第7話 Bad Morning


 ライム色の爽やかな朝を迎えた頃、枕から頭をもたげた秋水はベッドに独りで寝ていた。

 右手を眼前に持ち上げ、見つめた後に閉じたり開いたりしてみる。どうやら体は自由に動くようになったみたいだ。


「夢……だよな。やっぱり……夜更かしのしすぎで疲れていたのか?」


 時計で時間を確認した後、上体を起こしてボーッとした。

 静かすぎる部屋を見回しながら、漫画的な展開が起こる事を予想して身構えたのだ。


『おっはよ! 秋水。よく眠れた? 寝顔にちょっとだけ悪戯しちゃった!』


 ……などと言いながら、ティケがドアを勢いよく開けて登場するのを期待したが、そんな事は起こらなかった。

 秋水は、ふらふらとダイニングに向かい、両親の様子を確認した。


「おはよう。あなた昨日お風呂にも入らずに、そのまま寝ちゃったでしょう。服ぐらい着替えなさいよ」


 そう言う母親は……昨晩と同じローティーンの姿だった! お節介な小言は、変身前と全く変わらなかったが。

 若い頃に着ていたカラフルな服をタンスの奥から引っ張り出して、普段着にしていると思われる。

 秋水は愕然として、朝なのに目の前が暗くなった。


「典子さん。次の休みの日にでも服を買いに出掛けないか? 今持っている服じゃ、どれも合わなくなったんだよ」


 同級生にしか見えない父親は、そう言いながらトーストを囓り、湯気の立つコーヒーを飲んでいた。昨日の奇跡を報じる新聞の記事を真剣に読み込んで、全てに目を通している最中。

 悪夢なら覚めて欲しかったが、もはや現実と認めざるを得ない。


「とりあえず秋水から服を借りたらいいじゃないの。父さんは今風の若い子が着る服が似合いそう。そう思うよね、秋水?」


「……勝手にしろ!」


 3人のギクシャクとした朝食が終わると、父親は何事もなかったかのように出勤していった。スーツは流石と言うか、夜の僅かばかりの時間を使って母親が仕立て直していたのだ。


 秋水も洗面所へ行き制服に着替えると、登校する準備を整えた。


 スリッパをパタパタと鳴らしながら、靴を履きかけた息子を見送る少女がいる。


「秋水、色々と混乱してるかもしれないけど、気にせず頑張ってね」


「ああ……」


 同い年となった若い母親の言葉を胸に、秋水は玄関を出てマンションのエレベーター方面に向かった。




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