第2章 真実は夢の中に隠されて
2-1 ふしぎな夢リターンズ
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『シュヤララク!』
また、あの声がする。
まばゆい光につつまれた白い世界。前回見た夢と全く同じ場所にいた。
『聞こえてるんでしょ、シュヤララク! 返事して!』
『シュヤララク様、どこにいらっしゃるのですか?』
あーもう、うるせぇな。
“シュヤララク”とやらを呼ぶ女たちの声を遮るように耳を塞いだ。
吉谷のおかげで早々に“シュヤララク”の謎が解けたため、この夢への興味がすっかり薄れていたのである。
意味が分からない上に喧しい夢なんて、疲れてる時に見たくない。
ここはいったん目を覚ました方がいいだろう。トイレに行って、水を飲んで、今度こそ穏やかで心地のいい夢を見るのだ。
よし。
――起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ。
頭の中で強く念じる。
『お願いです、シュヤララク様。貴方を待っている時間はもうあまりないのです!』
『ねえ、ちょっとヤバいわよ! 西側の崩壊が始まった!』
なおも“シュヤララク”を呼び続ける色っぽい声の主に、もう片方の声が何やら物騒なことを言っている。
――西側の崩壊?
目を覚ましたいという願望を無視して、俺の脳みそは勝手に物語を盛り上げる気らしい。
『仕方ありませんわ、リオラミトルアルゼ。こうなったら一度神殿に戻りましょう』
『馬鹿言わないでよイナノエルタ! “境界線なき泉”から離れたら、あたしたちの声が届かなくなっちゃうじゃない!』
えーっと。
色っぽい声の方がイナノエルタで、ハキハキした声の方がリオラ……何だって?
この一度じゃ覚えられない長ったらしい名前も、無意識のうちにアナグラムして作ったのだろうか。
だとしたら俺すげえ。
まあ、“境界線なき泉”ってのは、ゲームによくありそうなネーミングだけどな。
そんなどうでもいいことをぼんやり考えている間にも、女たちの会話は続いていた。
『だからといって、崩壊に巻き込まれてしまっては二度とあの方にお会いできませんよ。それでもいいのですか? わたくしは嫌です』
『あ、あたしだって絶対に嫌よ! どこまでも彼について行くって決めたんだから!』
『でしたら、一番安全な神殿に戻ってから別の方法を考えるべきでは?』
『そうだけど……っ!』
リオラなんちゃらという女は感情的な性格をしているようだが、イナノエルタの方はわりと冷静な人物だという印象を受ける。
『大丈夫ですわ、リオラミトルアルゼ。あの人はきっとわたくしたちを迎えに来てくれます』
彼女がなだめると、リオラなんちゃらは納得したように言った。
『そうよね。もっと彼を……シュヤララクを信じなきゃダメよね!』
その言葉を最後に、ふたりの声はピタリとやむ。
最後に聞こえた、どこか遠くに駆けていくような足音が妙にリアルだった。
これで夢は終わったかに思えたが、まだ続きがあるようだ。
静寂に包まれた白い光の中で、俺はおとなしく次のシーンを待った。
正直、先がどうなるのかちょっと気になり始めている。
西側の崩壊がどうとか言ってたけど、どこの西側なんだ?
……ってか、あいつら無事なのか?
イナノエルタと、リオラミトアセル(リオラミトルアセチルコリン? リオラミトアゼル?)の安否を気にしつつ、彼女たちが待っていると言うシュヤララクについて考えてみる。
元ネタが俺の名前なのは分かった。
じゃあ、シュヤララクは俺自身を意味するのか。
それは分からない。
何せ前回見た時もさっきも、真っ白な世界でラジオの音声を聞いてるようなものだったからな。
自分が呼ばれているのか、誰かを呼んでいるのを聞いているだけなのか、まったくの不明だ。
次こそ進展があるといいんだけど。
そんな俺の期待をよそに、静寂は続いた。
まるで問題があって暗転したまま中々再開しない、学園祭のグダグダな劇を見ている気分だ。
もっとも目に映っているのは暗闇でなくて、柔らかい光に包まれた景色なのだが……。
頼む。やるなら飽きる前に始めてくれ。
もしや耳をすませば彼女たちの声がするのでは?
と、思ったその時だった。
とつぜん強い光が視界を覆う。
さっきまでのぼんやりとした光じゃなくて、もっと強烈なものだ。近くから大量のスポットライトを当てられた、そんな感じ。
目を瞑って両腕で顔を覆ったところで効果はない。めちゃくちゃ焦ったが、痛いくらいの眩さは一瞬で終わった。
おそるおそる目を開けると、そこはさっきまでの何もない真っ白な世界ではなく――
自然に囲まれた森らしき場所だった。
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