第6話 マクナマラとメグ・メル博士

 今から2年前、新約歴2018年、現世宇宙における地球。


 人類救済計画の名の元に、地球圏から優秀な人材が集められた。

 ノーベル科学賞を受賞した科学者や、世界シェアを独占する企業の代表。

 そして軍人。

 

 軍隊の高官に計画の具体案が検討された後、各軍事基地に、その概要が説明された。

 マクナマラが小隊長に任命された日のことだった。

 自分の預かる小隊のコールサインを、格好よく「ギルガメッシュ・騎士ナイト」と名付けるべきか、呑気に考えていた。

 所属する大隊に召集がかかり、皆、バルカヌスの格納庫ドックでブリーフィングをおこなった。


「人類救済計画……まるでクラシックSFだな?」


 クリスタルの席に着くマクナマラは、部下にそうぼやく。

 彼は気乗りしなかった。

 せっかく非番をもらい、帰省しようとした矢先の緊急招集だったからだ。


 しかし、そのボヤキをすぐに撤回した。


 大隊長に紹介されたゲストは、歩く姿に気品がにじみ出る麗しき女性。

 白衣をまといタイトスカートから足を露出するゲストは、むさくるしい室内に花をそえ、鳥のさえずりのように声を発する。

 

「人類救済計画の研究員を務めます、メグ・メルです。こちらの大隊の担当を務めますので、どうぞよろしく」


 金髪の髪は毛先まで輝きを放つ金の糸のようで、青い瞳はダイヤがひまわりのように咲いているようだった。

 ワイングラスのように細いあご。

 グロスで塗られた唇はなまめかしく、魅入られてしまう。

 マクナマラは隣に座る部下を肘で小突くと、声を潜めて言う。


「ドっストライク! マサチューセッツ工科大学を出た教授だって聞いたから、ツルツル頭のおっさんが来るかと思ったけど、こりゃ悪くねぇぜ」


 潜めたつもりがまる聞こえだったのか、大隊長の雷がマクナマラに落ちる。

 彼は反省の色を見せると、背筋を伸ばしてしゃんとしてブリーフィングに臨む。

 それはメル博士に聞こえたようで、彼女はこちらを蔑視した。

 眉をつらせた後、メル博士は本題に入る。

 特殊相対性理論と量子力学の相関から始まり、第11次元の可能性と現宇宙における影響。

 光速度不変の原理に関する新たな解など、とかく退屈な話が続いた。 


 よくいるよなぁ、こういうの……自分の知識が周囲もわかってると思いこんで、ただただ好きに話を進める人。 

 もう眠い……。


 マクナマラが正気を保つ自信を失いかけた時、彼にも理解できそうな話に入った。


「私達の宇宙はビッグバンから生まれたという説が有力ですが、あくまでも仮説の一つにすぎず、他の可能性も捨てきれません。本計画は”ビッグバウンス”の仮説の元に成り立ち、それを証明する上でも推し進められた計画です」


 彼の耳は俊敏に音を察知、ウサギのように耳をそばだてる。

 もう一度耳を凝らし、彼女の電波的話を受信しようと試みた。


「ビッグバン以降、宇宙は広がり続け、そのまま膨張して行き空間を永続的に拡大して行くとされています。しかし、広がり続ける空間にある恒星や惑星は、いずれ死を迎え消滅し宇宙は最終的に空っぽの暗黒世界になりますが、空間自体には重力や粒子の流れが残ります。その作用が働き、やがて強い重力が空間を縮めて宇宙を1点に集めてしまう」


 日常に置いての常識からかけ離れた抗弁に、兵士達はただただ唖然と聞くしかない。

 メル博士の講義は山場に差し掛かる。


「1点に凝縮された宇宙は力を貯めておけず破裂。再びビッグバンを起こすとされ、宇宙は風船のように膨張と収縮を繰り返す仮設を、ビッグバウンス宇宙論と呼びます。つまり、私達の宇宙が誕生する以前にも”前世宇宙”が存在した考えられます」


 昔、大学で面白い話だったから、よく出た講義の内容だ。

 これは美女にお近づきになれるチャンスだ。

 さも話が通じる男だとアピールせねば!

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