第5話 死神が嫌う戦場

 「ゴルディアース」とは、古代の予言により選出された平民の王。

 王になった際、牛と木をヒモで縛り付け「この結び目を解いた者が次の王になる」と宣言した。

 誰もこのヒモ解けず数百年悩ませるが、ある時、アレクサンドロス大王が解けないヒモを、剣で一刀両断。

 悩みの元を断ったことから、手に負えないような難問を、誰も思いつかなかった大胆な方法で解決しまうことの比喩として、「ゴルディアスの結び目」と呼ぶようになった。


 USSゴルディアースの下腹部から、煙で燻され巣から飛び出した蜂のように、増援部隊がやって来た。


 虹色の宇宙を埋め尽くすほどの、無数の人型兵器バルカヌス。

 魚の群れがきびすを返すように、一糸乱れぬ編隊は日々の訓練のたま物だ。

 バルカヌスの集団は目の前を覆う、敵集団を攻撃。

 脅威を遠ざける。

 その光景を見たマクナマラは、座席に沈み溜息を漏らしながらボヤく。


「また命拾いしたぜ……」


 コックピットに、人工知能からの緊急通信が入る。


『宙域で戦闘を展開する残存機へ。これより旗艦による"主砲"を発射します。攻撃に巻き込まれる危険を避ける為、本艦へ帰投せよ』


「潮時だな……小隊諸君! 本部から聞いたとおりだ。速やかに撤退せよ!」


 マクナマラ機がひるがえし、USSゴルディアースへ進路を向けると、親鳥についていくひよこのように、4機のバルカヌスが付いてくる。


 小隊が安全圏まで後退すると、他の部隊や援軍も同じく集合し、我先にと母艦へ戻る。


 三度入った通信が警告すると、USSゴルディアースの先頭から剥き出しになった砲塔が、唸りを上げて光線を掃射する。

 空軍部隊の粒子砲とは比べ物にならないくらいの光量だ。

 光線はまばらに散る敵を消し去ると、金平糖の形をした敵の母星へ向けて一直線に進む。

 主砲の光線が敵の母星に到達すると、しばらく注力。

 その後、主砲が途切れると、数分後に金平糖の惑星中心部が不気味な光を放つ。

 その光は徐々に広がっていき、金平糖の惑星を内側から吹き飛ばした。


 超新星爆発かと見舞うほどの眩い光。

 まるで宇宙誕生の奇跡を目撃しているようで、神秘的な光景だ。

 しかし、その光景を美しいと思う者は、誰一人としていない。

 何故ならその光は、また不変的な戦場を作り、さらなる地獄へ兵士達を追いやるからだ。


 光の拡散は瞬時に収まり、散り散りになった破片は惑星が存在した場所に、ゆっくりと集まっていく。


 その不気味な光景を見ながら、マクナマラ小隊長は過去を懐かしむ。


「やっぱり来るんじゃなかったぜ……前世宇宙なんて」

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