夜の化物

*月雪 灰亜 視点*


『今日、雪花市に特等の〈夜の化物〉が現れる』


そう予言された一日だった。

それはいま目の前に広がっている。

さっきまでそばにいたはずの開戸斗雪が吞み込まれた。

それどころではない。―—地の果てから果てまで。

校門の外、道路とその反対側の駐輪場と、その両脇につづく建物と、みな黒く広がる空のような、超広範囲の靄にごっそりと吞み込まれている。


俺はアーティファクト〈初牢ういろう〉によって守られ、辛うじて闇の外側にいる。


〈夜の化物〉と戦う戦士たちが生まれやすいの十二の家門を〈地上の砦〉といい、月雪家もその一族だ。


アーティファクトは、力に目覚めた戦士たちの武器となる。古代は数億個あったというが現存するのは百に満たない。化物たちと戦う過程で壊れたり、寿命で壊れたり、意図せず紛失したりと減少した理由は多くある。


十二士族に生まれると、一門が保管しているアーティファクトを持たされる。

化物に襲われたとき戦うためだ。


だが、戦士として目覚めない場合はそれを武器として扱えず、ただ所有者の身を守る盾としかならない。それでもいつか目覚めるときを待望し、アーティファクトを肌身離さない。


……それが、月雪家の傍系でもない開戸さんの首に架かっているなんて。燦吾から貰ったとか。


燦吾は月雪家の分家、戦士を守る護衛の家柄、雪杜ゆきもり家の長男だ。本来なら俺の姉、月雪家長女の扉遠とわの護衛となる定めだった。―—あの日、扉遠ではなく燦吾が戦士として目覚める迄。


しかも彼女のアーティファクトは燦吾の〈力の腕輪〉とはまた別……。


と、思っていたら。突如、目の前に出現した巨大な〈黒い化物〉の闇。

急展開すぎる。


戦えない、自分を守るだけで精一杯の俺の代わりに誰か。


きっと予言が数日前に出ていたから周辺の戦士たちが市内入りしているはず。


混沌とした、この場を治めてほしい。


すると空高く、白い光が闇の中央から立ち昇る。流星群のように、光は無数に分かれて辺りに舞い降り、闇を一瞬にして雪のように真白く染める。目が潰れるほどのまばゆさに俺は、瞬間的に目を閉じる。


ドサッ。


そのとき、前方から何かが倒れてきて、思わず両腕を出して受けとめる。日頃から鍛えた体幹のおかげで何とか尻餅をつかずにすんだ。


目を開けると。


キラリと、その胸元が鋭く発光して。


開戸さんが蒼白な顔で気を失っていた。


世界に色が戻り、音がよみがえり、景色が動き出す。


〈夜の化物〉と戦い、勝利したのだ。


目覚めた戦士は俺の腕の中で眠り、


この可能性のために燦吾は俺に彼女についてるように言ったのかと、納得した。


……面倒な。


早く移動しないと、騒ぎになる。


あれだけの靄を数秒で払ってしまったのだから。





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