第11話
「おはよう」
目が覚めた時には、なぜか私は椅子にかけていて、目の前に湯気を立てるミルクティーのカップと、申し訳なさそうなユウの顔があった。
「おは……よう?」
なんとなく挨拶を返してから、ふと思い立って、窓と時計を見た。どうやら午後のようで、穏やかな日差しが差し込んできている。時間を見ても、朝ではない。
また意識が飛んでいた……そのことは仕方ないにしても、どうしてユウが私のために紅茶を作って、罪悪感に苛まれた表情をしているのか、それが不思議だった。
「ねえ、リアちゃん」
ユウが言った。
「なに?」
「僕……君に謝らないといけないことがある」
テーブルの上に置かれた彼の両手は、もじもじと居心地悪そうに動いていた。
「ん?」
「よく説明することは難しいんだけど、僕はその……ちょっとしたズルをしたんだ」
「ズル? どんなズルしたの?」
ユウはぎゅっと両手を握りしめた。
「僕は自分で対処しなくちゃいけない問題から逃げて、つい、全く関係ない人にそれを押し付けてしまった。そしてその結果、そのせいで……君の友達を傷つけてしまった。僕のせいで、君の友達は、君とはもう会いたがらないかもしれない」
「そうなの? じゃあ、シノと会ったの?」
「会ったのは僕じゃなかったけど、僕は、中に隠れて彼を見てた」
私はもう、深く考えるのはやめていた。怒りも別になかった。ただ、ユウのこんな顔を見るのは初めてだなあと、そんなことを考えていた。
「僕はね。だいたいずっとそうやって嫌なことを切り抜けてきたから、それしかやり方を知らなかったんだよ。周りの誰もが信用できなかったし、自分以外はどうなったっていいと思ってた。でも、それで君が友達を失って悲しむなら、それは謝らないといけないと思った。たとえシノくんが、君や僕に危害を加えるつもりで近づいてきてたのだとしても……うまく言えなくて、その、本当にごめ……」
私は黙って手を伸ばし、ユウの頬に触れた。彼の青い瞳が、おずおずと私の方を向く。それをまっすぐに見つめ返して、私は言った。
「それでもし友達でなくなるなら、どうせ、すぐいなくなってたよ」
「……」
ユウは苦渋の表情で目を閉じた。
「私は、ユウの方が大事」
「どうして?」
「ユウが、私を大事にしてくれるから」
その日から、公園に行ってもシノに会うことはなくなった。けれどその代わり、ポストに時々手紙が届くようになった。高級そうな便箋に、万年筆の青いインクで綴られた文章には、シノの愚痴がびっしりと並んでいた。時候の挨拶も、こちらを気遣う定型文も、そこには一つとしてない。一方的にぶつけられる鬱憤の塊が、それでもなぜか私には、少しだけ嬉しかった。
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