新世界
目覚めるとパステルピンクの天井。
ここはどこ?
ぼんやりする頭で、息を吐き、辺りを見回す。
右は窓、窓辺に花瓶が置いてある。窓の反対側に扉、室内を覆う壁紙は小さな薔薇模様だ。八畳くらいの部屋で、私はベッドに寝かされている。
ここまで……。あの闇の後、目を閉じたことまでは覚えている。
確か闇に呑まれる前は、月雪くんがそばにいたはず。救急車でも呼んでくれて、どこかの病院のスイートルームに運んでくれたのかな?
寝起きなのに、図書室でも寝てたから眠気があまりない。
ベッドから降り、カーテンを開ける。夜だ。いま何時? 家に帰らなきゃ。
「はぁ……」
帰りたくないなぁ。
とりあえず部屋を出る。
「わっ」
外扉の前に椅子があり、背もたれにもたれて月雪くんが眠っている。
室内に戻り、私は薄い毛布持ってきて彼にかける。
「……」
無言で、彼に手首を掴まれる。
まぶたを開く彼と目があう。
「起きたの?」
と、彼が訊く。
「うん」
頷くと、彼は私の手首を離し、毛布を両手で持つ。
「ありがと」
「……あっちにベッドあるよ」
と、室内を指さす。
「いい」
「ねぇ、お腹すいた」
私がお腹を片手で撫でると、彼はクスッと笑う。
「食いしん坊だな」
「だって夕ご飯食べてないもん」
「あっちにご飯あるよ」
彼は階段の踊り場を指差す。
それから、毛布にくるまったまま、歩きだす。……いもむし?
一階へ降り、正面の扉を開ける。
リビングが広がっているが、誰もいない。
彼は明かりをつけ、冷凍庫から食料を取り出す。レンジでチンして出してくれた。たらこスパゲティだ。普通にスーパーで見かけるメーカーで、意外と庶民派だった。
「いただきます」
彼は、私が食べ終わると話し始める。
「昼間のことだけど」
「うん」
「開戸さんは、戦士になった。これからは、クラスも一緒だし、俺が護衛になる」
「学校は行かなきゃなの?」
「まだ一日目だろ」
「勉強ヤダ……」
「……嫌なら、どうする?」
「月雪くん家で働く」
「俺ん家で?」
「うん」
「コンビニとかカフェで働くと学校にバレるじゃん?」
「まぁね」
「メイドさんとして置いてくれないですか?」
「……いいよ」
「……えっ? 本当にいいの?」
「うん」
「ありがとう」
もう、あの家に帰らなくてもいいのだ。
月雪くんはアッサリとOKしてくれたけど、まぁいいか深く考えなくて。
「それで〈夜の化物〉についてだけど」
と、月雪くんが言う。
「うん」
「あれは世界を喪失させる存在」
意味がわからないので、訊き返す。
「世界を喪失させる?」
「うん。俺たちを形作る素粒子がバグを起こして、世界が暗闇に消えてしまう」
「真っ暗な闇だった、たしかに」
思い出してみれば、囚われていたのは深い闇のなかだった。
「それを阻止するのが戦士たち」
「うん」
「戦士たちはガーディアンとも呼ばれていて、アーティファクトの力を引き出せる。アーティファクトというのは、昔、
「へぇ」
「バグがなぜ起きるのか、なぜ古代彩醒が武器を作製できたのか、確かなことはわかっていない]
「うん」
「アーティファクトの力を引き出す十二の家門を〈地上の砦〉という。月雪家もその一つ」
「てことは、灰亜も?」
彼は首を横に振る。
「俺は違う。戦士に選ばれてるのは、開戸さんだ」
「私、月雪家じゃない」
「そうだね……」
彼は苦しげな……曖昧な表情を浮かべる。
だが、それは一瞬。別の話題をだす。
「燦吾は、月雪の分家、雪杜家の人間。家門の分家でもガーディアンが生まれることがある」
月雪くんは本家なのに私なんかどこの馬の骨とも知らない女がいきなり戦士になって、内心平静ではいられないんだろう。
私はにこりと微笑む。
「なら私の先祖も月雪家なのかも」
「そうだね……」
彼は傷むような眼をする。それは一瞬。すぐに私を気遣う眼差しをむける。
「今日は疲れてると思うから、ご飯食べたら早く寝よう」
「ありがとう」
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