ゆめのつづき4

 話し終えて、黒樹こくじゅは、ゆめを振り返った。

「このお伽話に、ハッピーエンドはない。漆黒の剣の力は、暴走する。ヒトを、傷つける存在だ。だから、闇と呼ばれる力は、誰も見たことがないんだよ」

 この世に存在してから、孤独以外を知らない――――それが、漆黒のつるぎだと、そう語る黒樹こくじゅの顔は、悲しみと寂しさとに満ちていた。

いちの願いは、孤独なこの話を語って聞かせてもらうこと?キミなら、わかっているんじゃないの?強い繋がりを持っていたんだから」

 ゆめは、涙を拭った。

いちの願い……」

「最後のお願いくらい、聞いてあげたら?じゃあね」

 黒樹こくじゅは、踵を返し、墓地をあとにした。

 かえでもそれに続く。

「なぁ、黒樹こくじゅ、最初からわかってたの?あの子が、何を捜しているのか、とか、それが、もういないこととか……」

 墓地を出て、家へと歩きながら、かえでが、黒樹こくじゅの背中に尋ねた。

 黒樹こくじゅは、振り返りもしない。

「当たり前。僕を誰だと思ってんの?」

「だーから、探してって言っても、ヤダって即答してたワケか。それにしても、まさか故人を捜してるとは思わなかった……」

「あの子は、片割れの死を受け入れられなかった。ずっと、死んでないって思ってたんだ。だって、自分がここにいるのに、どこへも行くはずがないって、そう思っていたんだよ。だけど、いつもなら感じるはずのもう一人の気配は、どこにもない」

「そりゃそーだ」

「捜せば、どこかにいるって、それだけ強い繋がりだったんだよ。僕には、理解できないけどね」

 ふと、黒樹こくじゅが立ち止まる。彼は、通りの先を見ていた。

かえで、あの子と会ったのは、あの店の傍だろう?」

 そこにあるのは、ゆめが最初に店に来た時に、かえでが買ってきていたアイスクリームの店だった。人気店のため、常に行列ができている。今日も、十数人が並んでいる。

「え?!お前、そんなことまでわかるの?!」

 素直に驚くかえでに、黒樹こくじゅは、呆れたようにため息をついた。

「双子の弟が言ってたの。そのくらい予想してみたら?」

「あぁ……」

「父親がよく買ってくるんだって。弟くんは、ここのバニラアイスが好きらしくて。だから、あの子は、本当はチョコ味が好きなのに、バニラ味をもう一つお願いして、自分に少しだけくれるんだ、って」

 それは嬉しそうに、いちは語っていた。

 平らげるまでに時間がかかり、最後は、いつも溶けかけていると。

「よし!買って帰ろう」

 かえでが、黒樹こくじゅの手を取り、問答無用で店の列へと連れて行った。

「並ぶなら、一人で並びなよ。僕は帰る」

「だーめ。俺は決めたんだ。お前に、孤独以外の人生を教えてやる」

「…………うっとうしい」

「ハハッ。覚悟しとけよ?」




 この国には、闇がある。

 手にすれば、何でも願いが叶うのだという、不思議な力が。

 誰も手にしたことはなく、触れたこともない。

 しかし、それは確かに、存在するのだ。




 漆黒の剣は、孤独な存在――――その、はずだった。


ー第1話:ENDー ――――and to be continued……

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