第4話 流通都市シルバリオン
――とりあえず角猪を外に置き、詰所の中では無精髭の男によるウェルの取り調べのようなものがテーブルを挟んで行われていた。
「……んで冒険者を目指してプラナ村から旅して来たと……」
「ああ」
これまでの経緯を話したウェルを無精髭の男は疑いの眼差しで見つめる。
「えーと、俺なんか悪いことしたのかな?」
頭をボリボリと掻きながら男は答える。
「いや、別にお前は何も罪を犯してないよ。さっき俺たちが驚いてたのは急にでっかい砂埃が上がったと思ったら、でけぇ角猪が突進してきてよく見たら子供がそれを背負ってて……まぁなんかよく分かんない状況だったからテンパってただけだ」
「あー、なるほど……」
無精髭の男の言葉に後ろの2人もうんうんと頷く。
「俺が胡散臭く感じてるのはダンジョンを攻略したってところだ」
男の言葉にウェルは首を傾げる。
「……?ダンジョンは攻略するもんじゃないのか?」
「そりゃあそうだが……通常ダンジョンの攻略っていうのは冒険者ギルドの中でもトップクラスのクランがいくつも集まってようやく出来るかどうかだ。1人単身で攻略なんて聞いたことねぇわ」
「そうなのか……」
(……あのじじいめ……そんな無理難題を村を出る条件にしてやがったのか)
ウェルの脳裏にしてやったりと笑う村長の顔が浮かんだ。
「でも、まぁ……」
男はちらりと窓の外の角猪に目をやる。
「あんなの1人でぶっ倒すぐらいの小僧だ。全部が全部嘘言ってると思えないし信用してやるよ」
「ありがとう!おっさん!」
「おっさんじゃねぇ!俺の名前はザインだ!」
自分にビシッと親指を指して名乗るとザインは話を続けた。
「まぁこんなんでも一応はこの東門の通行に関する審査官をやってるもんでな。怪しいやつはそれなり警戒しなきゃならんのよ」
ウェルに対して警戒を解いたのか、砕けた雰囲気でザインは話を続け、
「というわけで一方的に疑ってかかって悪かったな」
この通りと頭を下げた。
「いやいや、こっちこそ騒がして悪かったよ」
と、ウェルも頭を下げる。ザインは頭を上げるとニカッと笑った。
「よしっ!んじゃ本来の業務に取り掛かるか!」
と言いながら紙とペンを取り出した。
「ウェルだったか?お前読み書きは?」
「出来るよ」
「オーケー、手間がかからず助かる。ここに書いてある項目を埋めてくれ」
「わかった」
紙とペンを受け取りウェルは用紙に記入を始めた。用紙にある項目は氏名、年齢、出身地、都市に来た目的、身分証の有無であり、スラスラ書き進んでいたウェルは目的と身分証の項目でペンを止めた。
「この目的って何にすればいい?あと身分証って持ってないんだけど……」
「うん?ああ、とりあえず身分証に関してはこの後冒険者ギルドに登録すれば作成してもらえるから無しでいいぞ。あと、目的に関しては今は仕事にしておけ」
「わかった」
「ちなみに滞在期間はどのくらい予定してるんだ?」
ザインの質問にウェルのペンを持つ手が再び止まった。
「……オーケー、ノープランだな」
「うっ……」
図星を指されウェル小さく呻く。
「仕事扱いでの滞在は3ヶ月が最長だ。それと手間だが1ヶ月ごとに滞在許可証の更新が必要になる。もしそれ以上滞在するなら移住扱いになるな」
「最初から移住では入れないのか?」
ウェルの質問にザインは軽く首を振った。
「移住するには各ギルドの身分証か、もしくはそれなりに効果のある紹介状が必要なんだ。こちらとしても誰彼構わず移住させるわけにはいかんからな。まぁ、冒険者になるならそれなりの功績を挙げてギルドに紹介状を書いてもらうのが1番手っ取り早いぞ」
「へー、わかった」
ウェルが納得するとザインは書類の最後に判子を押し、押印が半分になるように紙を破いた。その片割れをウェル差し出す。
「これは?」
「これが滞在許可証だ。身分証を作るまでそれが代わりになるから無くすなよ。ギルドに登録する時も必要だからな」
「これがそうなのか」
ウェルは紙を受け取ると無くさないように腰のポーチにしまった。
「手続きは以上だ。あとは……あれの始末だが」
ザインは外の角猪を指す。
「この門……東門だな。これを入ってまっすぐ行くと大きな噴水広場がある。噴水に向かって右の大通りに行くとと【解体屋】しか書いてない看板の店があるからそこで獣の解体をしてくれるぞ。ただし、ギルドの身分証がないとやってくれないからとりあえず預けておきな。んでギルドの場所だが、噴水を越えてまっすぐ行くとギルドの集まった一角があるからそこに行けばすぐわかる」
ウェルはわかったと頷く。
「あと、なんか質問あるか?」
「あー……そうだ!オススメの宿を教えてくれ!」
ザインは少し考える素ぶりをすると、
「解体屋近くの【月の光亭】がオススメだな。店主はおっかないが飯は美味いし値段もそんなに高くないからな。俺たちもたまに飲みに行く」
ザインの言葉に後ろの2人がまたもや頷く。
「いいなそこ。行ってみるよ」
「俺の紹介だって言えばたぶんサービス良くしてくれるぜ」
ザインは親指を立てると星が出そうなウィンクを放ったがウェルは軽くいなした。
「ザインさん色々ありがとう。とりあえず紹介された所に行ってみるよ」
ウェルは頭を下げてお礼を言ったあと、外に出て角猪を背負い直した。
「よしっ。じゃあ行ってきます」
「ああ、気をつけろよ!」
ウェルはコクッと頷きザインに背を向け街の方へ歩み出した。
「あっ!おいっ、ウェル!」
「ん?」
思い出したかのようにウェルを呼び止めるザイン。
「悪い悪い、必ず入るやつに言わなきゃいけないことを忘れてた」
ザイン達は背筋を伸ばし手を額に持っていき敬礼すると、大きな声で言い放った。
「ようこそ!シルバリオンヘ!貴殿に大天使様の加護があらんことを!」
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