」


 なんだかウィンディはすごい精霊なんじゃないだろうか?

 僕としてはありがたいけど、そんなすごい精霊を従者にしてるって言うのはちょっとなぁ。

 まぁ1人じゃないんだ。ちゃんとゼウス様に言われた仕事をこなさないと。

 にしてもこのメモにはなんて書いてあるんだ?


 つ……たらと………ね?


 だめだ。読めそうにない。でもここまで来たんだから冒険者として登録した方が早いんだろうな。

 腹をくくってこの扉を開けることにしよう。

 そうしないと本当に任務完遂に200年かかってしまう。


 ギィー……木製の扉は変な音がする。

 中に入って最初に見えたのはカウンター。

 受付って書いてあるな。とにかくあそこに行かないと。


 受付にはすごく綺麗なお姉さんがいた。まるでビィーナス様みたいだ。

 でも猫みたいな耳がついている。それでも可愛いけどね。


 「あ、あのー……」

 「はい。いかがなさいましたか?」

 「冒険者登録をしたいのですが……」

 「わかりました。では簡単なテストを受けてもらいますが、よろしいですか?」

 「はい。もちろんです」


 案外スムーズに進んだ。受付のお姉さんは慣れた手つきで何かの契約書みたいな紙を取り出して、僕に差し出す。


 「ではこちらに魔力を流し込んでください。人魔判定をいたします」


 人魔判定? なんだそれは?


 「なんですかそれは?」


 「人間や獣人種、そしてエルフなどの人型の種族は「聖」の属性を持ってるのはご存知ですよね?」

 「はい。一応」


 エルフまでいるのか。見てみたいな。


 「でもたまに力の強い魔族が人間に紛れていることがあるんですよ。所謂捨て身の攻撃ですね。そのため人魔判定を魔力の性質を元に行なっているんです」

 「なんとなく理解しました。じゃあこの紙に手をおけばいいんですね?」

 「はい。お願いいたします」

 

 ん? まてよ? 僕は性質が「神」じゃなかったか?

 これはまずいかもしれない。


 「判定結果は……判定不能? どうしたんでしょう? でも「魔」の属性は出てませんもんね……」

 「そしたら僕は合格ですか?」

 「私では判断し兼ねますので、少々お待ちいただけますか?」


 そう言ってお姉さんは受付裏の階段を登っていってしまった。

 何か問題に巻き込まれたらどうしよう……

 

 「ウィンディ。どうすればいいと思う?」

 「きっと大丈夫です。ちなみに付喪神様の性質はなんですか?」

 「「神」だよ」

 「…………それは絶対に口に出してはいけません。人間には絶対に黙っていてください」

 「え? それはどういう……」


 ウィンディと小声で話してると階段から体格のいい大男が出てきた。

 

 「俺はこのギルドのギルドマスターをしているアンクスという。貴様か。判定不能を叩き出したやつは」

 「は、はい」

 「名はなんという?」


 名前か。そういえば僕は名前がないな。

 付喪神って呼ばれてるけど、本名とかじゃないよね?

 ここは適当に……


 「つ、ツクモと言います」

 「ツクモ? 聞かない名前だな。どこの出身だ?」


 門番が言ってた村の名前はなんだったっけ……

 「付喪神様。ルナルド村ですよ」

 ウィンディが小声で教えてくれた。察してくれてありがとう。


 「ルナルド村です」

 「ほう。確かにあそこの村には変な名前のやつが多いからな。それで、判定不能の件なんだが……」


 ゴクリ。


 「たまに魔力量が多いやつがそう判定されることがあるんだ。だからお前の力を試したい。それで魔力量が乏しいと判断したら即座に帰宅、場合によってはここで斬り殺す」


 怖い。迫力が違いすぎる。さすがはこのギルドの長だ。

 でもこの世界ではどうやって力の判定をしているんだろうか?

 攻撃力や魔力なんてものはステータス画面にないし、感覚で理解する感じなのかな?


 「わかりました。その試験を受けさせてください」

 「いい返事だ。帰ると言ったら斬るところだったぞ。では早速訓練所へ向かう。ついて来い」


 言われるがままについていく。どうやら僕は知らないうちに命びろいをしていたようだ。

 もしかしたら僕の方が強いのかも知れない。でも実際自分がどの程度の強さなのかわからない。というか人間がどの程度強いのかもよく分からないや。


 ◇◇◇


 訓練所は地下にあった。

 屋根付きのコロシアムみたいな感じでたくさんの冒険者たちが力を試しあっている。

 そんな中ギルドマスターの後をついて入場した僕。

 周りの冒険者たちからものすごい視線を感じる。

 この服装のせいかな?

 でも頑張れば魔術師のローブに見えなくもない。頑張ればだけど。


 「ツクモ! お前にはこの的めがけて渾身の魔法を撃ってもらう。魔法はもちろん使えるよな?」

 確か5系統だとまずいんだよな……

 「はい! 水魔法が使えます」

 「よし。じゃあ一番の初歩技、「水球ウォーターボール」を撃ってみろ。魔力は俺の目で見極める」


 「水球ウォーターボール」? 僕はその魔法が使えるのか?

 「さっき使ってたやつですよ。あの水球を投げるようにしてみてください」

 囁いて教えてくれたウィンディ。ありがとう、僕はウィンディがいなかったらまともにやっていけなかったかもしれないや。

 

 「わかりました。では行きます」


 さっき作った水球よりも大きめの物を作るイメージで……よしっ出来たぞ。

 直径5メートルくらいか? まぁこれが限界だな。

 そしたらこれを投げるのか。あの人型の的を目掛けて投げる感じで……


 えい!


 バゴーン! という爆砕音がした。「水球」が的に当たった瞬間に弾け飛ぶようにして飛散し、その衝撃で的も吹き飛んだ。

 初めてやったがこれなら成功だろう。


 「ど、どうでしたか? 合格ですか?」


 周りからの視線がさらに多くなる。

 そしてアングスに視線を移すと、顔が硬直していた。失敗したのか? ここで斬られるのか?

 「無詠唱だと!? しかもその威力。貴様は本当に新人なんだろうな?」

 「はい。今日はそれで冒険者登録をしに……」

 「年齢は幾つだ?」

 

 年齢か。300歳だけど、そんなこと言えないし……

 見た目的に16ってとこかな?


 「16です。先月誕生日を迎えました」

 「それは本当か? 信じがたいが、俺はこの目でその実力をみた。魔族でないのなら、是非とも我がギルドで冒険者をしてもらいたい」


 おお! やったぞ。試験には合格できたようだ。

 でも人間のために働く気は無いけどね。


 「ありがとうございます! ちなみに冒険者って具体的に何をするんですか?」


 実は冒険者が何をしているのかよく知らない。

 魔族を虐殺しているらしいが、そのシステムがよく分かっていない。


 「貴様はそんなことも知らないでここまで来たのか!? だが大切な戦力だ。いいだろう。受付にいたアンナを1日貸してやる。そこでみっちり教えてもらえ」

 

 アンナ? 受付にいた綺麗なお姉さんのことかな? それならちょっとだけ嬉しいぞ!

 「付喪神様! そんな情けない顔しないでください!」

 うわっ。びっくりした。ウィンディか。顔にいきなり水をかけるのはやめてくれよ。


 「分かりました。では僕はこれで失礼しますね」

 「ああ。今後の活躍に期待するぞ」


 

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