第34話 山の神の頼みごと
「ほんと死ぬかと思ったぜ」
特殊薬で回復したオオナムチは、ヤシマジヌミ将軍の一撃を受けた腹をさすりながら言った。
「
オオナムチたちは、神域の山の
大神である
実際、内蔵損傷で
「あわあわわわ」
ナオヤは目を覚まして、
さきほどやっと目を覚ましたが、洞窟の隅で泣きながら
「まさか
ムルは、オオナムチが
国津神の中でも原初の大神である
もちろん、ムルもはじめてだった。
「ジジイ、世界は広いな」
オオナムチは、しみじみと言った。
神域の山を出て、まださほどの時が経ったわけでもないし、それほど遠くへ出向いたわけでもない。
しかし、それでもオオナムチが知らないことだらけである。
オオナムチはワクワクしていた。
「フン、抜かせ」
そして、グウグウといびきをかいて寝てしまった。
いつの間にかムルも寝ている。
起きているのは、オオナムチとナオヤだけになった。
「オオナムチさん、僕もオウの町までついていってもいいかな?」
ナオヤは勇気を振り絞って言った。
「村に帰らなくていいのか?」
「はい。僕は身よりもないし、それに世界をもっと見てみたいです」
「危険もいっぱいだし、死ぬかもしれないぞ?」
「わかっています。でも、自分を変えたいです」
「ナオヤはすごいな」
泣き虫で弱いナオヤが、危険な旅を続けたいと言う。
オオナムチは、自分がナオヤだったら、同じことを言えるだろうかと自問自答した。
結論は出なかったけれど、ナオヤのことは尊敬できると思った。
負けていられないと、闘志も湧いてきた。
「明日も早いし俺たちも寝るか」
「はい」
オオナムチは、懐かしい洞窟で、ぐっすりと眠ることができたのだった。
◆
翌朝、
年寄りは早起きだと言うが、外はまだ暗い。
オオナムチたちは、叩き起こされて、朝食の時間となっている。
「ガキ共は、しっかり食え」
朝からがっつりとイノシシのスープである。
素材もいいので、おそろしく美味い。
みんなガツガツと食べ続けている。
「オオナムチ、テマ山に行け!」
「なんだよジジイ、いきなりだな」
「テマ山がおかしい」
「なにがおかしいんだよ?」
「それがわしにもわからぬ」
「ジジイが行かないのか?」
「わしは今、この山を離れられぬ」
「行ってどうすれば?」
「行けばわかる。何もなければそれでもいい」
しかし、こうして頼まれては断るわけにはいかない。
昨夜も、命を救ってもらったばかりなのだ。
ヤシマジヌミ将軍の猛攻に
「テマ山か。あそこは今、イズモ国の要塞だぞ」
ムルが言うには、テマ山はここ数年で、イズモ国東方方面軍の軍事基地として整備されていて、多くの兵が集まる難攻不落の要塞になっているらしい。
イズモ国豪族の子息が通うエリート養成所の士官学校もあり、多くの武官文官を輩出しているそうだ。
ちなみにムルも卒業生である。
「オオナムチさんが行っても大丈夫なのですか?」
ナオヤが心配そうに聞いた。
昨夜、イズモ国の豪族であるヤシマジヌミ将軍の襲撃で死にかけたばかりなのだから、当然の心配だとも言える。
「サクサの言ったことが本当ならば、逆に安全だろうな。オオナムチに対してのイズモ国からの要請は、オウ国庁の会議への参加だ。襲撃は命令違反になるわけだし、大勢の人が集まる場所で騒ぎは起こせないだろう」
ムルは答えた。
オオナムチを討ち取ろうと考えているのは、オオナムチを脅威に思う一部の武官たちであり、少なくとも文官であるサクサは反対していた。
つまり、反対意見の者たちもいる場所で、おおっぴらに騒ぎを起こすことはできないだろうと考えたのである。
ヤシマジヌミ将軍のような立場のある者ほどそうであろう。
この意見に、オオナムチも賛成だった。
「行こう!なによりテマ山の要塞が見てみたい」
「まあ、通り道でもあるしな」
こうしてオオナムチたちは、テマ山に向かうことになったのだった。
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