第9話 前世宇宙×現世宇宙

 ――――新約歴2020年。

 マクナマラは、この前世宇宙で何度も目撃した光景を見る。


 宙域にまるで水滴でも自然発生しように、細かな粒が現れる。

 粒同士は寄せ集まり大きな玉となり、玉同士も集合して行く。

 それを繰り返して行くうち、大きな水晶のような塊にまで成長すると、それは巨大なスライムへと変わった。

 いや、”元の形”を取り戻した。


 ついぞ、USSゴルディアースの主砲により掃射されたヨグソトースの無数の群れは、あっという間に戦闘が始まる前にまで修復された。


 絶望的な光景はこれだけでは終わらない。

 同じく母艦の主砲で、眩い光を放ち砕けたヨグソトースの母星は、一点に収束し次第に不気味な突起を四方に伸ばした、

 形を取り戻した惑星は、再び不気味な金平糖のような形になり、透けた中心核が怪しい光を取り戻した。

 マクナマラは人型兵器バルカヌスのモニター越しに、呆然と見つめることしかできない。


 フェアじゃない。

 こっちは死んだ戦友達は帰ってこないのに、敵は死すら覚えない連中なんて。

 俺達についているのは、神の加護じゃなく死神だ。


 マクナマラは前世宇宙に来る前のブリーフィングで、メル博士が言った言葉を思い出した。


 ――――前世宇宙を崩壊させる方法は一つ、その時空にエントロピーを持ち込むことです。

 そうすることで、エントロピーが増大していき、破壊と死の概念が前世宇宙に生まれます。

 前線で戦うあなた達の死すらもエントロピーを増大させる。

 そうすれば、いずれビッグバンが起き前世宇宙が消え去り、新たに現世宇宙が誕生します――――。


 俺達が死ぬことすらも、世界誕生につながるのか……あまり光栄には思えない。

 それは死ぬまで戦えと言っているようなものじゃねぇか。

 

 虹色に輝く宙域。

 七色の波を立たせる宇宙。

 金平糖のような歪な突起を出し、中心核から妖艶な光を放つ惑星。

 死を知らぬケロイド状の生命体。


 いつ終わるともしれない、前世宇宙と現世宇宙との戦いは、まだ始まったばかりだ――――…………。






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