第5話

おそうじ

この国には、「闇」がある。「闇」と呼ばれる不思議な力が。誰も、見たことも触れたこともない。

しかし、それは確かに存在するのだ。



 料理はできる。

 買い物も、何故かおまけをもらうくらいにはこなせる。

 洗濯も、もちろん、掃除もできる。

 かえでは、何においても、広く浅くが基本だった。

 見た目は、「かるい」とよく言われた。それを否定できないくらいに、よく言えば、人付き合いがよい。来る者は拒まないし、去る者は追わない。わりと積極的なほうだし、落とすと決めたら必ず落とす。

 

 それが、楓だった。


 最近、それに変化があった。

 寝起きする場所も、その時々で変わっていたのが、一定になったのだ。

 それは、街の広い通りを入っていった路地の奥にあった。

 主は、黒樹こくじゅという少年だ。正しくは、少年のように見える、なにか。黒い髪と黒い瞳を持つ、クールな雰囲気を持つ少年だ。

 彼は、そこで、魔術を使った捜し物の情報提供をしていた。

 楓の帰り道は、いつも同じ。複雑で細い路地を歩き、店舗側の扉から中に入る。

 今日も、その通りにするつもりだった。

 商店街で、お手伝い程度の仕事をして少しの収入を得て、帰路についたところだ。

 楓は、数m先に見える現在の我が家を前に、神妙な顔つきで立ち止まった。そして、じっと行く先を見つめたあとで、来た道を引き返す。

 住居スペースの方から帰ることは、めったにない。

 そっと中に入り、扉を締める。

「おや、おかえり、楓」

 同じタイミングで、店側から黒樹が入ってきた。

 何故か、楓の笑顔は引きつった。

「た、ただいま」

「珍しいじゃないか、ちゃんと玄関から入ってくるなんて」

「悪い予感がして」

 黒樹は、盛大なため息を付いた。

「野生の勘ってヤツ?流石だね」

「なに?」

「さっきまでいた客、捜してたよ、楓のことを」

「一応聞くけど、なんで?」

 楓の問いに、黒樹は、冷たい目で楓を見つめた。

「自分の胸に聞いてみて?」

「……はい」

 巻き込まないでほしいと、ぼやきながら、黒樹はテーブルについた。それを目で追いながら、楓は気になることを尋ねる。

「情報を提供しちゃったの?」

「したよ。仕事だもん」

「まーじーでー?」

 泣きそうな声をあげると、黒樹は、ニヤリと妖しく笑った。

「まぁ、もう覚えてないだろうけどね」

 一瞬、反応に遅れた。

 黒樹は、他人にはまるで興味を示さず、関わろうとしない。

 それなのに――――。

「美味しい夕飯が食べたいなぁ」

 感情がこもっていない声が聞こえた。

 楓は、先程までのバツの悪さと罪悪感がすっかり消えていくのを感じた。

「承知しました」


 ここには、不思議な暖かさがある――――。


捜し物承ります。ーおそうじー:END

   

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