かみさま2

 翌日は、雨が降っていた。

 しとしとと止むことなく続く雨だった。

 こんな日でも、黒樹は店を開けている。客が来ることは、いつもより少ない。だから、黒樹の機嫌はよかった。

 午後3時、コーヒーを飲む黒樹は、美しい微笑みを浮かべて、正面の窓から雨の路地を見つめていた。

 そして、ゆっくりと目を閉じる。

 静かな空気を感じながら、ゆったりとした時間を楽しんでいた。

 楽しんでいた、のに――――。

 黒樹は、眉間にシワを寄せ、ため息を付いた。

 リンと重たい鈴の音がしたのはその後で、控えめな声とともに、男が一人入ってきた。

「……すいません、今、いいですか?」

「どーぞ……」

 渋々受け入れて、黒樹は、椅子に座り直した。男とともに入ってきた人物を睨みつけた。

「おかえり、楓」

 いつもより低い声、いつもより冷たい瞳、それに臆することなく、男の後ろから入ってきた楓はニコリと笑った。

「たーだいま、黒樹」

 黒樹の不機嫌を正面から受けてなお、楓は非常に機嫌がいい。

 楓は一緒に来た客を黒樹のいる丸テーブルへと案内して、自分は黒樹の後ろに回る。

「昨日話した、迷子になってたお客さん連れてきた」

「宣伝しなくて結構だって言わなかった?」

 二人のやり取りを、オロオロと聞いていた。

「あの、すいません。都合が悪かったですか?」

「いや、」

 それでも面倒だという声をして、黒樹は答えた。

「君は悪くない。僕の不機嫌の全ては、ここにいる楓に向けてるものだから」

 楓は、黒樹の不機嫌を構うことなく、コーヒーメーカーからコーヒーをカップ2つに淹れ、一つを客の男に差し出した。

 男は、「すいません」と言ってカップを受け取った。

 黒樹は、彼が一口飲むのを待ってから、口を開いた。

「捜し物はなに?」

「…………かみさまを探しています」

「一応聞くけど、なぜ?」

 興味はまったくないという顔を、黒樹は隠しもしなかった。

「どうしても、叶えたいことがあるから」

「まったく……どうしてここにくる客は、あ、いや、違うな。楓の連れてくる客は、こういうのが多いかなぁ」

 楓は何故か得意げな顔をしている。

 そうでなくても、ここに来る客は、普通ではさがせないモノを捜す客が多いのだ。

「お前じゃないと無理だと思うから、ここに連れてくるんだろ?」

 需要と供給だと、楓は続けた。楓はここに来る客にいつも興味津々だ。今日も例外ではない。

「なぁ、叶えたいことってなに?」

「楓、勝手に話しかけない!」

「はーい」

 黒樹は、しばらく男をじっと見つめた。

 若い男だ。

 年はおそらく、18から20といったところだろう。

 気の弱そうな空気はあるが、頑固な面も持っていると思われる。そうでなければ、「かみさま」を探してまで叶えたいことを抱えていない。

 しかし、どこにでもいる普通の男だ。少なくとも、そう見える。

「わかった。特別に見てあげよう」

「ホントですか?!」

 黒樹がニヤリと妖しく笑う。

「あぁ。君の『かみさま』が、何処にいるか、だね?」

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