アイドル

 ワイドショーは、国民的人気の男性アイドルグループが活動休止する話題でもちきりだった。

 テレビを眺めていたニタローは、寝ころんでスマホをいじっているイチヒメに声をかけた。

「ショックじゃねえの」

「何が?」

「いや、このグループのナントカくん好きなんでしょ」

「やーね、そんなの中学生くらいのときの話でしょ。今は別になんとも思わない」

「へええ。部屋中にベタベタポスター貼って、歌番組の録画に必死だったのに、あっさりしたもんだな」

「まあ、あれも自己暗示みたいなもんだったのかも」

「なんでわざわざそんなことすんの?」

「うーん、アイドルにしても、特定の誰かが好きってことにしないと、女子の世界では同業者として認めてもらえないんだよ」

「同業者?」

「私は○○くんが好き、あなたは××くんのファン。そしたら雑誌の切りぬきをトレードしたり、テレビの情報を交換しましょう、みたいな」

「別に、グループ全員が好きってことにしとけばいいんじゃね」

「それはダメ。好きな対象が同じなのか違うのかをはっきりさせないと」

「そんなもんか」

「ニタローは、あんまりアイドルの誰かが好きとか言ってなかった」

「まあ、特に誰ってわけでもなかったからな」

「でも水着グラビアのページを破ったやつは本棚の裏に置いてたじゃない」

「う… あれは友達から押しつけられたやつで」

「捨ててないってことは必要だったんでしょ。でもあのグラビアの人たち、みんな顔は別にそこまでかわいくないよね。胸が大きかったら顔はいいの?」

「なんというか、ああいうのは胸を見る!って感じで分かりやすいから、顔がどうとかは正直見てないというか」

「じゃあ顔は、芸能人でいうと誰が好きなの?」

「ぴったりこの人っていうのはいないなあ。目とか鼻とか声とか、それぞれいいと思う人が違う」

「めんどくさっ」

「なんだよ、姉ちゃんはばっちり好みの芸能人いるのかよ」

「この歳になるとね、外見だけで好きって言えないんです。人間性が重要だからね」

 結局、あいつの好みはよく分からないな、とイチヒメとニタローはお互いに思っている。

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