過未の目

AuThor

過未の目

「やっと休日だ」


五河正一(ごかわせいいち)は玄関のドアを開けて家に入る。


大学の講義を受けた後、夜までアルバイトで働くのが正一の平日だ。


ワンルームの家の中は物が散乱しており、掃除していないことが丸わかりである。


どこに何があるのかわからないほど物が入り乱れた部屋だが、電気をつけると正一は異変に気付く。


「は?」


部屋の中央にあるテーブルを凝視する。


いつも何かしら複数の物が載っているはずのテーブルの上に赤色と黒色の2つの封筒だけが置いてある。今朝までテーブルに置いてあったはずの物が乱暴に薙ぎ払われたように全て床に落とされている。


「誰か家に入ったのか!?」


正一は恋人もいなければ、合鍵を誰かに渡した記憶もない。家賃も親からの仕送りで毎月しっかりと振り込んでいる。正当な理由で部屋に入ることができる人間に心当たりはない。


慌ててテーブルの上に置いてある赤い封筒を手に取って中身の紙を取り出し、文面を読む。


【あなたは過去と未来を見ることができる才能が三日前に開花したため、『過未の目』を手に入れる方法を伝える。『過未の目』とは右目で過去の事象、左目で未来の事象を見ることができる目である。視聴済みの映像を用意し、左目を閉じて右目だけでその映像を早戻しで5分以上見た後に、右目を閉じて左目だけでその映像を早送りで5分以上見ることで『過未の目』を手に入れることができる。片目を閉じた状態で早戻し・早送りをイメージすることで『過未の目』は発動する。】


「……いたずらか?」


正一は文面を読み終わり、もう一つの分厚い黒い封筒を手に取り中身を見る。


「マジかよ!?」


黒い封筒の中に入っているものを見て、正一は息をのむ。


中身は大量の1万円札が入っていた。


正一は即座に札束の枚数を数え始め、全部で100万円あることを確認する。


黒い封筒の中に入っていた紙の文面を読む。


【いたずらではなく、その証として100万円を差し上げます。】


「確かに空き巣はお金を置いていかないよな……」


正一は赤い封筒に目をやる。


俺は何かとんでもないことに巻き込まれたような気がする。

正一はベッドで横になり天井を見つめた。



翌朝、正一はDVDを借りるためにレンタルショップに向かって歩いていた。


あれから一晩考えてみたけど、やっぱり過去と未来を見れるとか、そんな漫画みたいなことができるわけないとは思う。だけど時給100万円だと思えば、騙されたと思って試してみてもいいとも思える。


「才能か……」


俺はこれまで一度も自分に何かの才能があるとか思えたことがない。事実これまで平坦な人生だった。何かで優れた成績を残せたわけでもなく、活躍したことも一度もない。


「だいたい三日前に才能が開花したって何だよ? 何も特別なこと起こった記憶はないぞ」

そうぼやきながら、2年前に観た映画のDVDをレンタルして、家に帰る。


そして、テレビの再生プレイヤーにDVDをセットして手紙に記されたとおりに映像を早戻し・早送りで見終わる。


「これで片目を閉じた状態で早戻し・早送りをイメージすればいいのか? 確か右目が過去を見る目だから……」


正一は左目をつぶり、右目だけで目の前のテレビを見つめて、早戻しをイメージする。


すると目に映る景色がみるみる変わっていく。DVDを再生プレイヤーにセットする自分も一瞬映る。


「うわっ!!」


正一は驚き、思わず左目を開く。その瞬間、通常の視界にもどる。


「……嘘だろ」


急いでベランダに出て、外の景色を右目だけで見て早戻しをイメージする。


すると4階のベランダから見下ろした景色が早戻しになって見える。DVDを借りて家に帰っている自分も一瞬見えた。


「ありえないだろ……」


今度は右目をつぶり、左目だけで4階からの風景を見る。


早送りのイメージをすると、景色が次々と移り変わっていく。


すぐに救急車と消防車が続けざまに下の道路を走るのが見えたので、右目を開いて両目でしばらく景色を見ていると、サイレンが聴こえ、左目で見たとおりに救急車と消防車が続けざまに下の道路を通過する。


「……間違いない。未来を見たんだ。こんなことができるなんて」


「右目は過去を見ることができる『過去の目』。左目は未来を見ることができる『未来の目』」


正一はそうつぶやくとベッドに倒れこんだ。


3時間後、正一は街中にいた。


マンションの下の道路は人の通りが少なく変化に乏しいので、もっと過未の目を試すため人通りの多い街中に来ていた。


土曜日ということもあり、人の往来も多く、正一は外の景色が見えるカフェに入り、席に座って右目をつぶり、未来の目を試す。


手前の大きなビルに設置されている大型ディスプレイを見て、超速で早送りして未来を見てみる。10年先の日付が視界に入ったところで、右目を開けて未来の目を解除する。


簡単に10年後の未来も見ることができる。


そして、再び右目をつぶり、未来の目で低速の早送りをイメージして目の前の通りを眺める。


あ! 今、宮北さんが目の前を通ったような気がする。映像、もとに戻せないかな?


正一は早戻しをイメージすると、未来の映像は早送りから早戻しに切り替わり、同じ大学のゼミの宮北佐奈(みやきたさな)が歩いている姿が見えた。そこから早戻しのイメージをやめると通常通りの速度で宮北が歩いている映像が見える。


なるほど。未来の目は、未来に限っての映像であれば早送りだけでなく、早戻しで見ることができるし、通常速度で見ることも可能なんだ。


正一は右目を開き、未来の目を解除して、しばらくの間、景色を眺めていると、宮北が目の前を通過する。宮北は正一に気づいていないようでそのまま通り過ぎていった。


今度は左目をつぶり、過去の目を発動して、宮北が通りすぎる直前まで映像をもどし、何度もリピートして好きな女の子が通常速度で目の前を通る姿を見直す。


「やっぱり可愛いな」


宮北の可愛さを確認すると同時に、過去の目も未来の目と同じように、過去に限っての映像であれば、早戻しだけでなく、早送り、通常速度で見ることも可能であることを確認する。


正一はテーブルの上に置いた腕時計をまめにチェックしながら早戻し・早送りのスピードの調節に慣れようとする。


最初は速度調節が難しかったけど、何度もやってるうちに慣れてきたな。


時間を確認しようとすると、テーブルの上に置いてあるはずの腕時計が消えたことに気づく。


あれ? 腕時計が消えた。


すると、腕時計をした自分が目の前を通り過ぎるのが見えた。


ああ、店内を出たんだ。今から1時間後にカフェから出るということか。じゃあ今、俺が店内を出たらどうなるんだろう? 未来を変えるってことだよな。


正一は試しに店内を出てみるが、何も変化はない。さっきまで自分が座っていた席を未来の目で見てみるが、そこには肥満体型の人が座ろうとする姿が見えた。未来の目を解除すると、未来の目で見たとおりに正一がさっきまでいた席に肥満体型の人が座る。


そっか。未来を変えたら、その変化に応じた未来が展開されるんだ。


あれ?


正一は過去の目で先ほどまで自分がいた映像まで早戻しする。左目だけを開けてこちらを見ている自分が見える。その自分に手を振ってみるが、左目を開けて席に座っている自分は無反応だ。


……あの席に座ってる自分が見ている未来の映像は、さっき席に座っているときに俺が見た未来を変える前の映像なんだ。


過去の目のまま目に見える映像を早送りし続けると、やがて席に座っていた自分は立ち上がり、さっきまでの自分とまったく同じような動きで店内から出て、今いる自分と同じ位置に立ち、手を振って、やがて早送りが止まり、通常状態の速度にもどる。


過去の目で見ることができるのは、過去から現在まで。早送りで見る映像は現在の時間に到達したら、通常速度になるってことか。


過去の目で見る映像は、すでに起こった出来事だから絶対に変化しない。

でも、未来の目で見る映像は、未来を知った自分の行動によって変化したりすることもあるということだ。


宮北さんは休日どんなふうに過ごすんだろ?


正一は過去の目を使い、宮北の後を追うことにした。


しかし、左目を閉じた状態で過去の映像を見ながら過去の宮北の後をつけているので、現在の映像が見えなく、何度も人にぶつかったり、交差点の信号機が赤であるのに、過去の映像から青だと勘違いして車に轢かれそうになったりした。


ちょっと、不便だな。過未の目を使いながら動くのは注意しなくちゃいけない。でも、人の秘密を見ているみたいでなんだか高まる。今の俺、ストーカーみたいだな。


そして、過去の目の映像が早送りできなくなったことで、現在の時間にもどったことを把握する。宮北は喫茶の席で一人コーヒーを飲んでいた。

正一はそこから未来の目を使い、宮北がお店から出てきた未来の映像を見て、宮北の歩いている後をつけてみる。


5分後、駅をすぐ出たところにある交差点の横断歩道に差し掛かったところで正一は立ち止まり、未来の目を解除して両目で信号を見る。現在の信号は赤で、青に切り替わった瞬間に未来の目で宮北が横断歩道を歩いて渡る続きの未来の映像を見る。


次の瞬間、正一は息をのむ。


宮北は信号無視した暴走車に跳ね飛ばされたのだ。


地面に横たわり大量に出血している宮北の近くに正一は駆け寄る。宮北のすぐ側で彼女の携帯に着信が入っているのか光が点滅している。


宮北の無残な姿を正視することに耐えられず、正一はすかさず未来の目を解除する。


「宮北さんは10分後に交通事故に遭う」


絶対に阻止しなければ!!


正一は未来の目で繰り返し暴走車が横断歩道に突っ込んでくる時間を確認した後、横断歩道の場所で待機する。


すると、老婆が近づいて来て尋ねてきた。


「あの、ワクドナルドというお店はどこにあるかご存知です?」


今、それどころじゃないんだよ!


正一はワクドナルドの場所を把握していたが説明するのが面倒くさく、案内することになるのを恐れ、「すいません。俺もわからないです」と答える。


「そうですか。ありがとうございます」と老婆は言い、駅の中に入っていく。


事故発生1分前になったところで身構える。


絶対に助けてみせる!


しかし、事故発生30秒前になっても横断歩道で信号が青になるのを待っているはずの宮北が現れない。


あれ? 宮北さんが来ない……


事故発生2秒前になった時点で車の大きなブレーキ音が聞こえ、暴走車が横断歩道を信号無視して駆け抜ける。

その暴走車に驚いた人たちは非難の声をあげる。


そして、その1分後に宮北が携帯電話で誰かと通話しながら駅の中から現れる。


「そう、さっき道に迷ってるおばあちゃんにワクドナルドはどこかって聞かれて場所を教えたら、紙袋みたいなのお礼にくれて、お菓子って言ってたのに、あとで中身見たら千円札だけが1枚入ってたの。返しに行った方がいいと思う?」


宮北はそのまま横断歩道を渡っていった。


正一は宮北の後姿を見つめる。


……さっき俺がおばあさんを道案内しなかったことによって未来が変わったのか。

俺が未来を意識的に変える前に、未来は変わっていた。

たぶん宮北さんが交通事故に遭うのを俺が知った時点で、その未来は変わったのかもしれない。俺が見たあの悲劇の未来は、未来の目を使って俺があの悲劇の映像を見なかった場合の未来だったんだ。


つまり、未来の目で未来を知れば、俺の行動もそれに応じて変わり、未来の目で見た未来も大きく変化する場合もあるってことだ。

だとすると、未来の目ってあんまり役に立たないな。

未来を知っても、その未来を知ったことで、また大きく未来が変わることもあるってことなんだから。


正一は自宅に帰り、考え事をしていた。


この過未の目を有効に使う方法として、何があるだろう?


正一は、はっと気づいたようにテレビをつける。


番組をニュースに切り替え、未来の目を使う。2時間後に震度5の地震速報が流れる映像を見る。


そして、生中継の野球の試合にチャンネルを切り替え、未来の目で見る。5分後にバッターがホームランを放ち試合終了の結果を確認する。


正一は未来の目を解除し、野球の試合を見ていると、5分後にバッターがホームランを放ち、試合の結果も未来の目で見たとおりになる。


2時間後に他県で震度5の地震が発生したという緊急速報がテロップで表示される。


自分の行動が影響しないような未来の出来事や地震など災害のような人為的なものによらない未来の出来事は、未来の目で見たとおりになると考えていいだろう。


未来の目を使って災害などの予知能力者として活躍できるかも?


でも、いったい誰が何の目的で俺にこの能力を教えたんだろう?


待てよ。俺が過未の目の会得方法を教えてもらったみたいに、他の誰かも同じように教えてもらってるんじゃないか?

もしそうなら、どうなる? 漫画みたいに同じ能力を持った者を邪魔に思い、その存在を抹消しようとする輩や生き残りを賭けたゲームとかに参加させられるんじゃないのか?


正一は真っ青になる。


冗談じゃない!! 殺し合いなんてまっぴらだ。


予知者とかになって活躍でもすれば、特定される可能性が高まるだろう。だとしたら、この能力は大っぴらにしない方がいい。

でも、起こる悲劇を知っているのに、それを見て見ぬふりするようなことはしたくない……。

どうにかして目立たないように多くの人を救える方法はないか?


翌日、正一はニュースを未来の目で見ていた。


正一の左目には連続爆発事件のニュースが映っている。


最近、全国各地で多発している連続自爆事件だ。


事件の詳細は何の前科もないごく普通の一般人が人通りの多い場所で自爆するという事件が多発している。


自爆した人間の動機がまったく見合たらなく、爆発物に関しても入手経路が判明せず、警察の捜査も難航している。

爆弾はポーチに入れられるサイズの小型で広範囲に爆風を起こす最新の爆弾が使われていることから、爆弾をもった人間の判別も困難で防ぐ手立てがない。

その爆弾はおよそ一般人が手に入れること、作ることができるものではない高度なものなので、国家レベルの支援が絡んでいるのではないかと専門家は指摘している。

自爆した人の爆発直前の行動には不審な点が多く、防犯カメラの映像からも焦って人通りの中に走り込む姿が映し出されているため、何者かに脅されて自爆したのではないかという意見もある。


「この爆発事件、真相が気になるな」


正一は、ふと気づく。


俺、この事件の真相を明らかにできるかもしれない。


翌日、正一は大学の講義を休み、直近の爆発事件のあった場所の近くに立っていた。そこで自爆した人はスーツ姿のサラリーマンだ。過去の目を使って、その場所の過去の映像を見る。爆発があった過去まで遡り、そこから自爆したサラリーマンを早戻しで追跡していく。


すると、少し離れた場所でサラリーマンが強面の男に詰め寄られている映像を見る。映像を見ているだけなので、声は聞こえず、現在の音しか耳に入ってこないが、映像から言いがかりをつけられているように見える。


そして、正一は目撃する。強面の男がまくしたてて、サラリーマンの注意が男に集中している隙に別の利口そうな男性が地面に置かれているサラリーマンの鞄の中に爆弾を仕込んでいるところを。


真犯人はこいつらだ!!


真相を知ったことにドキドキしながら過去の映像を見続ける。


正一はその一部始終と何度か再生し、爆弾魔の手法を把握する。


爆弾魔は2人組の男であり、強面の男が突然十字路の角から出てきて、サラリーマンにぶつかり、持っていたお土産品が入っているような袋をわざと地面に落とし、サラリーマンに物凄い剣幕で怒る。その隙に利口そうな男が爆弾をサラリーマンの鞄に仕込み、強面の男がサラリーマンにお土産を買いに行かせ、人通りの多い場所にあるお土産屋さんに向かう途中で起爆するというような手法をとっていた。


正一はその日、自宅に帰り、ベッドで横になる。


「過去の目を使えば、未解決事件や難事件を解決できる究極の正義のヒーローになれる」


「でも、警察内で有名になれば、どんなことに巻き込まれるのかわからない。だいたい過去の目で知り得た情報をどうやって警察に説明するんだ?」


「だけど、犯罪が起こるのにそれを見て見ぬふりなんて俺にはできない」


「……じゃあどうすればいい?」


正一は独り言をつぶやきながら眠りにつく。


それから正一は大学を休み、過去の目を使って、2人の爆弾魔の過去の行動を遡っていった。


2人の爆弾魔は慎重に行動しており、防犯カメラのない場所を調べ、数週間前からその場所を通るターゲットとなる人間を決め、その人間の行動や人間関係なども調べあげ、証拠を残さないように空き家であるアジトを転々と移動しているようだった。


正一はスタンガンを購入した。


警察の協力は得られない。爆弾魔を野放しにしておこうとも思えない。

だったら俺が成敗するしかない!!


過去の目を使って爆弾魔の現在のアジトは特定済みだ。


未来の目を使えば未来の事件からもっと簡単にターゲットなる人やアジトを把握できるかもしれないけど、未来を見て爆弾魔の行動を先回りした行動を自分がすることで、その未来が変わる可能性もある。未来の目を使うなら、自分が無事に犯人を拘束できるかどうか計画実行の直前に使うのがベストだ。


爆弾魔が単独で行動するときを狙い、一人一人スタンガンで身動きをとれなくして、ロープや本格的な手錠で拘束する。その後、警察に匿名で通報する。


爆弾魔を拘束する前に警察にアジトを通報したところで、信じてもらえるかわからないし、過去の目で以前のアジトでの様子を見れば、自分たちのアジトにも爆弾を仕掛け、万が一の場合に遠隔でアジトを爆発させ証拠を隠滅できるように準備しているところも把握済みだ。

だから、俺が爆弾魔を動けないように拘束したうえで、証拠が残っているアジトを警察に匿名で通報する。アジトから2人が出てきているところもビデオカメラで撮影済みだから、それで爆弾魔を逮捕できる。


爆弾魔を捕まえる計画を実行する日になり、正一は爆弾魔のアジトの近くで息をひそめて待つ。アジトから少し離れた暗がりの場所で待機している。


未来の目を使って、爆弾魔が単独で出てきたところを自分がスタンガンで痺れさせ、同じようにもう一人も拘束して、2人並べて身動きがとれない状態にしている未来が見えた。


大丈夫なはずだ!


正一は自分にそう言い聞かせ、腕時計を見て構える。


いよいよ、時間だ!!


まず爆弾魔の一人である強面の男がアジトから出てきた。

強面の男が翔一の隠れている場所を通過しようとしたとき、正一はスタンガンを男に当てる。


「がっ!」


強面の男は地面に倒れ込み、正一は間髪入れずスタンガンを男の足や腕に当てたりして、手錠やロープを使い、拘束して大声を出されないようにガムテープで口を塞ぐ。


そして、しばらくしてもう一人の利口そうな男がアジトから出てくる。

強面の男と同じように正一が身を潜めている位置を通った瞬間、正一はスタンガンを利口そうな男に当てる。


「あっぐ!」


利口そうな男はその場で倒れ込み、正一は強面の男と同じように拘束する。


「やった!」


正一は勝ち誇ったような表情で爆弾魔2人を見下ろす。


爆弾魔はロープで縛られ、ガムテープで口を塞がれた状態で鈍く光る眼光で正一を見ている。


あとは警察に匿名で通報すれば終わりだ!


正一は携帯を取り出して110番をプッシュしようとする。


「……」


携帯の番号を押す指が止まる。


「……何で、あんなことしたんだよ」


正一は利口そうな男を見据え、つぶやく。


利口そうな男は目元から笑っているように見える。


正一は利口そうな男の口を塞いでいるガムテープを乱暴にはがす。


「何であんな事件を起こしたんだよ?」


「……まさか、こんなガキに捕まるとは思ってもみなかったな」


「質問に答えろよ」


「俺の2つの質問に答えれば、答えてやるぜ?」


利口そうな男は薄ら笑いを浮かべる。


「言ってみろよ」


「どうやって俺たちを爆弾魔だと特定した? どんな方法でアジトを把握した?」


「……おまえたちの犯行現場を偶然見かけて後をつけた」


「それはないな。犯行時は細心の注意を払ってる。こんな拘束の方法からして、警察の協力がないことも明らかだし、おまえ単独での行動であることもわかる」


「言っても信じられないだろうね」


「本当のことを言わなければ、こっちも質問には答えないぜ?」


「……過去と未来を見る目を手に入れたから、爆発現場から過去を遡って、おまえたちを爆弾魔だと特定し、アジトも把握した」


「まじめに答える気はないんだな?」


「おまえたちは前回の犯行当日の朝に栄養ドリンクを2本ずつ摂取していた。部屋の中の金庫の暗証番号は37564」


利口そうな男は虚を突かれたように驚いた表情を見せる。


「へえ……」


「そんなありえないことが人間にできるのか……。どうやってそんな目を手に入れたんだ?」


「質問には答えたはずだ」


「まあ、そうだな」


「俺の質問に答えろ。どうしてあんな事件を起こした?」


「スリルを与えたかったからだよ」


「は?」


「今この世界の人間に不足してるのはスリルだ」


「まがいもののスリルじゃなく、本物のスリルによる楽しさを知る人間が少なえ」


「連続爆発事件にいつ自分が巻き込まれてもおかしくねえ状況はスリル満点だろ?」


「いらねえよ。そんなスリル」


「そうか? 俺は本物のスリルが必要だな」


「他人を巻き込むな。自分の中だけで完結させろよ」


「言ったろ。スリルを与えたかったんだよ、自分にもな」


「?」


「こういう事件を起こすことで俺たちを必死で捕まえようとしてくるやつもでてくる。捕まったら俺たちに待っているのは死だ。そんなやつらと命がけの勝負をすることはスリルを味わえると同時に楽しくもあるだろ?」


「意味わかんねえ」


「おまえは未来を見たんだよな? だとしたら、捕まえた俺たちは意識を失っていたか? いや、おそらく、こうやって話しているところまでしか見てねえんじゃねえのか?」


「!?」


「言ったよな。捕まったら俺たちに待っているのは死だと。それは死刑という意味じゃねえぞ。ロープと手錠で動けないようにしたから、ガムテープで口を塞いだから、もう安心だと思ったのか?」


正一は急いで未来の目を使う。


「うわっ!!」


未来の映像を見た正一は驚き、爆弾魔から離れようと駆け出す。


利口そうな男は不敵な笑みを浮かべ、必死に逃げようとする正一を見てつぶやく。


「果たして青年の運命は如何に?」


次の瞬間、爆弾魔2名の体が爆発し、轟音・豪風が巻き起こり正一は吹き飛ばされる。


噴煙が舞う中、正一は地面に横たわって倒れていた。


俺……死ぬのかな。体が動かない。自分の血が地面に流れているのが見える。全身が痛む。


正一は徐々に意識が霞んでいく中で思う。


未来の目は、自分が死んだ後の未来も見ることができるんだ。10年後の未来を見たことで、自分があたかも10年先もあたりまえに生きていると思い込んでた。


「これから誰かの役に立てると思ったのにな……」


正一の意識は眠るように途切れた。

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過未の目 AuThor @Tojo-creator

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