ゆめのつづき2

 かえでが、残念そうに扉を見つめる。

「あの子、双子の弟がいるんだって」

「弟?」

「二卵性だから、似てないらしんだけど」

「なに?その弟が、探してるとでも?」

「その通り」

 かえでは、それまでゆめが座っていた椅子に腰を下ろした。

「しかも、体が弱くて入院中だって」

 黒樹こくじゅは、目の前にある水晶板を見つめ、小首をかしげた。

「…………入院中?」

「っていうか、入院中だったその弟が、物語の先を探しに行方不明で」

「…………それで、物語の顛末とかその先とか知りたいと?」

「だから、探し……――」

「ヤダ」

 かえでの言葉を遮って言うと、黒樹こくじゅは立ち上がり、扉にぶら下げている札をひっくり返して、店を閉めた。

 住居スペースへ引っ込むと、かえでもピタリとついてくる。

「ご飯は、作っておきました」

 得意げに言うかえでに反応することなく、黒樹こくじゅは食事が用意されたテーブルについた。

 かえでが、正面に座る。

「ないものは、探せない……か。その割には、探してっていうと『ヤダ』って言うんだな」

 ニヤリとかえでは、黙々と食事を進めている黒樹こくじゅを見た。

 黒樹こくじゅの手が止まる。しかし、すぐに再度食べ始めた。

かえで、あの子が本当に捜してるものは、なんだと思う?」

「は?だから、お伽話の続きだろ?」 

 黒樹こくじゅは、盛大にため息をついた。

「単純なかえでに、この問題は、難しかったかもね」

「解けるに決まってんだろぉ」

「怒ってるポイントが違うよ……」

「あ、そーだ!お前のことだから、わかってるんだろうけど、食後のデザート付きだから」

「はいはい。並んでまでアイスを買ってくれてありがとう」

 感情をまるで込めないで言った黒樹こくじゅに、それでも、かえでは、満足げに笑った。


*  *  *  *  *


 次の日、同じ時間に、やってきたゆめを、黒樹こくじゅは、いつもの愛想笑いで迎えた。

「いらっしゃい。捜し物?」

 テーブルの向かいには、暇を持て余すかえでが座っていたが、ゆめの姿を見て、まるで紳士のように席を譲った。

「あの、」

「今日の捜し物は、昨日と同じモノでいいのかな?」

 ゆめがなにか言い出す前に、黒樹こくじゅは尋ねた。

「はい」

「昨日も言ったけど、ないものは、探せない。でも、これから僕が行くところへ、君がついて来られるなら、特別に語ってあげよう」

 そこに浮かぶのは、悪魔の微笑み。妖艶で、吸い込まれるような美しい微笑み。

 この微笑みを向けられて、否はなかった。

 いや、ゆめの中に、この問いに対して否はなかったのだ。

 ゆめは、黒樹こくじゅより先に、椅子から立ち上がった。

「行きます。いちのためなら」

 名前は、いち。それが、ゆめの双子の弟。

「ついておいで」

 そう言って笑う黒樹こくじゅの目も口元も、弓の形。かえでは、それを見て、なにか嫌な予感がしていた。

 扉の除き窓にかけられた、OPENの札をひっくり返して店を閉めると、黒樹こくじゅは、町の北西にあたる、ある場所へと、2人を連れて行った。

 たどり着いたのは、特徴的な石の形とそこに添えられている花束が並ぶ場所――――ひっそりとしたそこが、どういう場所なのかは、一目見ればすぐにわかる。

 集合墓地。

 かえでは、訝しげに眉を寄せて辺りを見回した。

「ここと、あのお伽話と、何の関係があるんだよ?」

 黒樹こくじゅは、振り返りもしないで答える。

「僕は、お伽話の場所に連れて行くなんて、一言も言ってないよ。僕が行く場所に、ついて来られるなら語ってあげるって言ったんだから」

 どこに行くとも告げず、黒樹は《こくじゅ》は、墓地の中を迷いなく進んでいく。

 不意に、ゆめの足が止まる。

 彼女の後ろを歩いていたかえでは、ぶつかりそうになって、慌てて足を止めた。

「おっと。どうしたの?ゆめちゃん」

 後ろの2人が止まったことに気づいて、黒樹こくじゅも立ち止まる。背を向けたまま、ゆめに声をかける。

「行かないの?あのお伽話の続きを、聞きたいんでしょ?」

 ゆめは、何も答えない。ただ、小さく震えていた。

「キミ、本当は何を捜しているの?」

 問いかけて、黒樹こくじゅは振り返った。

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