第2話
ゆめのつづき
この国には「闇」がある。それを手にすると、なんでも願いが叶うのだという、不思議な力が。誰も見たことも触れたこともない。
しかし、それは確かに存在するのだ。
この街の路地は、細く入り組んでいる。
昼間でも薄暗く、妖しさと古い歴史の空気を漂わせていた。
そこに、一軒の店があった。
看板はない。宣伝もしていない。
目印は、オレンジ色のランプだけ。
路地に面した壁に、四角い窓と木の扉が一つずつ。扉には、20センチ四方の覗き窓があるが、小さなカーテンがかけられていて、中を見ることはできない。
店を表すものは、扉の除き窓の内側にかけられた、「Open」の文字を記した白い木札だけ。木札の端には、「闇の在処についてはお答えいたしません」という注意書きがある。
ここでは、魔術を使った情報提供をしていた。
主は、黒目に黒髪の小柄な少年だった。
いや、少年の外見をした「
最近、この店には客が増えた。
忙しくするつもりも、多く稼ぐつもりもない
扉につけられた鈴が、リンと鳴る。
ため息をついて、椅子から立ち上がり、後ろのラックに置いているコーヒーメーカーからコーヒーを注いで、座り直す。
「はぁーー」
もう一度、深く息を吐いた。
コーヒーを味わおうと口につけかけて、
いつもは浮かべる愛想笑いも浮かばない。
クールな表情のままで、リンと鳴る扉の鈴の音を聴いていた。
「ただいまー」
入ってきたのは、長身の明るい空気を纏う男だった。雰囲気をそのまま表したような、明るい色の茶色い長めのショートの髪と、同じ色の瞳。
「
「急いでたんだって。近道した結果なの。むしろ誉めて」
最近ここに居候をし始めた彼を、
同意をして始まった居候ではない上に、
なのに、
「で?それ、なに?」
「あぁ、客。路地で迷ってたから、連れてきた」
人のいい笑顔でそう答えて、
そう、最近この店には客が増えた――――
「
肩にかかる柔らかな髪は、黒に近い茶で、瞳は、楓と同じ明るい茶色。雰囲気は、明るく活発に感じる。15か16歳くらいの少女だ。
「いらっしゃい。捜し物?」
「この話の、顛末が知りたいの。話の続き」
一瞬の間の後、黒樹は、置いたままだったコーヒーに口をつけた。
「作者に聞けば?」
梦の方を見もしないでそう告げて、カップを置くと、「ふぅ」と軽くため息をついた。
「お代はいいよ。それじゃあね」
さっさと追い出そうとすると、自分の後ろにいた
「ちょっと?!お客様だけど?!」
「とけるよ、それ」
抗議には答えず、冷たく見上げると、楓はハッとして奥の住居スペースへと消えていった。
視線を戻すと、
「まだ何か?」
「本の作者になら、もう聞いた」
「へぇ。見た通りの行動力だねぇ。なら、解決してるんじゃない?」
「してないから、ここにいるの。これは、昔から言い伝えられてる話だから、顛末も続きも何も、これ以上はないって」
「だから、解決してるじゃないか。顛末も続きも何も、それ以上はないんだよ。どこを探そうともね」
「ととが、あるって言ってた……」
「とと?」
「おとーさん……」
住居スペースと店とを分ける扉が、無遠慮に開いた。
「どう?物語の続きは見つかりそう?」
「楓、」
厳しい声音で、
「何をどう言ったのか知らないけど、ここは、万能のなんでも屋じゃないんだよ?ないものは、探せないの」
「何言ってんだよ。お前に探せないものなら、俺は連れてこない」
「やるのは、僕なの。なに、そのワケわからない自信。
「探してや……――」
「ヤダ」
「……ありがとうございました」
俯いてそう言って、
扉の鈴が、リンと、寂しげに鳴った。
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