第2章 ギルド

第3話 新しい街へ

 ――ウェルが村を旅立って4日が過ぎた。


「あー!しつこいな!」


 そんな悪態をつきながらウェルは森の中を全力で駆け抜けていた。ドスンドスンと大きな音を立てて自分を追ってくるものを後ろを振り返り確認する。


 ブモォォォォォ!


 目が合うと耳障りな鳴き声をあげながら、猪に角が生えたような獣がウェル目掛けて更に加速してきた。


「しまったなー……まさか角猪の縄張りを通っちゃったとは……」


 ウェルは走りながら1人反省し頭を抱えた。


「でもまぁ、このまま逃げっぱなして言う訳にもいかないし……」


 ウェルは進行方向に足を思い切り突っ張りブレーキをかけ減速すると角猪に向き直った。


「悪いけど、押し通らせてもらうぞ!」


 しっかり向き合うと3メートルはあるであろう巨大な体躯が猛然と突っ込んでくる。ウェルは腰を落とし、ぐっと拳を握りこんだ。


「くらえ!弱肉強食パンチ!」


 ダサ過ぎる掛け声と共に繰り出された拳は的確に角猪の鼻っ面を捉えめり込む。そのパンチはズドォン!というおおよそ打撃音とは思えない轟音を生み出し、角猪の動きを完全に止めた。


「ブヒィ……」


 角猪はか細く鳴くと、ぐるんと白目を剥き泡を吹きながらその場に崩れ落ちた。


「よしっ、頭を吹き飛ばさないように上手く手加減出来たな」


 満足そうに頷くとウェルは角猪の腹辺りに回り込み、死骸をヒョイと片手で持ち上げた。


「流石に俺1人じゃ食い切れないし、街に着いたら捌いてもらおう」


 そう言うとウェルは再び村長に教わった街の方向へ歩き出す。


「楽しみだなー!新しい街!」


 担いだ角猪の目とは対象的にその目は爛々と輝いていた。





「見えた……」


 角猪を仕留めてから2時間程。ようやく森を抜けたウェルの目に飛び込んできたのは地平線に広がる大きな街だった。


「あれがシルバリオンって言う街か!」


 嬉しそうにそう口にすると、うずうずしたウェルは喜びを抑えきれないように駆け出した。


 通常、プラナ村と都市シルバリオンの距離は馬を使って早くても7日はかかる距離である。それをウェルは自分の足だけで4日という驚異的な速さで走破してしまった。


 巨大な角猪を担いでいるとは思えない速さで砂埃を舞い上げながら街に駆け寄っていくウェル。大きな門がみるみる近づいていきもう少しで到着という所で、


「そこのやつ止まれぇー!」


 ウェルに向けて静止する声が轟いた。


「!」


 ウェルはズザーとブレーキをかけて止まると、門の脇にある詰所からわらわらと3人の男達が飛び出してきた。よっぽど慌ててたのか男達の着込んだ鎧は、兜が曲がっていたり、前後逆だったり、そもそも下半身を履いてなかったりとチグハグだった。その内の1人履いてない無精髭の男が1歩前に出て、ウェルの方に指を指す。


「お前は一体何者だー!」


 ウェルはびっくりすると、慌てて後ろに誰かいるのかと振り返る。釣られて背負った角猪も振り返った。


「違ーう!角猪背負ったお前だ!」


「えっ!?俺!?」


「お前だよ!とりあえずそれ置いてこっちに来い!話は詰所で聞くから!」


「わ、わかった」


 ウェルはコクリと頷くと角猪も頷いた。

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