お別れ
葬儀の日、母は綺麗に化粧を施され、打撲痕はすっかり跡形もない。動かない身体の前で、私は涙が止まらなかった。
賛美歌を歌い、花を捧げ、生前の母の話を聞いた。知らない話ばかりだった。知っているのは僅かで。私に見せていたのは唯一面で、他では違った人だった。でも私に見せていた姿が、好きではない。それでも私が過去胎内にいたのは、この人だった。
葬儀に兄は来ず、母の親戚や家族が参列した。星無さんの部下たちがいろいろ手配してくれた。親戚たちに聞かれたとき、私が星無家に引き取られると星無さんは説明した。安堵の息を吐く彼らを見、私こそ星無さんに引き取られると安堵の息を吐く。親戚たちにとって婚外子の存在は身内の恥だし、養育費の問題もある。人間の醜さはいまも昔もずっと変わらない。対価もないのに誰も私に優しくする筈ない。
葬儀が終わり、帰りの車の中で私は訊く。
「私の使い道は何?」
星無さんは口角を少し上げ笑う。
「使い道? 何それ?」
「ただで家に置いてくれるの可笑しすぎ」
「理由ないといけない?」
「こわい。何考えてる?」
「何も」
「下心あるでしょ?」
「前も行ったけど、女には困ってない」
「それ以外で」
「それ以外? もー何もねぇよ」
本当にこの人間は親切の塊なのだろうか? いつか絶対、裏をあばく。
それから絶対、月雪母を赦さない。いつか必ず殺しに行く。
自殺予行~傷ついた君を愛してる~ 空沢 来 @kaidukainaho2seram
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