第4話 ここはお風呂だろ?!
街の中にある唯一つの宿屋<<オイスター冒険者の宿>>で。
寝床を確保したミコとリュートだったが。
「おい・・・なにやってんだよ?!」
獣化したリュートがコッソリ覗き込んで観た者に問い質した。
「おや?リュートではないか。おひさ!」
風呂場で立っているのは。
「おひさじゃねぇよ!なに変身してんだよ糞女神ミレニア!」
一糸まとわぬ姿の・・・女の子。
というか・・・女性。
栗毛の長い髪をシャワーで濡れそばした女神ミレニアが、狐に羽根が生えた獣に笑う。
「ナニとは物の云い様ね!
女神の裸を覗くなんて・・・痴漢!」
リュートに向かって言い放つミレニアはこれと言って隠そうともせず・・・
「まぁ、私の裸なんて見飽きたでしょうけどね。このロリコン!」
次から次に悪態を告げる・・・
痴漢にロリコン・・・もはや、犯罪者の臭いしかしない言われ方。
「うるせぇよ!こうなったのもお前の仕業だろうが!」
獣化したリュートが応戦する。
ミレニアはリュートの一言に顔を引き攣らせて、
「あらまぁ!それを言うのね!それなら言うわよ!この変態で色魔!
女神の純潔を奪ったのは何処の誰かしら?!」
真向から言い返してきた。
「なっ?!あれは・・・仕方がなかったんだよ!ミコが・・・
俺の幼馴染が頼んだんだから!あれは事故だったんだ!!」
言い返し合う女神と獣・・・
傍で観れば異世界バトル?!
「ふっ、私に因って召喚されたのはあなた達にとっては事故。
私の純潔を奪ったあなたも事故だと言い張るなら・・・オアイコってことね」
勝手に決めつける女神ミレニア。
その前に一体何が二人に起きたのか。
いや、その前に。
ミコの身体は何処へ行った?
「そもそも。お前がちゃんと勇者を召喚すれば問題はなかったんだろーが!
なんで俺達を呼びつけたんだよ!それに魔王を倒したのになんでまだ帰れないんだよ!」
女神に喰って掛かるリュート。
言い募られた女神ミレニアは素知らぬ顔で言う。
「あれぇ?何故かしらねえ・・・わかんなぁーい(棒)」
すっとぼけて頬に指を宛ててぶりっ子をかましてきた。
「だぁっ!恍けんじゃねぇよ、このおたんこなーす!」
「あらっ、お団子食べたいの?奇遇ね、私も食べたかったのよね。
彼も好きだって言ってたから・・・確か」
すっとぼけが板についていた・・・・
がっくり肩を落とした獣化リュートが。
「もういいよ。で?今回姿を現した訳は?」
ミレニアの出現理由を問い質す。
「居るのよね・・・こんな宿屋にも。
さっきラウンジで揉め事があったでしょ?その中に居たのよ」
ころっと言葉を変えた女神が話す事に、ケモ耳を立てる。
「居た?・・・あの中に?」
モフモフの耳を立ててリュートが訊き返す。
「そう・・・一人の<闇>が。
あれは間違いなく・・・<闇>の手下よ!」
蒼い目を細めて、女神ミレニアが言い切った。
「どいつか知らねえが、こっそり覗いてやがったと言う訳か」
「あなたと同じね、変態モフモフ」
・・・・
また、いらない事を言うミレニア。
「で?そいつを踏ん縛って吐かせるのか?
それとも敢えて出方を観るか・・・どうする?」
もうつまらない冗談に乗らないリュートにガッカリしたのか、
あからさまにミレニアは肩を落としつつも頷き。
「出方を観るのが賢明よ。捕えても恍けられるに決まってるもの。
動かぬ証拠を掴んでからの方が口を割らせるには都合が良いモノ」
相手の出方に着目し、油断なく待てと言いたかったのだろう。
こんな時、女神の力は役に立つ。
ミコに宿っている女神の力が・・・
「それだけかよ?それを告げにだけ現れたのかよ?
本当は何が狙いなんだ・・・ミコを乗っ取ってる訳は?」
ケモミミを立てたリュートに聞こえたのは、ミレニアの呟き。
「ちぇっ、偶に出て来ても釣れないんだからリュートは・・・」
モジっと身体をくねらせたミレニアの呟きを聞かなかった事にした。
獣化している今は、女神の姿を観ても何とも感じない。
初めて観た時とは全く感覚が変わっている。
<俺もどうやらこの世界に染まり始めているんだろーな>
ケモノ姿になっても
「しょうがない、身体も洗えたし。帰るわ」
リュートの前で女神姿のミレニアが背伸びする。
それを合図に女神の身体から光が迸り・・・
「わぁっ?!ちょっと待て!いきなり戻るな!」
リュートの叫びも空しく、光が消えると。
そこに居るのは、幼馴染であどけない姿の少女。
いや、少女の姿にされたままのミコ。
「あ・・・リュート・・・って!こぉらぁっ!!」
目が覚めたミコが身体を隠して怒鳴り散らす。
「このロリコン!変態!痴漢!色魔!おまけにっ同性愛者!」
タオルで身体を隠したミコがそこらにある小物を投げつけてくる。
「違う!これはだなっ・・・はぅっ?!」
投げつけられた洗面器が頭に直撃してケモミミ男が噴き跳んだ。
「「濡れ衣だ・・・」」
金の腕輪が嘆いた。
「うるさい!黙っててよリュート!」
ぷんすか怒るミコはテーブルに置いた腕輪が愚痴るのを停める。
食事に降りたミコの前には、酒場とは思えない程の料理が載せられてあるテーブルがあった。
山の中にある街とは思えない、豪華な料理の数に観てるだけでも満腹感が湧く。
「うへぇ・・・なんだよこの料理の山は」
元々少食のミコには余りあるし、独りで食べきるのは絶対に無理だと思った。
「「なんだよミコ。食べないんなら俺に喰わせろよ」」
腕輪が催促して来るが。
「リュートでも無理だろ、こんな量は」
テーブルに所狭しと並べられた食器の数だけでも数十枚ある。
そのどれもにこれでもかって程の惣菜が盛られてあった。
「田舎料理だなぁ・・・数が多けりゃ良いってもんじゃないのに」
ナイフを着ける気にもなれずフォークで手前の皿をつついただけで身膨れしてしまった。
「おや?お気に召さなかったかしらね?」
女店主タストンはバーテンダーに振り返る。
グラスを黙って磨き続けているクリロンの手が停まった。
「い、いや。味は良いし・・・だけど、ちょっと量が多いような…」
多分、あのバーテンダーが造ったんだと感じたミコが言い訳すると。
「金額に見合った量だ・・・問題ない」
しわがれた声がバーテンダーから帰って来た。
「はははっ、そうですか。それはどうも・・・」
苦笑いを浮かべて少しでも口に運ぼうとするミコへ。
「それはそうと、あなたが魔法石を手に出来た理由は?
あの大きさの魔法石を持つ魔物だと・・・かなり手強い奴だと思うんだけど?」
タストンがテーブルの先から訊ねてくる。
フォークを口に運びながら、ミコは周りの気配を探る。
<居る・・・こっちの話を聴いている>
女神ミレニアが気配を探り当てた。
それをミコと共有すると、
<ほら、あの奥。一番左に居る>
ミコは眼の端に捉えた男の人相を覚えると。
「リュート、あの髭面のフロントハットを被っている男を観てて」
こっそりと腕輪の向きを変えて見張っておくように命じた。
それからタストンへの答えをおもむろに返した。
「ああ、アレね。
確か・・・オーガーだったかな。
ここから山奥に入った谷間で出くわしたんだ。
ちょっと手古摺ったけど、その分良い魔法石になったと思うよ」
事も無げに話す少女に、タストンは眼を見開く。
「ちょっとアンタ!子供だからって嘘はいけないのよ!
言うに事欠いてオーガーですって?!
ミコみたいな女の子がどうやったらオーガーになんて勝てるのよ?!」
確かに、普通の魔法使いくらいでは勝ち目なんてないだろう。
ましてや、華奢な女の子が奇跡でも起きない限り勝つ事なんて出来っこないと。
そんな目で見詰められたミコが、ぼそっと答えた。
「あれ?言ってなかったかな。
僕は男で、しかも・・・
だからさぁ、オーガーなんて眼じゃないんだよ」
ミコの声で、店の中が静まり返った。
皆一様に口をあんぐりと開け放って・・・
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