朝ご飯

翌朝。

目覚めると、明るい光が室内を照らしている。

一瞬、知らない場所だと考えたが、夕べのことを思いだす。

昨夜なかなか眠れなかったけど、いつの間にか寝てたんだ。


脇を見遣ると、月雪くんの寝床は跡形もない。

……私、寝坊した?

とりあえずトイレに行きたくて、部屋を出る。


「わっ」


既視感。月雪くんが扉の外に座って読書している。思えば昨日もそう、彼はいつも部屋の外にいる。


フカフカのソファはなかったから、運んできたのだろう。昨日夕方の椅子よりグレードアップしてるのは、経験をふまえて座り心地を鑑み、変更したんだろう。


目があう。慌てて髪の毛を整える、鏡がないのできちんとできたか心もとない。


「おそよ」

「……おはよう」


彼が挨拶してくれたので私も返す。


「今日が土曜でよかったな」

「ん?」

「昼過ぎてる。お寝坊さん?」

「え? まじで?」

「昨日初めてだから大変だったんだろ。下にご飯ある」

「あ、えっとトイレ」

「なら、身支度整えて下に来て」

「うん......」


身支度といっても私の服は着てる月雪くんのシャツしかなくて。

顔だけ洗ってトイレして、一階に降りる。


リビングはコーヒーの匂いがする。テーブルには2人分のパンとスープ、サラダが並べてある。

壁の時計は既に12時を過ぎていた。


「私の方がメイドなのに……」

「気にすんな。俺のことも名前呼び捨てでいいし」

「ありがとう」


席につき、食べ始める。しばらくして月雪くんが話しだした。


「今日はまず斗雪の家から、生活に必要なものを持ってこよう」

「え、わかった」


いきなり呼び捨てされて驚いた。というか、さっきお互いそうするって話したんだった。


「それから家族の方にも説明しないと」

「うん。でもいないかも」

「いないと困るから連絡して」

「う~ん。彼氏とデートしてるかもしんないし」

「なら後でもいいけど。行ったとき何かメモでも残しておこう」


親が彼氏とデート、なんて言っても月雪くんは顔色一つ変えない。いい人だ。というか、世慣れしてるのかも。


「何て書くの?」

「普通に友達の家に泊まってるでよくね?」

「メイドのことは?」

「それ学校で言うなよ?」

「うん」

「家族にも伏せておこう」

「はい」

「それが終わって時間があれば一緒に勉強しよう」

「学校の?」

「うん」

「行きたくないもん……。だからメイドするもん」

「親が金払ってくれてるよね? なら一緒に卒業しよう」

「うう」

「これはご主人様からの命令。斗雪も俺の学校生活についてくること。メイドだもんね?」

「ううう……。はい」


怖いご主人様だ。というか自分で自分に「様」つけてるし。絶対楽しんでる。


ご飯を食べ終わると、月雪くんが洗濯された私の服を手渡してくれた。女の子の下着見ても平然としてる……。


「ありがとう。洗ってくれたの?」

「うん。それしか着る服ないでしょ」

「確かに」

「月雪家だからって使用人がいるわけじゃない。家族は仕事でいないから」

「そうなんだ」

「……」

「なら、なんで私をメイドにしてくれたの? 使用人いないのに」

「斗雪の場合は護衛しやすいほうがいいだろ」

「ありがとう」


自分が戦士になれなくても、変な感情をぶつけずに、私のような馬の骨を大切にしてくれる。月雪くんは親切だ。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る