第35話 女子バレーボール部員


「はあ、はあ、何が何だか、さっぱり分からん……。秀島先生ってあんな人だっけ? 酒でも飲んで酔っ払ってるのか?」


 秋水は薄暗い廊下をひた走り、自転車置き場を目指した。不思議と誰にもすれ違わない。

 右手にはまだ先生のパパイヤだかマンゴーの感触がリアルに残っている。着ていた上着を頭から被せられたので、香水の残り香も仄かに鼻腔を刺激してくる。

 このまま逃げるように帰宅して何事もなかったかのように振る舞いたかったが、鞄を教室に残したままである事に気付いた。

 もう屋外に飛び出していたが、帰り支度の後輩達の列をすり抜けて、再び教室の方へと向かうのだ。


「何だぁ、秋水? そんなに焦ってどうしたの?」


 予定外の人物に出会った。女子バレーボール部員らしい格好をした寺島行久枝である。袖無しのユニフォームの上にスローガンの入った部員共通のTシャツを着ている。下はゲームパンツを穿いており、サポーターを含めて、まるで試合の途中で抜け出してきたかのようである。


「あっ! 行久枝ちゃん。助けてくれ! さっき先生に……」


「え? 先生って、誰の事?」


「……いや、何でもない。大丈夫、多分何かの間違いだから……。ふう~、何だか今日は疲れたよ」


「あんた、どうしたのよ? 独りでバタバタして変だよ。ひょっとして……まさか……!?」


 寺島行久枝は怪訝そうな顔をして、つぶらな垂れ目を秋水に向けてきた。それにしてもバレーボールウエアを着ていると、やけに格好良く魅力的に映るものだ。


「べ、別にまたバケモノが現れたって訳じゃないんだけど。いや、ある意味バケモノか。それはちょっと失礼に当たるかな……」


「見ていると心配になるくらい取り乱しているわね。いいわ、ちょうどいい。一緒に帰らない?」


「へ? いいの、行久枝ちゃん? そりゃ構わないけど……」


「制服に着替えてくるし、ちょっとついて来てくれない?」


 彼女に言われるがまま、体育館近くの更衣室まで2人で歩いて行った。何ゆえか部活動の時間帯なのに不思議と人っ子一人いない。普段なら体育館から元気な掛け声とか、ボールを弾く音やら、シューズが床に擦れる音などが、目一杯ここまで響いてくるはずなのに。


 疑問に思いながらもバレー部の女子更衣室前まで来ると、行久枝は一旦引っ込んで、また出てきた。そして茶目っ気たっぷりに笑った。


「いいから来なさいよ! 今誰もいないようだし」


「ちょっと待って! ヤバいよ! ヤバいって!」


 全力で拒否ったが、バレー部で鍛えた瞬発力で腕を引っ張られ、秋水はズルズルと中に引き摺り込まれる。

 ――コイツ、こんなに力があったんだ。やっぱ普段から鍛えておかなくっちゃな……と思いつつ。


「おいおい、誰かに見られたりでもしたら、僕の中学校生活が終わっちまうよ! 同窓会まで覗き魔として後ろ指を指されちまうよぉ!」


「まあ、まあ、まあ!」


 寺島行久枝は強引に秋水を女バレの更衣室まで引き込むと、両手を合わせて秋水に頼み事をした。


「ゴメン、秋水! ちょっとだけ、ちょっとだけでいいからさ……」


「何だよ、マジで勘弁してくれよ!」


「実は……! 試合前のハードな練習で足腰がヤバいほどの筋肉痛なのよ。短時間でいいから揉みほぐしてくれない?」


 そう言い放つのが早いか、行久枝はタオルをベンチに敷いた後、どかっと俯せになった。シューズを履いたまま膝を折り、体育会系らしいプリッとしたお尻を左右に振って秋水に催促した。


「ささ! どうか、ひとつお願いします~」


 秋水は軽く頭痛がして目眩を覚えたが、幼馴染みの願いを聞き入れるべく、仕方なしに行久枝の言葉に従う事にした。


「上に乗っかっちゃってもイイよ!」


 何だか腹が立ってきたので、秋水は行久枝の膝の裏あたりに馬乗りとなり直座りした。


「きゃ!」


 怒りに任せて彼女の長くて綺麗な生足を両手で掴んだ。

 紺のゲームパンツから伸びる太ももは、鍛えられて弾力があり、正にツルスベだった。


「ちょっ! もっと優しく……、いやもっと強く」


「どっちなんだ!」


 秋水は絶妙な加減で揺らすようにマッサージした。


「痛い! くすぐったい! あはは!」


 組んだ両腕を枕に寺島行久枝は、上半身をリラックスさせた状態で悶絶する。


「やかましい! これでどうだ!」


 つい腕を伸ばして行久枝の盛り上がったお尻をパン生地のように捏ねまくった。


「いやぁ……! ……もっと」


 柔らかなお尻を揉んでしまっても怒られるどころか、ウットリとしていた。……予想外の反応にビビる。分厚い短パンの上からでも穿いているショーツの形が、くい込み具合と共に分かってしまった。


「秋水……、もっと上の方……、腰の方もお願い」


 汗ばんだ行久枝は左手でシャツをずらすと、シミ一つない背中を晒した。更に右親指で短パンをずらすと、お尻の割れ目まで惜しげもなく披露してしまったのだ。


 西田秋水は緊張で息を詰めると、頭の中が真っ白になってしまった。


 

 

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