第48話 姫のナイトになる その1

 マキちゃんは我慢できなくなったのか、短パンのボタンを外しファスナーを降ろすと、その場でストンと脱いでしまった。当然下半身はパンツだけとなる。


 ……大人が穿いているようなデザインの白いショーツだった。1歳なのに体が14歳になった分、もうとっくにオムツは卒業したのか。卒業がいくら何でも早すぎる。これではオムツ中退ではないか……。


 頭の中が目の前のパンツのように真っ白となり、固まったままでいると、見かねた母親がマキちゃんの手を引いてトイレまで連れて行く。


「あらあら、マキちゃん。イケメンの前でパンツなんか出したら恥ずかしいでしょ」


「かわいーパンツを見てもらうの!」


 羞恥心のない少女は、母親に勝るとも劣らない美尻を惜しげもなく披露しながら、一旦リビングを退場する。目の遣り場に困った秋水は、心に引っ掛かったワードを照れ隠しのごとく口にした。


「そんな……。イケメンだなんて……、本当に初めて言われたかも」


 秋水は自身の能力がレベルアップしたように、ルックスやスタイルまでもが向上したのか気になり始めた。そわそわして髪をいじると、付近に鏡でもないか見回す。

 

 暫くすると母親が戻ってきて一瞬、ニヤッとした。それを見て『ちょっとまずいぞ』、と秋水は思ったのだ。何だか彼をからかいたくなる衝動に火が付いたのだろうか。何せ母親は秋水と外見的には同い年に見えるが、中身は26歳の人妻なのだから。


「ふふふ、秋水君。何も外見ばかりがイケメンの条件って訳じゃないのよ。行動を含めた全ての要素で……、そうね! その人が醸し出す雰囲気って言うか、トータルで男前って事も十分あるのよ。ねぇ、マキちゃん! お兄ちゃんカッコいいよね!?」


「うん、ママ! 秋水にーたんカッコいい!」


「そ、そうですか……」





 その後マキちゃんにせがまれて、近所の公園まで一緒に遊びに行く事にした。母親はその間に夕食の準備をするそうだ。


「秋水にーたん、滑り台に行こう!」


 中学生カップルに見える2人が、仲良く一緒に滑り台を滑っている。こんなに遊具は小さかったのかな、と秋水は思った。

 辺りには同じように超常現象で大きくなった幼児達が無邪気に遊び回っている。この中でお父さん、お母さん(あるいは祖父か祖母?)そして、誰が子供であるのか、見た目には区別がほとんど付かない。たぶん走り回って泥だらけになっている方が子供なんだろう。


「きゃあ! 虫! にーたん助けて!」


 見ると冬場なのに、弱った蜂がマキちゃんの上着に止まっている。


「冬眠に失敗したのかな? 可哀想に」


 手の平の内に蜂を包むと、優しくクスノキの幹に逃がしてやった。


「ありがとう! 秋水にーたん」


 マキちゃんは飛び込んでくるように秋水に抱き付いてきた。結構背が高いので、彼の鼻先に髪の毛が触れ、柔らかな胸の膨らみと体の暖かみが伝わってくる。

 何だか妙に父性本能が刺激されて、彼女をずっと見守ってやりたくなってきた。そう、姫を守るナイトになった気分だ。思わず彼女の肩を優しく抱いた。


 その時、まさかの女子2人組に声を掛けられた。


「……えっ! 秋水! その子は誰!?」


 美少女と抱き合っている最中に、非常にまずい連中に見付かった。幼馴染みの寺島行久枝だ。寒空の下、ジャケットを脱いで白のノースリーブブラウスにデニムのパンツをお洒落に穿いてやがる。隣にいる水色フリルブラウスにフレアスカートの娘は、珍しい私服姿のティケ=カティサーク様だ!


「ええ!? ティケに行久枝ちゃん! 何でここに!?」


「それはこっちの台詞よ~」


 2人で遊びに行った帰りなのだろうか、手には黒い粒入りのミルクティーか何かのカップが握られている。疲れて公園で一休みといった感じか。


「いや、誤解しないで欲しい! これには事情があるんだ。女の子と公園で抱き合っているのは、色々と訳あってこうしているのだ!」


 焦れば焦るほど、マキちゃんが秋水の首に手を回してギュッと密着してくるのだ。


 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る