シチューとグラタンの問題

 金曜の夜、柄にもなく残業したニタローが帰宅したのは、午後十時を過ぎていた。

 リビングでは、イチヒメが顔にパックを貼ったままテレビを見ている。

「ただいま、母さんたちは?」

「もう寝てるんじゃない。ご飯は用意してあるからチンして食べなさいって」

「分かった」

 テーブルに置かれていたのは、ご飯とクリームシチューだった。

「なんかさ、シチューにご飯ってめちゃくちゃ家っぽいな」

「どういうこと?」

「いや、外食でシチューとご飯ってあんまりないじゃん。基本パン、あったとしても、平たい皿に盛られてる“ライス”だろ」

「まあ、茶碗に盛ったご飯が出てくる確率は低いね」

「それに、我が家の場合は今日もそうだがご飯とシチューだけで、他のおかずがない」

「肉も野菜も入ってんだからそれでいいでしょ」

「ビーフなら、ビーフシチューならご飯とシチューだけでもギリ許せる。でもクリームシチューとご飯だけはいかがなものかと俺は思っている。あと、食べるときに箸とスプーンを持ちかえまくるのがめんどくさい」

「スプーンだけで食べられるじゃない」

「それはなんか嫌なんだよ。姉ちゃん、スプーンにご飯のっけてシチューにつけて食べるの、みっともないから外ではやるなよ」

「うるさいなあ、ちゃんと分かってますよーだ」

「もうひとつ言えば、うちでマカロニグラタンとご飯が一緒に出るのもいかがなものかと思っている」

「ま、ダブル炭水化物ではあるわね」

「でもマカロニグラタンだけでは物足りない気もする」

「じゃあ何が一緒ならいいのよ」

「…ハンバーグ、とか」

 答えを聞いて、イチヒメは笑った。

「ハンバーグ、カレー、焼き肉、ナポリタン、あんたの好み分かりやすすぎ」

「分かりやすいものは分かりやすくうまいからいいんだよ」

「はいはい、もう遅いから、さっさとご飯食べてお風呂入りなさいよ」

母さんかよ、とぼやきながら、ニタローはクリームシチューを食べはじめた。

 明日の昼ごはんは、クリームシチューの残りをドリアにしようかな、とイチヒメは考えている。

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イチヒメ/ニタローの告白 久藤さえ @sae_kudo

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