付喪神(ツクモガミ)が異世界転勤をして魔族の守護者になるそうです
朝の清流
第1章
第1話:転勤先は異世界!?
「君に生命を与えよう。これからは自分の意思で生きなさい」
目の前がキラリと光る。
光を発しているのは市街地の電柱の下に不法廃棄された旧型の掃除機。
ガタガタ、ガタガタ。旧型らしい音を出しながら掃除機は動き始める。
だけどコンセントには繋がっていない。
「ありがとうございました、
「いえいえ。これが僕の仕事だから」
そう。これが僕の仕事。
人間によって捨てられてしまった道具に命を与えること。
そして道具たちにもう一度働くチャンスをあげること。
日本神連盟東京都支部所属。
人間と意思疎通が出来ない者たちを助ける役目を授かった。
いつもお気に入りの白を基調とした和服を着て、日本の神らしい短めの黒髪。
みんなは僕を付喪神と呼ぶ。
◇◇◇
旧型の掃除機に命を与えた後もまだ仕事は残っている。
次の行き先は先週廃校になった小学校。
たくさんの道具たちが僕を待っている。
「に、人間が憎い!俺を捨てやがった人間が憎いぞ!」
「復讐のためなら僕は命を与えられないよ?」
僕は動物や道具の言葉を理解できる。
そうじゃないと仕事にならないからね。
でもこの黒板消しのように人間を恨んでいる道具たちも沢山いる。
はっきり言うと僕もそこまで人間は好きじゃない。
300年近く人間から捨てられた道具や動物たちを救ってきて、人間がいかに傲慢かを思い知らされてきたからだ。
それでも争いになるようなことはしない。
それはアレス様みたいな戦神様たちの管轄だからね。
「付喪神様。支部長が呼んでたにゃよ?」
「ありがと。黒猫」
黒猫たちは神の使い魔だ。
でも人間たちに気づかれるから緊急用にしか使わない。
どうやら急用みたいだ。
「黒板消し。僕は急用で行かなくちゃいけないんだけど。どうしたい?」
「……復讐はしません。だからこれからも働かせてください」
そして僕は黒板消しに手をかざす。
光に包まれた黒板消しはすぐに動き出した。
「ありがとうございました。感謝します。付喪神様」
神との誓約は絶対だ。
たとえそれが口約束だとしても破ればその場で天罰が下る。
だから言質が取れればそれだけでいい。
さて、本部に戻らなきゃいけないのか。
本部は東京都庁。ある場所に神用の入り口がある。
霊感の強い人間がたまに迷いこんで来るけどまだバレてはいない。
でもできることなら行きたくない。
僕は神としてまだ若いから、ほとんど下っ端だ。
だから本部に行くとすぐに雑用を押し付けられる。
そしていつもダメ神と呼ばれて……
はぁ。考えるだけで気が沈んでくる。
◇◇◇
「付喪神!遅かったじゃないか!」
「すいません支部長」
毎度のように頭を下げる。
支部長は雷神様だ。
いつもビリビリしていて、怒ってない時がないように見える。
でも天候を司る偉いお方だ。
「今日はお前に会いたいと仰っている方がお見えになっておる。分かったらさっさと応接室に行ってこい」
「了解しました。失礼いたします」
支部長が尊敬語を使うような客人か。
もしかしたら日本総括の天狗様とかかもしれないな。
そうだったらサインとか欲しいな。
ガチャリ。失礼にならないようにゆっくりと扉を開ける。
ちなみに神の間でノックは禁止だ。
妖怪の中にノックして誘ってくる奴がいて、それの対策としてのルールらしい。
「失礼します…………え?」
「よく来てくれたぞ!妾は嬉しい!」
目の前にいたのは身長130にも満たない幼女だった。
身につけている洋服が紐みたいに面積が狭い。隠すとこだけ隠してる感じだ。
「す、すいません。失礼ですが、どちら様ですか?」
「えぇ!妾のことを知らぬのか!?」
「はい。存じ上げておりません……」
これは恐い。雷神様がもてなすぐらいの客だから相当地位の高い神様なんだろうけど……
「妾は全能神のゼウスじゃ!よく覚えておけ!」
「あ、あなたがゼウス様ですか!?」
全能神ゼウス様。
地球上全ての神をまとめる地球神連盟の代表だ。
それがまさかこんな幼女だったなんて……
「その通り!妾の可憐な姿を拝めてラッキーだったな!」
「は、はぁ……」
ゼウス様は腰に両手を当てて満面の笑みで僕を見てくる。
憧れてたゼウス様がこんな容姿だったとは……いや。見た目で判断するのは良くないな。
「突然で悪いんだが、お主に頼みがあって来た!」
「た、頼みですか?僕なんかど底辺の神ですよ?」
「そんなことを言うんじゃない!お主が適任だと思ったから130年ぶりに外出したのだぞ?」
130年ぶりの外出……
どうやら全能神様は引きこもりなようだ。
「僕なんかを選んでいただき、ありがとうございます」
「うむ。まだ何も伝えてないのにいい姿勢だ。やはりお前にしてよかったぞ!付喪神!」
ぜ、ゼウス様が僕の名前を……
感動だ。生まれてから一番嬉しいことかもしれない。
「それでな、お主には転勤してもらいたい」
「行き先はどちらでしょうか?」
ゼウス様の頼みだ。どこへでも行こう!
「アスカルシスという場所じゃ。聞いたことあるかの?」
「いや、存じ上げないですね」
「それなら更に都合がいい。ではお前は今からアスカルシスへ転勤じゃ!」
「ちょ、ちょっと待ってください。説明をしていただけませんか?」
するとゼウス様はぷくーっと頬を膨らませた。
「いいから行くのじゃ!妾の頼みが聞けないのか?」
神様のお仕事は人間のようなブラック企業じゃなかった……はずだよな?
「わ、分かりました。行きます。行かせてください!」
「うむ。その返事を待っておった。ならばアスカルシスについて説明してやらんでもないぞ」
行くのは確定か〜。まだ小学校での仕事が残ってるのに。
「お願いします」
「うむ。アスカルシスというのはザックリいえば別の世界じゃ。ただ少々問題があっての」
「問題とは?」
「それが管理者が1人もいないみたいなんじゃ。そのせいで世界のバランスが崩れかけておる」
「神様がいないってことですか?」
「そうじゃ。この世界は地球と違って魔族と人族に分かれておるんじゃがの、どうにも人族が強すぎるようなのじゃ」
魔族と人族か。昔、人間の文学で読んだことがあるぞ。
だとすると人間でも魔法が使えたりするのかもな。
「魔法もあるんですか?」
「ああ。あるらしいの。でもそんなことは些細な問題じゃ」
そういってゼウス様は僕を指差す。
「お主の役目はこの世界のバランスを元に戻すこと。200年契約じゃ」
「200年もかかるんですか!?」
「それはお主の働き次第じゃな。だが給料は前払いにしておく。向こうの世界の通貨にしてやるから安心せい」
200年分の給料が一括で!?
それはなかなか魅力的だ。でも待てよ、なんで僕なんだ?
「そんなに大変な問題ならゼウス様が直接解決した方が良いのでは?」
「そうもいかんのじゃよ。確かに妾が行けば10年くらいで終わるだろう。でも世界間には神の不可侵条約があってな、神は世界を渡れないのじゃ」
「だったら僕は大丈夫なんですか?」
「うむ。お前はまだ若い。だからまだ擬人化できるはずじゃ」
擬人化?そんなことは聞いたことがないぞ。
「どういうことですか?」
「これから妾がお主を人間としてアスカルシスに送り込む。だからお主は向こうの世界では人間じゃ」
人間になるのか……。
「でもそれなら他の若い神でも……」
「ああ、説明してなかったな。お主のその能力が欲しい。おそらく魔物という輩は道具と同じような性質をしておる。動物と話せるだけじゃダメみたいじゃ。だから魔族を助けるにはお主が適任なんじゃ」
そうか。バランスを戻すってことは魔族を助けるのか。
よくある物語と逆で少し複雑な気分だが……しょうがない。
「理解しました。改めて、僕を選んでいただいてありがとうございます。その任務、全うさせていただきます」
「うむ。ではすぐに転送するぞ。できる限り街の近くに下ろしてやるからな。着いたらまずは冒険者ギルドに行って情報を集めてくるのじゃ。他のことはこのメモに書いてある」
ゼウス様はノートの切れ端のようなメモをくれた。
「分かりました」
「うむ。じゃあ検討を祈るぞ」
体が光に包まれていく。着いたらゼウス様に連絡しよう。
これから異世界か。向こうの景色が少し楽しみだな。
次第に目の前からゼウス様が消えていく。
「行ってきま……」
「あ、言い忘れとったが、こっちの世界と連絡はできないから、自力で頑張ってくれ。頼んだぞ、付喪神!」
あ、これは着いた瞬間に迷子になるやつじゃないか?
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