第3話:初めての魔法

 「付喪神様はどのような神様だったんですか?」


 僕たちは今、北東にある街に向かっている。ウィンディの話によると、どうやら駆け出しの冒険者が集まる街らしい。

 そしてそんなウィンディは僕の肩に乗っている。


 「僕は道具とかに生命を与える仕事をしてたんだ。人間が廃棄した道具たちが1人でも働けるように手助けしてたんだよ」

 「それは立派ですね!」


 ウィンディは僕をべた褒めしてくれる。今まで落ちこぼれ、とか、使えない神とかしか言われたことなかったから素直に嬉しい。


 「ありがとう。それで1つ頼みがあるんだけどいいかな?」

 「はい! もちろんですよ」

 「僕に魔法の使い方を教えてくれない?」

 「魔法? ですか。あんな大魔法を使えるのに?」

 「あれは僕の元々の技能だからね。使い方はわかるよ。でも「水魔法」とか「火魔法」とかが全然わからないんだ」

 「水魔法なら教えられますよ?」


 そういってウィンディは空中に水の球を作り出す。


 「すごい! それどうやってやるの?」

 「そうですね……大気中の水分を集める感じです」


 早速やってみた。するとかなり大きな水球ができる。


 「おお! できた! できたよウィンディ!」

 「流石ですね。私のより何倍も大きいです」


 その水球は直径2メートルくらいあった。さっきまで何もできなかったのが嘘みたいだ。


 「他の魔法も同じようなの?」

 「そうですね。でも人間だと大体1系統の魔法しか使えないはずですよ?」


 そうなのか。なら僕はだいぶ恵まれているみたいだ。

 これは推測だけど、昔生命を授けた道具たちの特性を受け継いでるんじゃないかな?

 スキル借用でウィンディのももらえたわけだし。


 「僕は5系統使えるよ。水だけレベル3なんだ」

 「5系統!? さすがは神様ですね」


 ウィンディはまた水しぶきをあげる。僕の肩が少し濡れたが気にしない。

 

 「ありがとね。それでさ、スキルレベルってどうやってあげるの?」

 「それは地道な努力ですかね? 私の場合は15年かけて水魔法を1レベルあげました。その後はめんどくさくなってやめちゃったんですけどね」


 15年で1レベルか。そしたら僕は30年分短縮できたことになる。

 でも他の属性魔法も頑張ってレベルを上げないと。


 「やっぱりウィンディーは物知りだね! 助かるよ!」

 「そ、そんな〜。やめてくださいよ〜」


 ウィンディが恥ずかしがって手を頬に当てている。

 そして10センチほどの体から飛び散るぬるい水。僕の右頬が濡れてきた。

 だけど気にしない。


 「あはは。ウィンディがいてよかったよ。1人で不安だったんだ」

 「私も外に出れてよかったです! あ、そろそろ街に着きますよ」


 湖から30分以上歩いてたどり着いた街。

 「ビギナータウン」と書かれた看板が大きな石壁に掲げられている。

 街全体は同じような石壁で覆われていて、まるで砦だ。

 外からだと中の建物の様子なんかは何も見えない。


 「そういえば付喪神様はお金とか持ってますか?」

 「……多分持ってるよ」

 

 そういえばゼウス様がお給料くれるって言ってたけどどこだろう?

 200年分って言ってたからかなりの大金なんだろうけど。

 どこにも見当たらない……って和服の内側に何か挟まってるぞ。

 

 白い硬貨が1枚だけ……

 これはゼウス様に騙されたのか?

 いやでも全能神様がそんなことをするわけが……


 「ウィンディ、このお金ってどんくらいの価値があるの?」

 「そ、それは……」


 ウィンディの体がだんだんと散っていく。そして濡れていく僕の服。

 まだ気にしない。


 「これは?」

 「大金です! すごい大金です!」


 僕の顔がビシャビシャになっていく。少し気になってきた。


 「どんくらい?」

 「そうですね……この800年間湖に投げ込まれたお金の合計の300倍くらいの価値がありますね。大豪邸が5軒は余裕で買えます」


 それは驚きだ。地球だと200年働いても大豪邸なんて1軒も買えなかった。

 どうやらゼウス様はだいぶ奮発してくださったみたいだ。

 ありがとうございます。


 「でもそのお金だと高額すぎて街への入場料が払えません。なので私が出しますね」


 ウィンディは空中に小さな水球を作り出した。

 そしてその球が弾けると同時に銀色の硬貨が4枚落ちてくる。


 「今のどうやったの!?」

 「これは私の特権ですね。パッシブスキルの「水の女王」の効果の1つです。魔法の耐性がない物なら空気中の水分に変えられます。なので実際は色々持ってるんですよ?」


 どうやら僕にはできない芸当らしい。

 なんか異空間から物を出すみたいでかっこよかったのになぁ。


 「そうなんだ。でもウィンディのお金使っちゃっても大丈夫なの?」

 「全然平気ですよ。人間は水を見るとお金を投げ入れる癖があるみたいなのでいっぱい持ってます」


 そういえば地球でも噴水とかに小銭を投げ入れてる人間がいたよな。


 「じゃあ後で返すね」

 「いえいえ。ご心配なさらずに。じゃあこのお金は渡しておきますね。私は身を隠しておきます」

 ウィンディが空気中に溶けるようにして消えていった。

 流石に精霊の姿を見られるのはまずいか……って僕も一応元神なんだけどね。


 そして街の城門に着く。その前には鎧を着た門番が立っていた。


 「あのー。新人の冒険者なのですが……」

 「ん? 見ない顔だが。どこから来た?」


 どこだろう……

 なんていえば……


 「南西の方から来ました」

 「じゃあか?」

 「はい。家族の生活を支えるために1人で来ました」


 上手くいった。理由もしっかりしてるはずだ。


 「そうか。それは感心だ。だがこの辺りにはもうないぞ?」

 「それでも一応このビギナータウンは登竜門だと聞いたので……」


 ダンジョンってのは魔物とかがいるところだよな?

 稼げない? てことは魔物はかなり狩り尽くされてるのかもしれない。


 「そうかそうか。お前の言う通りだ。ならば今回は安くしておいてやろう。銀貨3枚入場料として払っていけ」

 「わかりました……1、2、3、と。これで大丈夫ですか?」

 「うむ。それじゃあ頑張れよ。それと死なないようにな」

 「はい!ありがとうございます」


 なんとか通れたようだ。それにしても魔族の状況は思ったよりも深刻かもしれない。

 バランスが崩れて何が起きるのかはわからないけど、ゼウス様が焦ってらっしゃったんだから大変なことなんだろう。


 そんなことを考えていると門番の人が大きなドアノブに手をかけ始めた。

 ギィー! と古びた扉がゆっくりと開いていく。


 異世界にたどり着いて約1時間。まだ太陽が南中しきっていない頃。

 僕は初めての人間の街に足を踏み入れた。

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