第2話:湖の少女
ドスン! お尻から地面の落ちた。痛かったな……ってそんなのどうでもいいか。
ここは異世界だ!
周りに広がるのは木1つない開けた草原。吹いてくる風が心良い。ビルだらけの東京じゃ考えられないような光景だ。
そして僕の真後ろにある大きな湖。もう少し後ろに転送されてたら落ちてたな。ラッキーラッキー。
せっかくだから人間になった姿を見てみよう。
湖に姿を映せば……って何も変わってないじゃん。
着ている服もそのまま和服だし、男子高校生みたいな外見は全くもって変わっていない。
どうせならイケメンにして欲しかったな……
まぁ見た目は気にすることじゃないな。一応勤務中だし。
確かゼウス様は冒険者ギルドに行けって行ってたよね?
人間の文学に出てくる通りなら街にあるはずだけど……お、北東の方に街が小さく見えるぞ。ってなんで僕は方角が分かるんだ?
……そんなことを考えても誰も教えてくれない。
どうしよう。少し不安になってきたぞ。
そういえば、ゼウス様からメモをいただいたっけか。どれどれ
……読めない。字が汚すぎる。まるで子供の落書きだ。
この二項目が辛うじて読めそうだな。
す……たす?
スタスってなんだろう……ってもしかしたらステータスかもしれないぞ。
性質:神
スキル:火魔法レベル1、水魔法レベル1、風魔法レベル1、
氷魔法レベル1、雷魔法レベル1
固有スキル:
パッシブスキル:スキル借用、異種間交流、主従(主)
おお!ステータス画面が頭の中に!これは昔ゲーム機を助けた時に見たことあるぞ。
色々使えるみたいだな。なんでかは知らないが好都合だ。試しに使ってみよう。
でもどうやって使うんだ? とりあえず「火魔法」を想像してみる。
……難しい。何も出ないぞ。でも少しだけ体があったかい気がする。
だったら「氷魔法」を使えば体が冷えるのかな?
おお! 少し冷えている。やっぱり何かしらの魔法は発動してるみたいだ。
続けて他の魔法も試してみる。だけどそこまで目立つ効果はなかった。
じゃあ次は固有スキルってのを試してみよう。
「生命授与」ってやつは今まで通りの命を与えるやつだよな。
だったらどうしようか……そうか。後ろにある湖で試してみよう。
早速湖の水に向けて手を伸ばす。すると今までと同じような光が手から迸る。
お、水がゼリー状になってきた。もしかして湖全体が変化するとかかな?
ゴゴゴゴゴゴ……なんだかすごい音がしてる気がする。特に僕の手のひらの中で。
恐る恐る手を水から引き上げる。すると手のひらにゼリーのような物体が収まっていた。
「うわっ、なんだこれ」
思わず声に出してしまった。
ぼとん! と音を立てて地面に落ちるゼリー。
すると小さな人型に変形してヒョイっと起き上がった。
「あなたが私に生命を下さったんですか?」
「君は……なに?」
なんとも不思議な体験だろう。水から生まれ出た身長10センチほどの小人の少女と話している。
「私に名前はありません。今生まれたばかりですから」
「え? じゃあ何もわからないの?」
「いいえ。水にも記憶はございます。何百年とこの湖で過ごしていましたからね」
やはり水らしい。でもなんで湖全体じゃなくてこの手のひらサイズの小人なんだ?
「君はなんでそんなに小さいの? 僕は湖全体に魔法をかけたつもりだったんだけど?」
「やはりあなた様の魔法だったのですね。感謝いたします。湖の大部分は私の本体を隠すためのものですので、これが本来の湖の大きさだと思ってください」
ほとんど意味がわからない。だけどこの小さい少女が湖の本体らしいことは分かったぞ。
「そうなんだ。なんとなく理解したよ。でも湖に戻らなくて大丈夫?」
「構いません。もう何百年もこの湖で退屈しておりました。外の世界を見てみたいのです」
そうか。じゃあどうしようか。
僕が連れて歩くべきか?
でも本人の意思は尊重するのが神の役目だし。
「じゃあ君はどうしたい?」
「出来ることならあなた様と一緒にいたいです。お邪魔はしないので、どうか」
「分かったよ。じゃあ僕が外の世界を見せてあげる。だけど僕もこの世界に来たばっかりだから何も知らないんだけどね!」
僕がそう言う、突如、ビチャ! と音を立てて少女の右腕を形成してた水が弾け飛んだ。
「だ、大丈夫!?」
「す、すいません。少々驚いてしまいました」
そう言いながら右腕を再形成していく少女。
「その腕は戻るんだね?」
「はい。いくら特殊でも元となっているのは水なのでいくらでも操作可能です。この姿も自由に変えられます」
すると少女の姿が小さな犬に変わった。
「おお! すごいすごい!」
「そうですかね? ありがとうございます」
そしてまた少女の姿に戻る。
「それで、あなた様は一体何者ですか? 見た目は人間なようですが……」
「僕は付喪神だよ。地球って所にいた神様だ。でも今は人間らしいけどね」
「神様……ですか。アスカルシスの神は1200年前に滅ぼされたと聞きましたが?」
「僕は異世界から来たんだ。不在の神様の代行ってとこだね。それで今から冒険者ギルドってとこに行かなきゃいけないんだけど、どこにあるか分かる?」
「この先にある街に一軒ありますよ。そこまで大きくはないらしいですけど」
水の少女はとても物知りのようだ。これは助かる。
にしても神の歴史まで知ってるとは。意外と偉い少女なんじゃないか?
「そうなんだ。助かるよ。それで、名前がないって言ってたよね?」
「はい。人間は湖の精霊と呼びますが……」
精霊!? 地球にはいなかったっけか?
大昔に絶滅したって聞いたことはあるぞ。
「でも名前じゃないんだよね?」
「はい。宜しければ私の名前をつけてくださいませんか?」
精霊に名前を付けるのか……
僕はそんなに偉い神様になれたのかな?
でも頼まれてるんだから付けてあげないと。
水の精霊だから……無難にウィンディーネとかでいいかな?
「分かった。じゃあ君の名前はウィンディ……」
そう言った瞬間に激しい頭痛がした。
神様だった頃は病気なんてしなかったから、人間になって病弱になってるのかな?
「ウィンディ、とてもいい名前です! ありがとうございます」
あ、まぁ気に入ってるみたいだからいっか。
ウィンディでも聞こえはいいしね。
にしても今の頭痛はなんなんだ……
ステータスに状態異常とかが書いてあるかもしれない。
性質:神
スキル:火魔法レベル1、水魔法レベル 3、風魔法レベル1、
氷魔法レベル1、雷魔法レベル1、水操作レベルMAX
固有スキル:生命授与
パッシブスキル:スキル借用、異種間交流、主従(主)
状態異常じゃないみたいだ。でも「水魔法」のレベルが上がって、「水操作」ってのが増えてるな。どうやってゲットしたんだろ?
「ねぇ、ウィンディは……」
ウィンディの顔を見た瞬間に、ステータス画面が頭に浮かんでくる。
個体名:ウィンディ(精霊) レベル25 MP150
性質:魔
スキル:水魔法レベル2、水操作レベルMAX
パッシブスキル:水の女王、主従(従)
こ、これはウィンディのステータスか……
僕にはないレベルとMPがあるな……しかも性質も違うし。
それに「水操作レベル」がMAXってことは僕がこのスキルをもらったってことか?
パッシブスキルの「スキル借用」はもしかしたらこう言うことなのかもしれない。
だとすると発動の条件は……
「どうしました?」
「いや。なんでもないよ。でもなんか体に変化とかなかった?」
「特にはないですけど、私のステータスに「主従(従)」が加わりましたね。どうやら付喪神様の従者となったようです。全然構わないですけどね。ふふふ」
ウィンディは少し嬉しそうに笑う。にしてもステータスってのは普通なんだな。僕だけの特権かと思ったのに。
「ウィンディは僕のステータス見れる?」
「見れませんよ? 普通は見えないですよね?」
見えないのか。じゃあそこだけは特殊らしい。でもさっきまでは見えなかったからきっと「主従」のスキルのおかげなんだろうけど、
「僕にはウィンディのが見えてる。念じれば消えるけど、見たいと思えば見えるんだ」
「へー。それじゃ主従の主の特権なんでしょうね。私は見られても大丈夫ですよ?」
「ダメな人とかもいるんだ?」
「そうですね。人間だと特に嫌う人が多いそうですよ? なんでも人間の「聖」の性質同士だと特殊な方法でお互いのステータスを見れるそうで……」
人間が「聖」? なんとも皮肉な性質だ。
まぁでも一応気をつけておいた方がいいよな。
少しの間人間の中に混ざらなきゃいけないわけだし……
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