第19話 ギルドへの報告

「えっ!ウェルくん昨日冒険者になったばかりなの!?」


 ギルドへ向かう道中。他愛無い身の上話の最中にピュイは驚きの声を上げた。


「そうだよ。昨日この街に着いて、今日初クエストだった」


 その発言にピュイはフードの奥の目を見開いた。


「はー……また凄いデビュー戦だったね」


「あはは!ホントにな!」


 ウェルは改めて今日の出来事を思い出すと思わず笑ってしまった。そして、ふとずっと気に掛かっていたことを口にした。


「なぁ、俺も1つ聞いてもいいか?」


「ん、何?」


「ピュイってさ……男?女?」


 その質問の意味が分からずピュイは歩みを止め固まってしまった。そのまま歩いていたウェルは横にピュイがいない事に気づくと不思議そうに振り返った。


「おーい、どうした?」


 声をかけられピュイはようやく金縛りから解き放たれた。


「はっ、えっ!?ぼ、僕は男だよ!?もしかして女だと思ってたの!?」


 その慌てぶりが面白くウェルはからかう様に、


「だって、ずっとフードを被ってるから分かんないんだよ。声も高いしさ」


 少し不満気に口を尖らせた。するとピュイは咄嗟にフードを掴んだ。


「……ごめん」


「へっ?」


 急に謝られたウェルは思わず間の抜けた声を出した。


「こんな風にフードをずっと被ってることが変だし、失礼なことだって重々分かっているんだ……でも、それでも……」


 ギュッとフードを掴む手に力が入る。その様子を眺めていたウェルはからかったことを少し反省しながら思ったことを話し始めた。


「……別にいいんじゃないか?そのままでも」


「えっ?」


「人間誰しも譲れないことはあるだろ?ピュイがフードを絶対に外したくないなら別に外さなくていいんじゃないか?」


 そうあっけらかんと言い放つウェルをピュイは目を丸くして見ていた。


「そう……なのかな?」


「本気でそうしたいなら周りなんて関係なく、そうすればいいと思うよ」


「……そうか……そうだね……その通りだ」


 ピュイは小刻みに何度か首を振ると顔を上げた。


「ありがとうウェル。なんだか少し気が楽になったよ」


 少し元気が戻ったピュイにウェルは笑い返すと、


「そいつはよかった!じゃあ早くギルドに行こうぜ!もう腹がペコペコだよ」


 ピュイを急かす様に2人はギルドへ向かった。





 ギルドへ戻ってきた2人はとりあえず受付嬢にクエストの成果と遭遇したトラブルについて報告することにした。受付のカウンターに向かうと朝と同じ黒髪の受付嬢が座っている。


「おかえりなさいウェルさん。……とピュイさんもご一緒でしたか」


「ただいまマミヤさん。ウェルとはクエスト中にたまたま知り合ってね」


「ああ。危ないところを助けてもらったんだ」


 そうでしたか、とにこやかに頷くマミヤだったが1つ気になったことを聞き返した。


「危ないところというのは?確かウェルさんが受けたのはキノコの採取クエストだったはずですよね?」


 その問いにウェルとピュイは顔を見合わせる。そしてピュイは小さく頷くと、


「マミヤさん。実は僕たち……クエストの結果以外に報告しなければいけないことがあるんだ」


 今日起きた出来事を説明し始めた。



 ——今回の事件の説明を最後まで聞いたマミヤは話しが終わると真剣な面持ちで口を開いた。


「なるほど……報告ありがとうございます。……本来であればギルドマスターかギルドリーダーに直接報告いただくのですが……ただいま両名共不在でした」


「えっ?珍しいね2人共いないなんて」


「実は……報告いただいた件に似た事例が何件か発生してまして……その調査に行ってるんです」


「他のところにも魔物が!?」


 ウェルは驚いて声を荒げた。


「ええ。私たちもまだ詳細を聞いてないので説明できないんですが……なので申し訳ありませんが明日また報告に来ていただけないでしょうか?」


「俺は構わないよ。ピュイは?」


「僕も大丈夫。じゃあ明日また伺おう」


 2人が快諾するとマミヤは嬉しそうに微笑んだ。


「ありがとうございます。それではとりあえず通常のクエストの精算をしましょう。ウェルさん、そのキノコの山をお預かりしても?」


 ウェルは背負っていることをすっかり忘れていた籠をマミヤに手渡した。


「それでは計算してくるのでこちらでお待ち下さい」


 そう言い残すとマミヤは籠を一生懸命持ち上げてフラフラしながらカウンターの奥に消えていった。その様子をハラハラ見ていたウェルとピュイはようやくひと段落した安心感からか同時に大きく溜め息を吐いた。





 精算を終えた2人が外に出ると空はすでに真っ黒に染まっていた。


「今日は本当にお疲れ様。ウェル」


「そっちこそお疲れ様」


 と、お互いに労をねぎらった。ピュイは腕に下げているキノコがたくさん入った袋を少し掲げ、


「本当にいいの?こんなにキノコもらっちゃって?」


「ああ。まさか俺も注文量の上限を超えてて買い取れないって言われた時はどうしようかと思ったよ」


 自嘲気味にウェルは笑った。


「まぁ、そのおかげで僕は美味しいキノコが食べれる訳だし感謝感謝♩」


 一方のピュイは思わぬお土産が出来たことで上機嫌に帰路につく。そんな浮かれているピュイにウェルは、


「んじゃ俺こっちだから……ピュイ」


「ん?何?」


「また明日」


 そんな何の変哲も無いお別れの挨拶をした。ピュイは何故か一瞬驚いた様に大きく目を開くと、今度は何かを堪えながら平常を装って挨拶を返した。


「……うん!また明日!」


 こうしてウェルは別れを済ませ、月の光亭に帰っていった。

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