ゆめのつづき3

「ほら、この先に、キミが捜してるものが待ってるよ」

 手を差し出す黒樹こくじゅを、ゆめはじっと見つめていた。

 黒樹こくじゅは、楽しげに口元を弓の形に変えた。

「キミを、待ってるよ?」

 ゆめが、ふらりと黒樹こくじゅの方へと歩き出す。黒樹こくじゅは、彼女の手を取り、その先へと導く。

「物語の顛末とかその続きとか、そんなのが、キミの捜してるモノじゃない。キミが、本当に捜してるものは、別にある」

 ひとつの墓石の前で、黒樹こくじゅは立ち止まった。

 そこに記されている名前を見て、かえでは、表情をこわばらせた。

 ゆめの体は震えている。

 黒樹こくじゅの言葉は続く。

「物語の顛末を探すために行方不明だっていう、キミの弟、いちは、ここで眠っている。キミは、あのお伽話の続きなんかじゃなく、大切な双子の弟を捜しているんだろう?」

 震える彼女の体を、かえでが、後ろからそっと支える。

 黒樹こくじゅは、更に続けようと、口を開いた。

「市は、――――」

「市がいないの……!」

 静かに強く、ゆめが思いを吐き出す。

「ずっと、ずーっと、一緒だったのに。離れてたって、体の何処かで、市を感じてたのに」

 それが、ゆめが生きる全てだった。体の弱かった双子の弟の隣に、いつも心を置いて、気配を感じて、そうして生きてきた。

 ある日突然、それはプツンと消えてなくなった。

 まるで、暗闇に一人取り残されたような感覚。

「彼はいない。キミは、ずっとそれを受け入れられないでいる。キミといちは、双子と言うだけでは説明がつかないくらいに、強い繋がりを持って生まれた。心配してたよ、キミを。ちょうど、2週間前に、彼は僕のところに来ていてね、自分の代わりに、双子の姉を支えるものは、何処にあるんだろうって、依頼をしていた」

 黒樹こくじゅは、双子の弟の名が刻まれた墓石を見下ろした。

「キミの捜し物は、僕には捜せないよ。だって、もういないんだから。敢えて言うなら、ここ、かな」

 ゆめの瞳から、涙があふれる。

「だけど、お伽話の続きなら、教えてあげる。キミの知るお伽話は、これだよね」

 語られるのは、昔々の物語。

 闇の力を宿した、伝説のつるぎの物語。その刀身は漆黒。光の塔と呼ばれる場所に封印されていたものを、ある男が無実の罪で捕まった親友を助けるために、封印を破った。

 しかし、つるぎの力は暴走し、この世界をも滅ぼしかねなかった。

 男の親友は願った――――どうか、彼を助けてください。


 自分は、どうなってもいいから、彼を――――。


 願いは届き、暴走は止まった。つるぎを持っていた男の左手の甲に青く輝くしるしを残して。

 男は、親友のもとに走ったが、囚われていた親友は、牢の中で倒れていた。

 呼びかけても体を揺すっても、彼は目を覚まさない。

 息もしていなかった。

 男は、彼を連れ、漆黒のつるぎとともに、光の塔に消えた。

「ここから先が、物語の続き。男に運ばれた親友はね、光の塔の中で霧となって消えていった。男は、その後の生涯を、光の塔の中で過ごした。悲劇を生んでしまった漆黒のつるぎを、護るために。しかし、彼の命にも限りがある。男は、左手に刻まれた印、つるぎを使いこなす、その印を使って、漆黒のつるぎを、光の塔から遠くへ逃した。つるぎから、別のモノへと姿を変えて」

 淡々と語る黒樹の瞳に、寂しさが僅かににじむ。かえでは、それに気がついていた。

「ずっと光の塔に閉じ込められていた漆黒のつるぎは、自由を得た。でもね、そこには、かつて暴走したのと同じだけの力がある。男から親友を奪ってしまった、力が。自由を得ても、漆黒のつるぎは、ひっそりと、孤独に過ごすしかなかったんだ。今も、何処かで孤独に過ごしてるんじゃないかな…………」


    

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