第20話 何でこんなひどい目に?
「美味しいデス!サキの料理は最高デス!」
ロギアは『お好み焼きもどき』を勢いよく頬張り、喜びながらガツガツと食べていた。
「そ、そう、良かったわ」
「外はカリカリ、中はフワフワ、野菜の甘みと酸味が含んだソースが細かく刻んだキャベツの生地にマッチして、中に入っている魚介と豚肉が奇跡的なコラボを演出しているデス!」
なぜかロギアが素人臭い食レポで解説しているけど、これってただのお好み焼きよ?
しかも、ソースも即席で考えたものだからそこまで言うほどマッチしていないと思う。
・・・余程あのドリンクに悩まされたんだろう。味覚障害に陥るほどに。
「でも、どうしてサキだけ真っ黒なんデスか?」
ロギアは不思議そうに私の皿を見ていた。
「え、えっと、私はこれぐらいの方が好みなのよ」
嘘である。生地を三人分しか用意していなかったら、誰かがこの失敗作を食べなくちゃいけないのだ。
私の分を一から作り直すのも疲れているから面倒だし・・・大丈夫。コレは『あのドリンク』に比べれば全然マシなはず!
私は失敗作を一口食べて、噛んで、口を止めた。
確かにあの時より酷い拒絶感は無い。
でも、やはり不味いものは不味い。ソースで誤魔化すにはあまりにも焦げが多すぎる。
「飲むか?」
クレイが飲み物で飲み込みたい衝動を察してかアレを勧めてくれるが、絶対に要らない!
「・・・」
私が我慢して飲み込むと、メイがお好み焼きに手を付けていない事に気付いた。
「どうしたの?」
「え、あ、その・・・何でもないの」
メイはそんな返事をするが、料理を見るだけで口に入れようとしない。
「もしかして・・・嫌いなモノでも入ってた?」
お好み焼きもどきに色々と食材を入れたから、その中に食べられない食材があったのだろうか?
「・・・ち、違うの!その・・・食欲がないだけなの」
メイがそう返事するが、じっと料理を見つめている表情は食べたそうにしているように見える。
そんな様子を見て、クレイは「あー」と何かを納得した返事をした。
「・・・少し貰うぞ」
そう言って・・・クレイはお好み焼きをフォークとナイフで細かく切り分けると、そのうちの一つをフォークで刺して取り出して・・・
「あーん」
・・・と私に向かって言った。
「え?な、何なのよ?
何がしたいの!?馬鹿じゃないの!?」
「いいから食え」
と半ば強引にクレイが私の口にお好み焼きを入れようとしてきた。
仕方なく私は口を開けてお好み焼きを食べる。うん、本物とは味は結構違うけど、これはこれで食べられないことはない。
ロギアやメイの視線があるからじっくりと味わえないけどね!
私はゴクンと飲み込んで、クレイを睨む。
「で、どうしていきなりこんな罰ゲーム紛いの事をしたの?」
「・・・ほら、これで食べれるだろ?」
クレイは私の問いを無視して、メイにそう言った。
「・・・」
メイは私の食べた様子を見て・・・細かく分けたお好み焼きの一つを慣れない手付きでフォークを握って、お好み焼きもどきを刺して口に入れた。
「・・・美味しい」
恐る恐る噛みながら飲み込んでそう呟くと、メイは今まで我慢していたのを爆発させたかのようにすごい勢いでにガツガツとお好み焼きを口に入れた。
「ど、どういう事?」
さっきまで一口も口に入れようとしていなかったのに、急に食べ始めた。
「料理に毒が入っている可能性を懸念していたんだろうな」
私が何で彼女が躊躇っていたのか分からないでいると、クレイがとんでもないことを平然と言い出した。
「・・・は?」
「ゴルドもあの奴隷が人間不信だと言っていただろ?
前の主人から相当ひどい事をされていたようだな」
・・・だから、私を警戒して料理を食べなかったの?
だから、クレイは私に毒見を彼女の目の前でさせたの?
「というより、私がそんな事を考えるわけないし、そんな事をやる理由なんてないわ」
「でも、彼女は警戒していた。まるで、以前に体験していたから警戒しているように思えたよ」
つまり、前の主人はそういう事を考えて、そういう事を実行した?
食事に毒を盛って彼女を苦しめたってこと?
「・・・馬鹿じゃないの」
そいつの神経を疑ってしまう。
そんな事になんの意味があるのか理解できない。
「美味しい、美味しい!」
少女は涙を流しながら食べていた。大して美味しくないお好み焼きを大好物の料理であるかのように・・・いや、空腹ですべての料理がおいしく感じるからなのだろう。
私は彼女のやせ細っていた体を見て察してしまった。
もしかしたら、彼女はあの商館でもご飯を食べていなかったのかもしれない。
お皿はすぐに空になった。
「あ・・・」
少女は寂しそうな表情で空になった皿を見つめる。食べ足りないのだろう。
「メイちゃん、良かったら他にも何か作ってあげようか?」
「・・・い、いいの?」
「いいに決まっているでしょ?育ち盛りなんだもの」
私がそう言うと、メイは硬かった顔が少し崩れて、嬉しそうな表情をした。
「あ、ありがとうなの!」
「ロギアも食べたいデス!」
「じゃあ、すぐに作るからそこで待っててね」
疲れた身体を無視して、私は台所に向かうと新しく別の料理を作り始めた。
玉ねぎを切っていたからだろう。途中で涙が流れて止まらなかった。
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「奴隷を解放させる方法を知りたい?」
「そうよ、教えて」
私はメイちゃんを私の部屋に寝かせると、クレイの部屋に訪れて相談をしていた。クレイは机で何かの本を読みながら紙に何かを綴っている最中だった。
「そんなことを聞くという事は、あの奴隷を解放させて人間に戻したいと思っているのか?」
私はコクリと頷くと、クレイは呆れた表情をして手に持っている筆を置くと、体を私の方へと向けた。
「・・・とりあえず、なぜそんなことを思ったのか理由を聞いてもいいか?」
クレイは私の要望を否定から開始しない。まずは意見や事情を聞いてくる。
可能な事であれば、私の要望の理由を聞いてから要望を受けるかどうかを判断するのだ。
でも、こういう風に理由を尋ねるという事はクレイはやはり奴隷解放に否定的なのだろう。
当然と思えば当然である。金貨百枚以上も経費を支払って、一日も経たずに解放させるなんて誰がどう考えてもおかしいのだ。
自分でもあっさりと要望が通ってしまったら、逆に勘ぐってしまうぐらいだ。
「メイちゃんと一緒にお風呂に入ったんだけど、あの子の古傷が酷かったわ。
普通に生活していれば、まず残らないような傷がいっぱいあったのよ」
食事を終えて、メイと一緒にお風呂に入ることにした。
お風呂の入り方をメイが分からないという事だったので、私が教えようと同伴したのだ。
しかし、メイは私と一緒にお風呂に入ろうとしなかった。
お風呂が嫌いなのかと思ったが、ロギアとなら一緒に入ってもいいと言って、ロギアが興奮してぶっ倒れたのを無視して、私は半ば強引に彼女と一緒に入った。
そして、着替えるときに目にしたのだ。
「背中に鞭で打たれたような傷や、わき腹にやけどの跡があったのよ。
きっと、前の主人というのが関係していると思う」
普通の生活ではありえない傷・・・つまり、何かしらの理由で彼女は肉体的に危害を加えられていたのだ。そして、メイはその多数の傷を小さな掌で隠そうとしていたのだ。
「で?」
クレイは私の説明に相槌を打つわけでもなく、同情するようなそぶりをするわけでもなく、ただ、話を聞いていた。
クレイのたった一言の圧力に私は押されそうになりながらも説明を続ける。
「か、彼女はそれぐらい傷ついていて、それで周りを信じられなくなっていると思う。
・・・それで、どうしたら彼女が周りを信じられるぐらいに救われるか考えていたのよ。
それでまず思いついたのが奴隷からの解放というわけで・・・」
だんだんと小声になりながら、私がそう説明するとクレイはため息を吐いた。
「色々言いたいことはあるが、まずはお前の質問から答えていこう。
奴隷というのは主人と契約している最中は人間に戻ることが出来ない。
だけど、契約を無事遂行したら奴隷の身から解放されるようになっている。
彼女の場合はお前が無事に帰ることが出来れば、奴隷の身分から解放される。
そういう風に契約を結んでいるからな」
それは順調にいけばメイが奴隷から解放される事実である。その事は喜ばしいことだ。
「・・・でも、それって逆に言えば私が帰ることができない間は奴隷ってことよね」
つまり、最低でも年単位で奴隷として生きなくてはならない。
「お前との契約はむしろ良心的な契約だ。他の奴なら基本的に期間を生涯に設定したり、達成不能な条件を突きつけたりするからな。
そう考えれば、あの少女奴隷は運がいい」
つまり、奴隷から解放されないケースもあるということだろう。
確かにそれと比べればまだマシかもしれないが、でも辛いことには変わりあるまい。
「同情するのは勝手だが、お前は奴隷という身分を本当に理解しているのか?」
「え?」
クレイは怒っているわけではなく、だが、咎めるように私に言ってきた。
「奴隷というのはさっきも言ったが、普通に働いては返せない借金を背負ったり、償え切れない犯罪を犯した人間が堕ちる身分なんだ。
裏でやり取りされたのならともかく、あの少女もそうして奴隷に堕ちたんだぞ?」
「あ・・・」
そういえば、なぜ彼女は奴隷に堕ちてしまったのだろうか?
あんな子供がどうして奴隷に?
「まあ、いずれにしろだ、そう言う人間が過去を清算するために人間から奴隷に堕ちるんだ。
それをかわいそうだからと、知りもしないで簡単に開放してしまったら、今を必死に生きている人間が馬鹿に見えるだろうが」
クレイの言葉には重みがあった。
この世界で生きている人間だからか実感がこもっている。
「・・・それは、そうだけど・・・でも・・・」
クレイの言っていることは多分、正しいのだろう。
この国の奴隷制度は言ってみれば刑務所の内容に近い。
期間内に提示した命令をこなせば解放される。
そう思えば、契約魔法というもので罰を与えるようになっていたのも理解はできる。
奴隷になる人間がそういう人物であるのならば、人格的に問題がある人間は多いのだろう。
そういう人間が主人に危害を加えることを容易に想像できるから、主人が死んだら死ぬとか、残酷な命令も当たり前になったのだ。
理解はできる。
でも、メイは本当にそれに当てはまるのだろうか?
「・・・私はあの子がそういう人間には見えない」
数時間しか彼女を見ていないけど、彼女はどう見ても普通の少女だった。間違っても悪いことをするような人間には見えない。
「お前が彼女を心配するのは勝手だがな・・・少しは自分の心配をしたらどうなんだ?」
「え、私?」
「何度も言っているが、お前は周りから狙われている身だ。
それなのに、どうしてそんなお前が他人を心配できる?」
確かに私も国から追われている立場でクレイに助けてもらっているから生活できている。
そんな私が他人を心配する余裕を回すべきかと言われれば、そうじゃない。
「・・・今は関係ないじゃない」
私は誤魔化すように言ったが、クレイは首を横に振る。
「関係あるから言っているんだよ。
例えばもし、仮に彼女が奴隷から解放される方法があったとしよう。
で、俺がそれをしてあげると思ったのか?」
「それは・・・思わない」
「何故そう思う?」
クレイに問いただされる。
少し考えれば答えは分かる。
「彼女は本来、私を守るために購入した。
でも、彼女を解放すれば、私を守る存在がいなくなる」
「ついでに言えば、それを受け入れたら奴隷でサキを守る算段は破棄になる。
再び奴隷を購入しても、同じように解放してしまうかもしれないからな」
「・・・」
言い返せなかった。
確かに彼女が解放されて、再び奴隷を見繕うとすれば、私なら同じことを起こすだろう。
「俺の最優先事項はお前のみの安全だ。
お前の自由をないがしろにするつもりはないが、それが侵されるような事を黙って見過ごせないし、ましてや分かった上で実行することはない。
それとも、あの時の言葉は嘘だったのか?」
あのときの言葉というのはアレだろう。
私が初めて願った思いだ。
「・・・そんなわけない。
私は生きていたいし、前みたいな人生は二度とごめんだわ」
国に捕まれば、酷い結末が待っている。
メイのために、自分を犠牲にできるかと言えば・・・答えはノーだ。
「・・・話を戻そう。
サキがあの奴隷を救いたいと
つまり、国から追われる状況を解決してから言えと?
「そんなのできるわけないじゃない」
私一人でどうにかできるような問題であれば、こんな場所にいたりしない。
私自身は無力で・・・
「出来ないのであれば、解決への方法は二つだ。
他の人に頼むか、不可能を可能にするかだ」
その内の最初の案は駄目だった。
つまり、残された手段は・・・
「彼女を救いたいのであれば、まずは自分自信を護る力を身につけろ」
クレイの言っていることは当たり前のことで、実行するにはとても困難なことだ。
「強くなるって、簡単に言わないでよ」
「別に強制ではない。俺も勧めるつもりはない。
だが、弱いままでいれば、万が一の事があれば、あの奴隷は間違いなくお前のために死ななきゃならない」
・・・そうなるように仕向けたのはクレイだが、私が問い詰められる事じゃない。
私が選んで、私が甘く考えた結果だ。
だから、私のせいで彼女を危険に晒したくない。
「・・・どうしたら、強くなれるの?」
不安と覚悟が織り混ざりながら、クレイに恐る恐る尋ねた。
「付き合え」
・・・え?いきなり何言っているの?
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