第3話

捜し物屋

 この国には「闇」がある。「闇」と呼ばれる不思議な力が。

 誰も見たことも触れたこともない。しかし、それは確かに存在するのだ。


 この店は、細い路地を進んだところにある。小さな店、昼間でも灯っているランプの明かりが目印で、木の扉についている小窓には小さなカーテン。内側から窓にぶら下がる木札には、注意書きがあった。


ー『闇の在り処については、お答え致しません』ー


 店の主人は、小柄な少年だった。黒い髪がきれいに切りそろえられたショートカットで、大きくはあるが感情のまるで見えない黒い瞳をしている。

「なぁ、黒樹こくじゅ

 呼ばれたのが、彼の名前だった。

 彼を呼んだのは、かえでといった。そこそこ背の高い、明るく優しい顔つきの男で、この店兼住居に居候している。

「なんで黒樹は、捜し物屋なんてやってんの?」

 二人は今、店の丸テーブルにて、コーヒーブレイク中だった。

「じゃあ、聞くけど、なんで楓は働かないの?」

「うわぁ、やぶ蛇だった……」

「そもそも、『捜し物屋』ってなに?」

「捜し物屋だろ?」

「僕はなにも捜しません。捜し物をしてる人を面白いなぁって眺めてるだけ」

 一人に情報を提供すれば、噂は勝手に広がった。

 ここに来れば、捜しているものを見つけてくれる、と。

「面白いって思ってたのか……」

「思わなきゃ、やらないよ」

 小さく「なるほど」とつぶやいたものの、楓はまだわからないという顔をしていた。

 見つからないなにかを「捜す人」がいて、手を差し伸べる黒樹がいる。この場合、手を差し伸べてはいるが、善意なのか甚だ疑問だ。

 そこまで考えて、唐突に納得をした。

「面白がる、の面白いなのか。なぁ、一番おもしろい客ってどんなやつだった?」

 黒樹は、顔色も変えず、「そうだなぁ」と考える素振りをした。

「いつだったかな。ここを占いか何かと勘違いしてる男が来たことがあった」

「えー、そんなの珍しくないだろ?」

「それがね、」

 黒樹が、妖しく目を細めて笑う。

「その男は『運命の人』を捜してたんだよ」

 ニヤリと笑った黒樹の言葉を聞いて、楓は顔を赤くしてむくれた。

「俺じゃねーか、それ……」

「まったく、『運命の人』じゃなくて仕事を探したら?」

「あーもー!……ホント、やぶ蛇だった!」

 悔しげにコーヒーを啜る楓を見て、黒樹はフッと小さく笑った。

「で、教えてくれないわけね、ここで店を開いた理由」

「しつこいよ、楓は」

 扉の鈴が、りんと鳴る。客が来た。

 楓が椅子をあけて、黒樹は目を細めて笑った。

「いらっしゃい。捜し物?」

 

 ここでは、魔術を使って捜し物の情報提供をしている。

 ある日、この街にやってきて、ここに店を開いた――――『運命の人』が見つかる気がして。



END

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