第6話

かみさま

「かみさま、かみさま…………ねぇ、かみさま…………」

 小さな呟きは、すぐに空中に消えていった。



 メインストリートをひとつ奥に入ると、すぐに入り組んだ路地に繋がる。この街の路地はまるで迷路だ。

 そんな細い路地の先に、ひとつの店があった。店舗と住居とがひとつになっている小さな平屋の建物だ。

 扉脇にはオレンジの灯りをともすのランプ。

 ランプが点っていると扉についている小窓にぶら下がる札が「OPEN」を知らせる。その札には、他に注意書きがされていた。


『闇の在処については、お答えいたしません』


 路地をいく人の姿があった。青年というには幼く、少年というには大人に見える男の姿だった。ここがどこなのかわからなくなっているのか、眉を曲げ、辺りを窺っている。

 ため息をついて項垂れたその時、明るい声が近づいてきた。

「お兄さん、迷ってます?」

 男の優しい声だった。

 助かったとばかりに顔をあげると、そこには、茶色い髪と同色の瞳を持つ、そこそこの背丈の男がいた。声と同じに明るい雰囲気を纏わせていた。

「あ、あぁ……迷ってます。店を探していて。この辺りかと思ったんですけど」

「どういう店ですか?」

「あー……でも、時間が……」

「捜し物が目的なら、この先ですよ」

「……この先」

 繰り返して、言われた先を見つめる。

「……明日にします。ありがとう」

 去っていく探し人を見送って、男はにこりと笑っていた。

「いつでもどうぞ」

 辺りは薄暗くなっていた。

 探し人と別れた男は、先程自分が示した場所へと向かう。

 しかし、店の入口の扉には「CLOSE」と書かれた札が内側からかかっていた。

「え、早くない?」

 仕方ない、と、男は来た道を少しばかり引き返して、玄関に回った。

「ただいまー」

「偉いじゃないか、かえで。ちゃんと玄関から入ってきたね」

 おかえりより先に、中にいた少年に意味ありげな笑みを向けられて、かえでと呼ばれた男は、あからさまに不機嫌になった。

「がっちり鍵かけといて言うセリフ?」

「いつまでも学ばないからだよ」

「せっかく客がいたのに」

 残念と言う響きに、少年はクールな表情を返す。

「宣伝しなくて結構」

「商売するやつの言うセリフ?黒樹こくじゅは無欲というか、」

「というか、なに?無欲だよ。楓と違ってね」

「迷子だったんだよー、いつもみたいに。もっとわかりやすいところにしたら?」

 黒樹は、深いため息をついた。

「目立ちたくないのに、表に出ていってどうするの?」

 楓は眉を曲げて宙を睨んだ。黒樹の思考がわからない。

「考えなくていいよ。どうせわからないから。それより、今日の食事は楓が作るんだけど。そっちを悩んでくれる?」

「それなら、食べに行こう!」

「却下」

「えー。美味しいお店があるのに!行こう、黒樹!」

「出かけない。作って」

 黒樹の眉間に、深い深いシワが刻まれていた。

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