第四節 太平洋連合艦隊司令長官付参謀 最上時雨中佐


それからしばらくして、太平洋連合艦隊が再編され司令官、つまり海軍における対連衆国以下の国々との戦争を最高指揮官が決まった。それは海軍次官であった宮本八十丞中将だった。宮本中将は連合国との開戦や陸軍や海軍の開戦派が模索する国家社会主義連邦及び神聖王国との三国同盟には否定的であり、佐内高政さないたかまさ中将や田上久美たのうえひさよし大将と並ぶ海軍左派と呼ばれている。しかし、彼が就任することに強い反対が出なかったのは、宮本中将の人柄ゆえだろう。私の前いた世界における山本五十六を思わせる宮本中将の人柄は私もよく知っていた。ゆえに、両意見の拮抗している海軍内をまとめるために適任と判断されたのだろう。私は、静かに自分の与えられた仕事を黙々とこなしていくことだけを考えていた。

そんなときに、私は宮本司令官に呼ばれ海軍司令本部へと召喚された。司令官室にいたのは大将に昇進した宮本司令官と海軍の実質的トップである海軍司令部長永峰道徳ながみねみちのり大将、そして穂積貞也みずもていや中将、多摩内左門たまうちさもん中将、沢原辰磨さわはらたつま少将、高澤治五郎たかざわじごろう中将が待っていた。

「宮本大将閣下が直々にお呼びとは穏やかではありませんね。」

私がそう告げると、宮本司令官は静かにその重い口を開いた。

「まあ、そんなに固くならないでくれ、君の論文、読ませてもらったよ。実に興味深いものだった。ここにはいないが佐内や田上もかなり興味深く読んでいたよ。」

「そうですか。ありがとうございます。」

私が形式的に礼の言葉を述べると、他の将官からそれぞれに感想を受けた。

「いやはや、貴官の論文はとても素晴らしい出来だったよ。今後の世界情勢や戦略軍務省でもとても話題になっているよ。」

「まったく、君の先見の明には恐れ入るよ。」

「陸軍の方もかなり君の論文に熱心だというし、我が海軍としても鼻が高いよ。」

「とても参考にさせてもらいましたよ。」

「まあ、少しばかし脚色が強かった部分はあると思うがね。私は。」

それぞれに私は礼を述べると、宮上司令官の元へ向き直った。

「それでどういったことでお呼びでしょうか? まさかあの論文の感想のためと言うわけではありませんよね?」

「ああ、そうだった。君には太平洋連合艦隊司令長官付参謀に任命する。つまり私の参謀になってほしいんだ。」

私は驚きを隠せないまま、宮本司令官に告げた。

「わ、私ですか? しかし、私より適任の人材はいるような気がするのですが・・・。」

そう謙遜した私に声をかけたのは永峰海軍令部長だった。

「いやいや、あの論文の筆者である君がこれをしないと他の将官や陸軍の納得を得られないよ。それにだ、君だって自分で作戦を考えたくはないかね?」

「それは・・・。分かりました。謹んでお引き受けします。」

「それでだ。いざ開戦となった時に、君には太平洋連合艦隊司令長官付参謀として現場に赴き、この穂積中将を補佐してほしいのだ。宮本司令官には本国に残ってもらい、君に参謀として来る作戦の案を出してもらいたいのだ。」

私は呆気にとられながらも快諾をすることにした。そもそも、自分の中で考えている作戦を実行するためには最初から作戦に関わった方が何倍も発言力を増すことができる。それに宮本司令官は元々開戦には否定的だ。もちろん頼まれた注文には満額で回答する優秀な軍人だが、現場の不安は消えないだろう。そう考えると、自分が司令官の代行としてそういった均衡を保つためなのだと思った。そう考えると気を引き締めていかなければならないと感じた。

さて、いつになるか分からないその時のために、様々な可能性を考えておかねばならない。そのためには今以上に知識が必要だ。そう考えながら私は司令官室を後にしていった。

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