第4話



「は? 友達?」


 だだっ広いホテルのロビーで、俺は読んでいた新聞から顔を上げ、思わず聞き返した。ソファの隣に座ったユウは、両手で顔を覆ったまま、こくこくと頷いた。

「リアちゃんに、友達ができたらしい……」

「は? いや……よかったじゃねーの。なんでそんな落ち込んでるんだよ」

「それはだって……だってさぁ……」

 めんどくさいな、と新聞記事に目を戻す。

「いい歳してやきもちかよ。気持ち悪い」

「そんなんじゃないってぇ」

「あっそ」

 聞き流して新聞を読んでいると、背後から首を締めるように抱きつかれる。

「おやおやー? 今日は珍しく、我らがユウ君が落ち込んでいるようだねぇ」

「ぐえ」

 アヤセだった。

「名無し君、これはチャンスなのでは? 十年以上にわたるユウの絶対王政を覆す、革命の時なのでは?」

「か、革命の前に、俺の大動脈を解放してくれ」

 どうにかアヤセの首絞めから抜け出したが、咳が止まらない。そんな俺に構うこととなく、アヤセが楽しそうに続けた。

「いやーなんでもね? リアちゃんのリアちゃんじゃない方が言うにはね、どうやら彼女には男の子の友達ができたらしいぞ。公園で出会って、その日に友達になるなんて、あの子も意外とやり手じゃあないかー!」

「もう無理死にたい」

 はっはっは! と高らかにアヤセが笑い声をあげた。酒も入っていないのに、彼女はいつもこんな感じに素面でテンションが高い。それがたまに羨ましくもあるが、絡まれる身としてはもう少し静かにしていてもらいたいものだ。

「ユウは言う割に友達いないからなあー! まあ気にするなって。私たちがいるじゃん。ていうか、ユウのその落ち込みようから察するに、もしかしてリアちゃんって子に恋しちゃってたりするわけ?」

 ユウは俯いたまま首を振った。

「いや、そういうのとは違う……例えるなら、これは、一緒に不妊治療してた友達に先に赤ちゃんができちゃって、置いてきぼりにされた女性の気持ち、というかなんというか……」

「なにその例え、超気持ち悪い」

「傷口に塩を塗らないで」

 

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