第8話 宇宙の矛盾と崩壊

 マクナマラは関心しながら言う。


「功罪? そりゃまた……哲学的だ……」


「地球には自然のサイクルがあります。生まれ死にゆき、汚れた土地を洗い流して新しい生命の為に土台を作る。それは宇宙にも当てはまります。現にこの宇宙はビックバン以降、緩やかに広がっていますが、この数年、広がりは止まり人間が観測できるほど急速に縮小しています」


「我々の宇宙が消滅しかかっているんですか?」


「はい。ビッグバウンスにおける”世界の死”が始まっているのです。宇宙が万物の矛盾をただそうと、この宇宙をゼロに戻し、再編しようとしている。私達、人類が行った歴史再編と同じように……」


「わかりませんな。歴史再編が起きる前から、前世宇宙はあったのでないですか? なら自然とビッグバンは起きて、現世宇宙が誕生するのでは?」


「最初に言った通り、ビッグバン宇宙論は不完全な理論です。どのような形で宇宙の爆破が起きたかはわかりません。本当に前世宇宙が永遠に続くかはわかりませんが、少なくとも現世宇宙は今、死にかけています」


「なら、どうしようもないでしょ?」


 メル博士は口ごもり、言いづらそうに語る。


「これは、あくまで私の理論ですが、私達、人類の歴史再編も万物の宇宙には織り込み済みで、人間が前世宇宙にさかのぼることを、強制されているのかもしれません」


「強制?」


「現世宇宙に生きる生命が、前世宇宙を滅ぼしビックバンを起こして、新たな万物の循環サイクリックを生むように決まっていた……私はそう推測します」


「そんなバカな……信じられない」


 兵士達から聞こえるのは、不安と懐疑的な声。

 「危険すぎる」や「命を懸けてまでやることかよ」の他「地球に戻ってこれるのかよ?」と口々に漏らす。

 話に区切りがつくと、メル博士は金髪の髪から見据える青い瞳で、ブリーフィングに集まった兵士達の顔を一人一人見た後に付け加える。


「これから、あなた達が行く世界は、私達の常識が通用しない未知の世界。ワンダーランドと言っていいほどです。ですが今、私達が生きる宇宙は危機に瀕しいます……命を懸けて、新世界に飛び込む意義はあります」


 他の兵士が勢いよく手を挙げて言う。

 彼は不安をつまびらかにするように「エントロピーがないなら、前世宇宙で我々は不死身ですか?」と聞いた。


 メル博士は少々は言いにくそうに答える。


「前世宇宙と現世宇宙とでは、摂理が違がいます。これは、無機物と有機物くらい差があり、両物質は同じ空間に閉じ込めても相容れることはありません、同じ時の経過をたどっても……」


 しびれを切らしたマクナマラがつっけんどんに聞く。


「博士! 誰も理解してねぇよ? 簡単に言ってくれ。死ぬのか? 死なないのか?」


 彼女は意を決して、送り出すように兵達に伝える。


「――――死にます。我々の生命活動はエントロピーが基本にあるため、別次元に存在しても死を克服できないのです」


 その場にいるすべての兵士達は、押し黙ってしまった――――。

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