第18話 ディアバルト家のお嬢様
——その後、幸いなことにウェル達は魔物に襲われるなどのトラブルも無くシルバリオンヘ到着した。北門の衛兵達がただならぬ状況を察したのか迅速に対応してくれたおかげで意外と早く入場することが出来た。
(これが、もしザインさんだったらもっと時間食ってるだろうな……)
ウェルは心の中でそう考えたがそのまま飲み込むことにした。
「ウェルくん」
そんなどうでもいいことを考えているとピュイが話しかけてきた。
「僕はこれからギルドに報告に行こうと思うけど一緒に行かない?クエストの報告もそうだけど、クエスト外の出来事も報告した方が良いと思うから」
ウェルはポンッと自分の手で相槌を打つと、
「ああ、俺も行くよ。いつまでもこれを背負っている訳にはいかないしな」
そう言いながら自分の背中にあるキノコ籠を親指で指す。
「アーバンス様、オビエント様」
そんな2人を様付けで呼ぶ人物が現れた。綺麗な白髪の執事服に身を包んだ年配の男性は2人の名を呼んだ後深々とお辞儀をした。
「ご挨拶が遅れてしまい誠に申し訳ございません。私あの馬車に乗っておりました、ディアバルト家で執事を務めておりますセバスと申します。この度は危ないところをお救いいただきありがとうございました」
「いやいや。怪我はなかったですか?」
「はい、おかげ様で。私もお嬢様も無事でございます」
「それは良かった……ん?お嬢様?」
ウェルは不思議そうに聞き返した。続けてピュイもアラン達の会話を思い出し首を傾げた。
「確かアランさんが主人って……」
「はい。お嬢様が外出する際はあえてそう呼ばせております。馬車の中にいるのがお嬢様だと分かると不埒なことを考える輩がおりますので」
「そういうことか」
ウェルとピュイはなるほど、と感心した。
「お嬢様が直接お二人にお礼が言いたいとのことなのでお手数ですが馬車の方までご足労いただけないでしょうか?」
2人は頷くと馬車へ向かった。
「お嬢様。セバスです。ドアをお開けいたします」
「はい」
綺麗な澄んだ声で返事が来たのを確認したセバスは高級そうな馬車の装飾が施されたドアを開いた。
「さぁお手を」
セバスの差し出した手を華奢な手が握り返すとそのまま招かれるように女性が現れる。その女性は美しいエメラルドグリーンのロングヘアーを有すまだどこかあどけなさが残る少女だった。馬車の階段を一段二段と降り、地面に降り立った少女は綺麗なドレスのスカートをちょんとつまみ持ち上げると軽く会釈をし名乗った。
「この度は危ないところを助けていただきありがとうございました。私はディアバルト家次女。エリス・ベルエール・ディアバルトと申します」
まるで劇中に出てくるかの様な本物の貴族の美しい所作にウェルとピュイは一瞬心を奪われた。エリスの綺麗に整った表情も相まってより一層高貴な品格が溢れる。
「あ……ああ、俺はウェル・アーバンス。んでこっちが」
「ピュイ・オビエントです」
緊張の中2人はなんとか挨拶を返すとエリスはフフッと笑みを浮かべた。
「そんなに緊張なさらないでください。お二人は私の命の恩人なのですから」
ウェルは照れくさそうに頬を掻いた。
「この度のご恩は絶対に忘れません。もし何か困ったことがあったら必ずお力になりますので」
そう言い放つとエリスはセバスに目で合図を送る。セバスはいつのまにか持っていたカバンから小さい龍が刻印されたブローチを二つ取り出すとウェルとピュイにそれぞれ手渡した。
「これは?」
ウェルは受け取ったブローチを覗き込みながら質問するとセバスが答えた。
「それはディアバルト家の象徴でもある龍が刻印されたブローチでございます。それを持つ者はディアバルト家の関係者であることを証明するものです。何か権力の絡む事柄に巻き込まれた際はそれを見せれば必ずやお力になるでしょう」
「そ、そんな貴重なものいただけないです!」
ピュイは受け取ったものの価値を理解すると少し青ざめた。エリスは首を小さく振ると、
「もし、必要なければそのまましまっていただいても結構です。とにかく今私めが感謝をお伝えするにはこれしか出来ないので……お納めいただけないでしょうか?」
儚げな少女に困った顔で見つめられたピュイはうっと言葉に詰まる。ウェルはそんなピュイの肩をツンツンとつついた。
「ありがたくもらっておこうぜ?お互いに困ることもないし」
ウェルにそう促されると、ピュイは少し考えるとそうだねと頷き大切そうにポーチにしまった。その様子を見届けたエリスはホッと息をついた。
「お二人ともありがとうございます」
エリスはようやく笑顔を見せると、つられてウェルも笑顔を返す。
「お嬢様……」
横にいたセバス何かを促す様につぶやく。
「ええ……申し訳ございません。私達はそろそろ屋敷に帰らせていただきます」
そう言いながらエリスはアラン達の方を眺める。
「私達のために亡くなられた方々の家族への対応もありますので……」
辛そうにそうつぶやき顔を少し歪ませた。
「またお会いましょう。それまでどうかお元気で」
エリスは最後に一礼すると馬車に乗り込んだ。
遠くで手を振り背を向けて去っていくアランとディアバルト家一行を見送ると、
「それじゃあウェルくん、僕たちも行こうか?」
「ああ、そうだな」
ウェルとピュイはギルドへ向かい歩き始めた。
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