第三節 戦況報告と想定外戦果
第一航空艦隊旗艦の空母『宮古』の艦橋で第一航空艦隊司令官
穂積貞也は予想以上の結果に満足しつつこれからどうするべきかを考えていた。
「やはり、事前情報通り空母はいなかったな。」
「そうですね・・・恐らくはウェーク島やミッドウェー島へ向かっているのでしょう・・・。どうなさいますか?」
そんな二人のやり取りを通信員が遮った。
「『
この言葉に、最上は少しだけ口元を緩めてしまった。多摩内中将も沢原少将も闘将だということを改めて感じてしまったからだ。そんなことを思っていると穂積は先ほど自分との話し合いで出た案を元に指示を出した。
「『手取』に伝えろ。索敵機を至急出すようにと、な。」
それからしばらくして、最上は自分の読みが的中しているということを改めて知ることになる。
ウォルター・ヒューイット中将の指揮する空母『オールドチャーチ』は、アウィ―諸島沖西方二五〇マイルを水晶湾へと向かって航行していた。ウェーク島への航空機の輸送をしている途中であった。第八機動部隊の構成は空母一隻、重巡三隻、駆逐艦八隻である。ヒューイットは不満げに海を見つめながらつぶやいた。
「どうやら、我々は猿どもに一杯喰わされたようだな。ターンブル・ノートさえ渡せば奴らは怒りに身を任せて攻撃してくると誰かが言っていたが、どうだ何も起きないじゃないか。」
そう副官のカルミントン大尉に愚痴っていると艦橋の電話が鳴った。カルミントンはそれを取り上げるとヒューイットへ渡した。
「司令官! 水晶湾がモンキーから攻撃を受けているとの事です! たった今ラジオから入ってきました空襲のようです!」
当直士官からの連絡だった。ヒューイットは当直士官へ努めて冷静に質問をした。
「それで、クリスタルの状況はどうなっているのだ?」
「それが・・・。途切れ途切れなのですがかなり悲惨な状況のようです。少なくとも戦艦『ミネソタ』・『イリノイ』・『ニューメキシコ』が沈没したようです。また基地自体もかなり損傷を受けているようです。」
「そうか、分かった。」
それから少しして、水晶湾基地のカルマン大将からヒューイットに太平洋を航行中の連衆国海軍の艦艇の指揮権を与えるものだった。それを受けたヒューイットは艦長へ指示を出した。
「艦長、戦闘準備だ。すぐに哨戒機を出すんだ。」
そう指示をした後、ヒューイットはこうつぶやいた。
「クリスタル・ハーバーの恨みを晴らすんだ。」
その頃、穂積中将と最上中佐の率いる機動部隊は、カウアイ島の西北西一三〇海里へと南下していた。索敵には、『手取』と『釧路』から零式観測機を三機ずつ飛ばしていた。他にも『宮古』・『珠洲』からも艦上攻撃機を二機ずつ出している。他の航空機は、全て次の攻撃のために給油や弾の補給などをしていた。穂積は最上との相談により索敵範囲を約二五〇海里としてその間に銃日本の哨戒線を張ったのだ。
『手取』の索敵機二番機は第十二線を飛行していた。狭山飛行軍曹はベテランとして、敵艦隊を発見するべく必死に目を凝らしていた。自身の索敵能力に全てがかかっていると考え、絶対に見逃すつもりはないと考えていたからだ。そうしていると、高度四千に差し掛かった時、海面に黒い点を視認した。それは何度も訓練で見たものだ。見間違いでないか何度も確認した。そして、自身の目が間違いではないことを確かめた。
「駆逐艦だ! それにむこうにあるのは重巡のようだな。一つだけじゃないいくつもあるぞ!」
そう、口走ると通信員の香西少尉に視認したことを伝えた。自分より一回りも若い香西少尉は丁寧な口調で質問してきた。
「重巡の型はわかりそうですか? それから何隻あるかも確認できるでしょうか?」
「ええっと。重巡の型は恐らくメンフィス級・・・、いやもといウィルミントン級です! それから視認したのは三隻です!」
ウィルミントン級は連衆国海軍が誇る最大の重巡洋艦であり、排水量は九九五〇トン、最大速は三十二ノットである。その奥からそれとは比べ物にならない巨大な艦影が表れた。狭山も実物は見たことが無かったが、何度も資料などで見たことがある。どうやらコンコード級空母のようだ。狭山は普段冷静な男で、どんな時でもあまり感情を出さず同期からはつまらない男と言われているがこの時ばかりは、頬を緩めてしまった。なぜなら、自分が敵艦隊の機動部隊を見つけたのだから。それは、若い香西少尉も同じだった。香西は急いで無電を打った。
「我、手取二番機、敵機動部隊発見。戦力空母一隻、重巡三隻、駆逐艦八隻を伴う。味方からの方位二百二十度。距離二百十五海里 ヒトヒトゴーマル。」
『宮古』の艦橋は手取二番機からの報告を受け、感嘆の声があちらこちらから聞こえた。穂積は直ちに機動編隊を出撃させるよう全艦へ指示を出した。その際、『宮古』以下八隻には可能な限り早期の発艦を命じた。これは、最上からの意見でありこちらの艦隊が発見されている可能性も否定できずなるべく早くに行動に移すべきであると考えたからである。この最上の読みは正しかったということを多くの飛行士たちは思い知ることになる。それからはとても速かった。とても数時間前に水晶湾を攻撃した編隊とは思えないほど速やかかかつ正確にすべての航空機は発艦していった。その手際の良さには艦橋は呆気にとられたほどであった。
手取二番機が『宮古』へと発見の報告を挙げていた時、『オールドチャーチ』の艦橋でヒューイットは、上空を飛行する索敵機の存在を認識した。それを航空機と認識した途端、ヒューイットは嫌悪感を隠さずに小さく舌打ちをした。
「猿どもめ、もう見つけやがったか。」
忌々しそうに隣にいたカルミントン大尉に呟いた。カルミントンは別に自分のせいで見つかったわけではないと思いながら極めて事務的に対応した。それはヒューイットも同じだった。
「全艦に対空戦闘準備態勢を取るように伝えろ。」
「戦闘機を飛ばしましょうか?」
「無駄だろうな。こっちの位置はもう報告されているだろう。普通、恐らく乗っているのはベテランの観測手だろう。航空戦力がものをいうこのご時世で海軍にとって索敵能力は必要不可欠な能力だ。それはあいつらが一番よくわかっているだろうよ。なんせこの世で鳥や虫以外で空を飛んだ最初の奴はあいつらなんだからな。」
「はぁ・・・。」
「それより、こっちは向こうの艦隊を視認したという報告は入ってこないのか?」
「今のところそう言った報告は上がっていません。」
カルミントンがそう告げると、ヒューイットは悔しげに、
「極東の猿どもめ・・・!」とつぶやいた。
『紅龍』の第一分隊長宮瀬大尉は自身の愛機の準備をしていた。穂積中将からの注文で正確かつ迅速に発艦準備を行うようにとの通達が来たからである。宮瀬からしてみると、本日二回目の発艦ということもあり決して最初ほどの緊張は無かった。ただ今回は水晶湾とは違った方向で緊張していた。敵機動艦隊があるということは、恐らくもう水晶湾攻撃の報せは、向こうにも届いているであろう。しかも、敵機動部隊も空母を擁している。つまり航空機があるのだ。水晶湾ではほぼ航空戦力が無く航空戦に至らなかったことは幸運だった。自分たちは何度も演習し徹底的にそういった練度も高めてきているがそれでも不安はある。そう思いながら自身の愛機零式戦闘機へと乗り込むのだ。しかし、この後宮瀬は自分が自分の愛機を過小評価していたことを痛感することになる。零式艦上攻撃機は航続距離と運動性能に置いて正しく世界で類を見ない戦闘機である。元はと言えば軍部からの無理な注文を技術者たちが徹底的に答えた結果だ。当初は軍部からの譲歩案も出た。しかし、航空機開発に置いて独走を続ける皇国軍は陸軍・海軍両軍の技術者の協力によりそれを成しうることが出来たのだ。宮瀬大尉は、準備が完了したことを受け自身の愛機に乗り込み発艦の指示を待った。
皇国機動部隊攻撃隊長長坂文乙大佐は、宮瀬大尉より先に『天亀』を発艦し目的の地点まで自身の隊を連れて飛行を続けていた。長坂は自分でも怖いほどに落ち着いてた。それは、もう自分が、あの大国の、基地を潰したからと言うこともあるのだろう。それ以外にも、自分が戦場を生き場所としていることを改めて知ることが出来たからだろう。長坂は、十四歳で航空士官として海軍で異例の出世をした人間だ。彼が航空士官になった時はまだ航空機の役割は索敵が主で攻撃は二の次だった。ロマノア帝国との戦争で大艦隊主義が根付いていたことから自分は煮え湯を飲まされたのは今でも忘れない。故に、宮本大将の水晶湾攻撃作戦で、自分たち航空部隊が攻撃の中心となったことにとてつもない興奮を覚えたのだ。そんなことを考えていると、眼下に海面に巨大な白波を描きながら進む黒い塊を見つけた。長坂は口元を静かにゆがめながら、自身の母艦『天亀』へ発見を伝え、攻撃を行うことを告げた。
『オールドチャーチ』の索敵機のハワード准尉は退屈そうに海面を眺めていた。
「本当に、艦隊はいるんですかね?」
そう聞いてきたのは同乗する、シュルツ一等兵曹だった。彼は本来の任務であった輸送任務が終わり、早々に水晶湾へと戻りたかったのだ。だからこそ皇国による水晶湾攻撃に対してはかなり不満を募らせていた。
「確かに、疑問ではあるが、水晶湾が壊滅的な被害を受けたというのは事実だ。つまり航路を考えればこの海域に連中がいることは間違いないんだ。」
「くそっ! 忌々しい猿どもめ。晴華民国やアフリカのように人間に服従していればいいってのに、余計なことを・・・。」
そんなやり取りをしている時、シュルツの眼下に巨大な艦隊があった。空母八隻、戦艦三隻、他にも大量の艦影がそこにあった。
「見つけたぞ! 敵艦隊だ、早く司令官に報告だ! 猿どもを海の藻屑にしてやる!」
シュルツがそう言って、無電を打とうとした時だった。突然自分の索敵機とは別のエンジン音がしたのは・・・。そこからはあっという間だった。小型の攻撃機の機銃が火を噴いたのだ。それがシュルツとハワードが豊葦原瑞穂皇国の最新鋭戦闘機、零式戦闘機を見た最初で最後の瞬間だった。
宮瀬大尉は、長坂大佐から遅れる事十五分後に母艦『紅龍』を発艦した。それからしばらくして、自身の部隊の航空機が敵艦隊の索敵機の撃墜に成功したという入電があった。急いで同乗していた田浪少尉に確認を指示したところはっきりと、黒煙を上げながら墜落していく影をとらえることが出来た。しかし、急がなければならない。なぜなら、索敵機は十中八九で第一艦隊を発見しているからだ。かなり早い段階でこちらが発見し撃墜したとはいえ敵航空編隊が動く可能性はないわけではない。この段階で航空戦に持ち込まれ、航空機を減らすことは極力避けたかったのだ。
『オールドチャーチ』の艦橋で、ヒューイットは明らかに怒りを表しながら指示を出していた。それは、索敵機との連絡が途絶えたからである。かなりの可能性で、索敵機が撃墜された可能性があると考えられる。つまり、敵艦隊はもう攻撃機を発艦させている可能性が高く、こちらもなるべく早く航空機を発艦させる必要があったからだ。
しかしながら、少々手際が悪いこともあって、いまだに発艦が出来ていないのだ。そんな時だった。見張りから艦橋に連絡が入ったのは。それは、大編隊の接近という知らせであった。ヒューイットは発艦を急がせることと、艦上からの撃墜を許可するものだった。しかし、これが裏目に出ることをヒューイットはこの時まだ知る由もなかった。
長坂大佐は、即時の攻撃に踏み切った。徹底的な爆弾の投下だった。直接当たるものとそうでないものがあることは重々承知であったが、だとしてもかなりの確率であれだけいる艦のどれかに命中する確率はほぼ十割だからである。そして、長坂の目論見はすぐに的中した。そう、駆逐艦と思われる艦影から火が上がったのだ。恐らく航空魚雷の一つが命中したのだろう。規模は不明だが、長坂にとって自分の判断が正しいと自信を持った瞬間であったのだ。そして、そんな中重巡らしき艦影からも火が上がるのが確認できた。旗艦である空母『オールドチャーチ』の撃沈も時間の問題であろう。
『オールドチャーチ』の艦橋では、怒号が響き渡っていた。駆逐艦の『シモンズ』が航空魚雷を受け轟沈したのを皮切りに大規模な空爆が開始されたからだ。事態は悪化の一途をたどっていた。『シモンズ』に引き続いて『マシュー』も被弾し炎上した。彼此四隻の駆逐艦が、炎上していった。まだ炎上していない四隻も爆撃を受け、かなり危険な状態だ。さらに追い打ちを掛けるように重巡洋艦の一隻が被弾し炎上している。
「こっちの発艦はまだできていないのか!」
ヒューイットはヒステリックにカルミントン大尉に怒鳴った。カルミントンも慌てながら情報を伝えたがあまりに拙いものでヒューイットの神経を逆なでするしかなかった。
そんな時に、『オールドチャーチ』の艦橋に衝撃が走った。一瞬誰もそれが何かが分からなかったが艦長のネイサン・ファイルマン大佐はすぐに応急班へ浸水箇所の閉鎖とダメコンの発動を指示した。そこで艦橋の人間はこの艦が被弾したことを知った。そうしているうちに、今度は外から爆音が響いた。ヒューイットたちが艦橋の窓からのぞくと、飛行甲板は炎に包まれていた。どうやら飛行甲板に爆弾が命中したようだ。それは最悪のタイミングだった。空母にとって爆撃を受けた時の最悪のタイミングは発艦準備がほぼ完了した段階である。そこには航空機や燃料・弾薬が置かれているからだ。
「司令官、艦長! 火の回りが早すぎます!」
「くそっ! ファイルマン艦長。すぐに退艦命令を出すべきだ。」
「そうですね。全乗員に退艦命令を出す!」
そのアナウンスが艦内に響き渡ると乗員たちは、すみやかに自身の決められたカッターの場所に集結していた。しかし、飛行甲板で作業していた多くの整備士や飛行士、上甲板で作業していた運用員たちのほとんどはおらずかなりの人数が、犠牲になっていることが分かった。
「クリスタルまでこれを曳航していくのは可能か?」
ヒューイットが訊ねると、カルミントンは首を振った。
「残念ながら無理でしょう・・・。我が艦隊は駆逐艦四隻と重巡一隻を失っています。他の重巡に関しても被弾し一隻は大破の状態です。クリスタルまで重巡一隻で空母は曳航できません。それにいつ、爆発するかもわかりません・・・。」
それを聞くと、ヒューイットは舌打ちをしながら、指示を出した。
「仕方ない・・・。駆逐艦に指示をして爆沈させるのだ・・・。」
それは仕方ないことだった。このままこの空母を残しておけば、皇国軍に回収される危険がある。残念ながら、皇国に南方の諸島を押さえられている現状では勝ち目はないだろう。回収されれば、かなりの確率で機密が渡る。それだけは何としても避けなければならないのだ。
駆逐艦『ライアン』の放った魚雷は『オールドチャーチ』を葬った。この艦名の『オールドチャーチ』とは、連衆国が南北に分断された南北戦争のオーバーランド方面作戦において北軍が最後に勝利を収めたオールドチャーチの戦いから名づけられていた。この戦いの後、コールドハーバーの戦い・トレビアン・ステーションの戦いと南軍が勝ち、北軍は甚大な被害を受けた。ただオーバーランド方面作戦自体は戦略的に北軍の勝利である。しかし、勢力に勝る北軍にとってこの戦いでの負けの込みはかなり痛かったことは想像に難くない。同じように開戦直後に航空戦力の一つ『オールドチャーチ』を失ったことは、連衆国海軍にとってもかなりの痛手となるのだ。
沈んでいく『オールドチャーチ』を重巡へと向かうカッターの中で見つめながら忌々しげにつぶやいた。
「猿どもめ・・・。絶対に潰してやる・・・。」
第一艦隊旗艦の空母『宮古』の艦橋から情報を得ていた最上は呆れたようにつぶやいた。
「本当にこれは、正しい情報ですか?」
戦果は駆逐艦四隻及び重巡一隻の撃沈。そして空母『オールドチャーチ』の炎上という報告を見ていた。それに、通信士の松川中尉は答えた。
「ええ、最後の第五航空編隊が、空母の炎上を確認しています。本来は、撃沈したかまでを見届けるべきですが、今回は燃料の関係から見送りとのことです。ただ中佐の指示通り保号潜水艦隊の方に、その後を見届けるように要請は出しました。恐らくもうしばらくすれば情報が入るでしょう。」
最上がこういったことを言ったことは、最もだった。あまりに話がうますぎるのだ。
「まさか・・・。民間の輸送船団を誤爆してしまったわけじゃ、ないでしょうね?」
最上は皮肉交じりに呟いた。それには、穂積も思わず笑っていた。
「まあとにかくだ、連中の航空戦力を一つ潰すことができたことは、大きいと思うがね。」
「しかし、安心はできませんよ。恐らく連中は輸送任務の帰りだったはずです。多分、空母に搭載していた航空機の数はそれほどではないはずです。」
「なるほど・・・。まあとにかく、一度戻らねばならないな。」
「ええ、消費は著しいですからね。時に穂積中将。」
「なんだね?」
穂積がそう尋ねると、最上は静かに笑いながらこういった。
「今度は、貴方と宮上司令官に布哇諸島の土を踏ませてみせましょう。」
その笑みは幼いとも言える少女がするにはとても不敵で魔性のものだった。
水晶湾攻撃と連衆国海軍第八機動部隊への攻撃作戦の結果が、
結果は、水晶湾基地にあったほぼすべての戦艦に甚大な被害を与え、さらに第八機動部隊の空母を沈めたとのことであった。この報告に、大本営の面々から歓声が漏れた。まず第一陣は完璧にこなすことが出来たからだ。またこれは海軍だけでなく、陸軍にも言えたことだ。海軍が水晶湾基地に対して攻撃をする一週間前に陸軍はマレー半島とフェリペアナ諸島への侵攻を開始。さらには、大連合帝国が借地とする晴華民国の花港を包囲占領していた。これは、第一群作戦の足掛かりとしては陸軍・海軍共に上々の滑り出しと言えた。
一方で、軍部だけでなく外交面でもかなり皇国は有利に進めていた。まずは、連衆国への宣戦布告のタイミングだ。これはかなり指示通りにいった、そのため、一応は国際的対面は保ったものになった。また、在連衆国大使の衣笠と在合衆連邦政府大使の油小路成一郎伯爵の働き掛けもあり、合衆連邦政府のこの戦争における中立的立場を取り付けることが出来た。これにより連衆国への戦略的拠点を維持することができる。これはかなり大きな利点であった、さらに非白人民族解放と言う宣戦布告文書を合衆連邦以南の諸国およびヒンドゥやペルシア・アラビア、アフリカなどの様々な国や植民地へと同時発信し、皇国としての戦争の正当性を発信することも成功した。そのように各方面で戦果が出て沸き立つ中で会議が始まった。
「いやしかし、陸軍の善戦もさることながら、海軍の戦果も素晴らしいものですな。宮本司令官には敬服いたします」
そう切り出したのは、陸軍出身の
「いやはや、私はあくまで骨格を指示しただけ、後は全て穂積以下の部下たちのおかげですよ。それに、陸軍の指揮官もかなり優秀だと思いますよ。」
そう皮肉交じりに返したのは、豊葦原瑞穂皇国連合艦隊司令長官、宮本八十丞だ。彼は元々、この戦争に懐疑的かつ慎重な姿勢を取っていたが、主戦派の独走を恐れた海軍司令部長である永峰道徳による人事で彼が司令長官に任命されたのだ。性格は冗談の言える男で部下想いな男だ。穏健派である彼をこの作戦の最高責任者とすることに海軍内から異論が出なかったのは一概に彼の人柄が理由だろう。
「しかし、驚きですなぁ。これほどの成果があるとはね・・・」
そう呟いたのは、その永峰だった。彼はとても均衡を取る人間だが、一方で改革者でもあった。彼はそれまでの海軍にあった昇進制度などの大規模な刷新を行い、昇進を実力主義にしたのだ。これにより海軍での幅広い人材登用が行われた。その点では連合艦隊の参謀に皇家士官でも名門の子女でもない最上時雨中佐が登用されたのはその両方を兼ねた人事である。士官教育を受けたとはいえ孤児院生まれで女性の最上を中佐へと任官し参謀という異例の地位を与えたのは海軍内の内部改革の旗印としたかったからだ。一方で、彼女は主戦派である、そのため司令官に穏健派の宮本を据えたことを主戦派が異議を唱えないために主戦派の中でも優秀で実績も上げている最上を参謀に任命したのだ。他にも、椛川宮告仁親王妃靜子大佐を恐らく世界初の航空母艦の女性艦長としたのもそのためだ。
水晶湾攻撃作戦、フェリペアナ諸島上陸作戦の善戦ぶりに色めき立つ大本営であったが、それを淡々と見ている男がいた。豊葦原瑞穂皇国陸軍市原進吾少将だ。市原は生来きっての戦略家であり、天才として名高い男だ。特にロマノア帝国との戦争後の大陸東北部における新国家建国は彼の策略なしには当然成り立たなかっただろう。その一方でこの男には難点もある。とても変人であるのと同時に上層部への反発を隠そうとしないのだ。特に軍務大臣で陸軍の先輩である北条怜寿のことは嫌悪しており、上等兵と呼んではばからない男だ。そんな彼は、至極当然なこの結果を当たり前のように聞いていたがその北条の永峰への発言で流れが変化した。
「しかし、永峰さん・宮本さん。なぜ艦隊の司令官付の参謀をあのような小娘にしたんですか? 確かに、彼女は軍人としての実績は申し分ないが、いささか理解しかねる人事だと思うのですが。」
その言葉を鼻で笑ったのは他ならぬ市原だった。
「なんだ? 市原! 何か言いたげだな。」
そう反論した北条に市原は平然と嘲るようにして言った。
「いえ、北条さんの見識があまりにも低いので、こらえられなくってしまっただけのことですよ。」
「なんだと!」
「彼女をそのような目線でしか見られない様では、連衆国の無能な指揮官どもと同じようなものですよ。」
その挑発に激昂しようとしたのを同じ陸軍の後輩である酒波益周が制した。
「まあまあ、北条大臣落ち着いてください。市原君も、わざわざこういうところで言うんじゃない。」
「酒波さんがそう言うのなら・・・。こちらも矛を収めますよ。」
そう言うと、市原は一呼吸おいて静かに語り始めた。
「彼女は、恐ろしい女ですよ。瑞晴戦争、ロマノア帝国との戦争、そしてこの世界戦争。すべてに関わりそして、勝利に導いている。」
そこで口を挟んだのはコケにされた北条だった。
「ふん。確かに、彼女は朱海海戦や瑞穂海海戦での従軍歴があることは私だって知っている。士気の鼓舞や本堂司令官への作戦に助言をしたことも知っている。しかし彼女が全てそれでやった訳ではないはずだ。」
そこへ口を挟んだのは酒波と海軍の高本才輔だった。
「北条大臣、少し彼の話を聞こうではありませんか。君の悪いところですよ。」
「そうですな。陸軍の方が我々海軍の人間をどう評価しているかは気になるところですしね。」
そう言うと、北条は面白くなさそうな顔をしながら口を一文字に結んだ。それを見ると市原はさも愉快そうに再び口を開いた。
「確かに、北条上等兵の言うとおり、彼女が全てをやった訳ではありません。しかし、彼女が重要な役割を果たしたことは事実です。それにお忘れではありませんか? この戦争への決定打となった論文の筆者を。」
それを言われた瞬間、その議場にいた者全員が凍りついたような表情を浮かべた。
「そうです!あの世界最終戦争論とアジア解放戦争論の筆者こそ、第一艦隊司令官付参謀である最上時雨中佐です!」
市原はがらになく大声を張り上げた。そして一呼吸おいてこう続けた。
「彼女はこの戦争の勝敗、ひいては皇国の興廃を担う重要な存在です! 彼女の使い方を誤ればこの戦争には絶対に勝てません! あれは小娘などではありません! 深窓の令嬢の仮面をかぶった・・・怪物です!」
連衆国の大統領官邸、通称ホワイトハウスでは大統領のフレミング・ローウェルは苛立っていた。理由は単純だ、水晶湾基地の予想以上の惨状を聞いたためだった。当初の目測では皇国が水晶湾に奇襲をすることは読めていた。そのために、わざわざアジアにおける権益をすべて放棄や国家社会主義連邦国との同盟を破棄するという決して受け入れることのできない文書を国務長官のターンブルを通じて通達したのだ。これで豊葦原瑞穂皇国は絶対に戦争を仕掛けてくるであろうことは分かり切っていた。彼がこのような文書を送った理由は単純だ。アジアにおける自国の権益の確保と同盟国である国家社会主義連邦国への宣戦布告の為だ。連衆国はまだ建国して百五十年少々の国、そのため国内の統治など理由によりアジアにおける植民地の形成に関して欧州より後れを取ってしまったのだ。だからこそ、あのアジアで未だに独立を保つ島国である豊葦原瑞穂皇国を連衆国のものにしアジア統治の拠点としたかったのだ。そして同時にヨーロッパで影響力を強め経済的な面での商売敵になりそうな国家社会主義連邦国に大打撃を負わせるためだった。そのためにやったにもかかわらず水晶湾の惨状はかなり悲惨なものだった。
「どういうことだ? 事前の報告では潜水艦三隻ではなかったのか?」
ローウェルがそう詰問すると、海軍の作戦部長であるクイーンズ大将は苦い顔をしながら、沈黙を続けるしかなかった。いつもならライバルが追い詰められている様を普段ならほくそ笑んでいるはずの陸軍参謀総長のマイヤーもこの時ばかりはなにも言えなかった。南方戦線が思うように進まず最悪撤退も視野に入れなければならない現状を指摘されることは自身のキャリアに大きな打撃となるからだ。嫌な沈黙だけが、執務室を包んでいた。その沈黙を破ったのは大統領のローウェルだった。ローウェルは机をたたきながらクイーンズとマイヤーに詰め寄った。
「どういうことだ! 水晶湾の戦艦だけでなく輸送任務に従事していた第八機動部隊の空母まで沈められるとは! 陸軍も陸軍でなんという失態だ! イエローどもに良いように扱われよって!」
おずおずとクイーンズは口を開いた。
「申し訳ありません。敵の戦力がそこまでであるということを読むことは出来ませんでした。空母の件に関しては完全に想定外でした。」
「ふん! 言い訳は聞きたくない。とにかく海軍への命令はどんな手を使ってでもイエローどもの艦隊を壊滅させるのだ。そして陸軍は、南方への増援は認めるつもりはない。我々の主目的は欧州での大連合帝国の救援なのだからな!」
緊迫した執務室に入ってきたのは国務長官のターンブルだ。マスコミからの対応に追われていたターンブルだったが口八丁手八丁のこの男はそつなくこなしていた。だからこそ開戦に踏み切らせるような文書の作成をすることが出来たのだが。
彼が入ってきたことに気付いたローウェルはクイーンズとマイヤーを始めとした軍人たちに各軍へと戻り対応をすることを指示し部屋から出した。軍人たちがいなくなるとローウェルはため息を漏らしながら
「どういうことだ・・・。まさか本当に連中にそれほどの戦力があったとは・・・。」
「確かに少々読み違えていたのかもしれませんな・・・。しかし、連中は所詮野蛮な猿です。最後は我が国が勝ちますよ。しかし、宣戦布告をあれほどうまくやられるとは思ってもみませんでした。欧州だけではなく南部諸国やアラブやアフリカ、連邦共和国などに同様の声明文を発表しあくまで義戦としてしまうとは・・・。わが国の非白人民族にもかなり波及しているようです。このままでは、暴動もあり得るかと・・・。」
「だろうな・・・。そのためにはまずやらなければならないことがある。大統領令を出す事にしよう。」
「大統領令?」
「ああ、我が国にはあれの同胞が山ほど移民してきている。連中の土地や財産をすべて没収し連中を一か所に集めるんだ。」
「し、しかしそれは・・・。」
「ふん! 猿を檻に入れるのは当然のことだろう。しかし残念だ。あの大使の衣笠を拘束できないのはな。」
「ええ、彼らは開戦の直前に全員が南部の合衆連邦政府へと逃亡しております。合衆連邦の方は中立を宣言しているので引き渡しには応じないでしょう。」
「全く、野蛮な連中だ。まあいいさ。我々が勝った暁には南部も我が国の領土にしてやる。」
「それから、国家社会主義連邦国の方からも宣戦布告がありました。」
「そうか、連中も馬鹿なものだ。なぜあれほどの国が猿どもと組む必要があるのだろうな。」
ローウェルはシニカルな笑みを浮かべながら天を仰いでいた。彼にとってこの考えが凶と出ることを知っている者はまだここにはいない。
国家社会主義連邦国の国家社会主義党本部、総裁室で総裁のヴォルフ・ヒュッテ総裁は、閣僚たちは豊葦原瑞穂皇国の水晶湾攻撃の戦果を知り口々に喜んでいた。
「総裁閣下の考えはやはり正しかったですな。」
そう言ったのは国家社会主義連邦国、航空相のヘンリック・ゲーラーだった。陸軍の士官から飛行士へと変わりエースパイロットとなった変り種でありヒュッテの側近の一人である。
「こちらも、対連衆国への宣戦布告は指示通り行いました。国民へのプロパガンダも着々と進行中です。この戦争はカビの生えた秩序への挑戦です!」
興奮しながらヒュッテに言ったのは国家啓蒙・宣伝相のヨッヘン・ゲルステンビュッテルだった。彼がいたからこそヒュッテは多くの国民から支持されたのだ。同時にゲーラーとはライバル関係にありヒュッテの後継を巡ってテーブルの下で紳士的に足を蹴り合う関係だ。
ゲーラーは満足げに微笑むヒュッテに質問をした。
「しかし閣下。なぜあのような東方の弱小国と組むことを決めたのですか? 彼らはアーリア人ではありませんよ?」
その問いにヒュッテはつまらなそうな顔をしながら返した。
「ゲーラー。君は物事を表面的にしか見ることができないのが悪い癖だ。確かに人類で最も優れているのはアーリア人だ。それは揺るがない事実だと思っている。しかし、私は決して皇国の人間を白人より劣っているとは一度も思っていないぞ。」
「はぁ・・・。」
「彼らとの同盟を私は大切にしていかなければならないだろうな。彼らとの接し方を間違えれば、どれほどの脅威になるのか・・・。分からないだろうからな。」
「それが、杞憂で終わればよろしいのですがね・・・。」
「そればかりは、私だけで選べる道ではないんだよ。ゲルステンビュッテル。」
ヒュッテはそう呟くと静かに椅子へと身を沈めた。そして、こう言った。
「とにかく次のお茶会でアフリカや東欧への侵攻政策を練ろう。お茶の準備をすると閣僚たちに伝えておいてくれないか?」
『お茶の準備』、それはヒュッテが好んで使う隠語だ。そう意味は・・・。戦争。
大連合帝国の首相官邸ダウニング街十番地にある首相官邸でウォーグレイブ・チャールストン首相は頭を抱えていた。体面上同盟国である連衆国からもたらされた情報が原因だった。そう、連衆国海軍の太平洋における最大の軍事拠点が壊滅状態になったのだ。それは、かつて自国と同盟関係を持っていた皇国の成せる業に他ならなかった。大連合帝国としてはアジアの盟主になっていた豊葦原瑞穂皇国との同盟の解消は極めて不本意なものだった。理由は単純だ。あの国の底力を自分たちは様々な面から思い知っているからだ。あの国が鎖国を止めた直後の大麦事件で故意に挑発し即時的に開戦に持ち込まれた。戦争自体は我が大連合帝国の勝利だったが、彼らの講和交渉などを評価し討幕の手助けをしたのだ。さらにそのゆかりから、ロマノア帝国との戦争の前には同盟を組んだほどだ。皇国がかつてないほどの完全勝利を収めた理由は我が大連合帝国との同盟があったからこそに他ならない。もちろん、皇国軍が優秀であったことは認めざるを得ないのだが。
チャールストンは連衆国の惨状もそうだったが、自国の植民地であるマリー半島での戦争を懸念していた。マリー半島や花港にも皇国軍の手は迫っている。おそらく、この状況ではかなり早い段階で、マリー半島は落ちるだろう。そうなってはナインガン、最悪の場合はヒンドゥ・ベンガルまで占領される可能性があるのだ。そうなっては確実に大連合帝国は終わるだろう。
そもそも、チャールストン以下ほとんどの政治家たちは、豊葦原瑞穂皇国との戦争には懐疑的だった。長年、一番の同盟国であったことを考えれば、彼らを味方につけておきたいと考えるのは当然だった。もし単純な対立であれば、批判は承知の上である程度の譲歩をして解決するつもりだった。しかし、大陸にて影響力を増長させる国家社会主義連邦国との同盟は断じて容認できるものではなかった。
チャールストンは元々、国家社会主義連邦国のヴォルフ・ヒュッテのことを危険視していた。彼が首相に就任した時、彼国には行ったことがあるが、そこでの就任パレードは軍事パレードに似たものであった。彼は自分の信奉者である若者を集め親衛隊を組織していた、それはとても不気味だった。
当時、それを言っても誰も信用しなかった。故に彼が大陸を含む欧州統一の野望を抱いた時には、もう手遅れだった。特に当時の首相チャンセラーの宥和政策と総裁ヒュッテ及び神聖王国首相、マッテオの強硬姿勢に国民は押されてしまったのだ。元来欧州の歴史は血で血を洗う戦争史だった。そう言った点から、近代化した今となって自国の領土で戦争をすることに国民は激しい拒否反応を示していたのだ。連邦国を除いては・・・。
その結果、ヒュッテとマッテオは過激になっていた。東部のポーレ共和国へ侵攻したのを皮切りに北部の中立国ニーノシュク王国とユトランド王国に侵攻。そして極め付けに西部のベルジック王国とホラント王国などベネルクス三国にも侵攻した。しかし、当時の政治家たちと結ばれた不戦条約により、連合国側は思うように動くことが出来ず指をくわえて待つしかなかったのだ。そして、極めつけは共和国への進軍だった。大国であり大連合帝国の最大のライバルであり続けた共和国の陥落は世界に国家社会主義連邦国の台頭を知らしめるものとなった。
国家社会主義連邦国が大連合帝国の支配に乗り出すのは時間の問題だった。だからこそ、連衆国に救援を求めたのだ。帝国は島国だ、そのため他の国とは違うプロセス、上陸が必要になる。そのため時間を稼げることがせめてもの救いだ。連衆国の戦力があれば、恐らくこの戦争は勝てるであろう。しかし、チャールストンはここに来て連衆国をこの戦争に引き込んだことは誤りだったのではないかと思うようになっていた。
チャールストンは噛んでいた葉巻を灰皿に置き、イスに深くもたれかかった。そして、深くため息をついた。側にいた秘書のハイドは、いつになく疲れた自分の上司に話かけた。
「いかがなさいましたか? お疲れのようですが・・・。」
その言葉に反応したチャールストンはハイドを少しだけ睨んだ。ハイドは自分の軽率な言動を呪い、怒鳴られることを覚悟した。しかし、チャールストンから返ってきたのは、少しだけ弱気な男の声だった。
「この状況下で、元気な奴がいるものか・・・。国家社会主義連邦国に続き、豊葦原瑞穂皇国まで我が国に宣戦布告をしてきたのだぞ。こっちは本国の防衛と巻き返しを図るだけで精一杯なのだ。植民地まで気が回ると思うか。」
「はぁ・・・。しかし、皇国が我が国本土を攻撃する可能性はありません。」
「そうだろうな。しかし、植民地を失うかもしれないことは覚悟しないといけないだろう。」
「植民地を失うことは、絶対に避けなければいけませんが、連邦国に本土を奪われアジアの植民地しか残っていない共和国やホラントなどと違って我が国はまだ本国に独立を保っています。」
「そうだ。それだけが唯一の強みだな・・・。だが・・・、連衆国をこの戦争に引き込んだことは失敗だったかもしれんな・・・。」
「と、言いますと?」
「知らないのか? 連衆国が皇国に渡した『ターンブル・ノート』を・・・。あんなものを見せれば、どんな文明国であっても戦争へと舵を切らざるを得なかっただろう。」
「確か・・・。連邦国との同盟の解消やアジアにおける植民地の権利の放棄でしたね。確かにあれを突き付けられればわが国でも戦争へと舵を切らざるを得なかったでしょうね。」
「ローウェルめ・・・。あの男はあまりにも軽率に動いたな。」
「軽率?」
「連衆国は金融恐慌のせいで、失業者にあふれかえり経済政策も議会との対立でほとんどが廃案になってしまっている。その不満から目を逸らすためには、戦争をするしかなかったんだよ。奴らはな。だからと言って直接、こちらの連邦国に戦争を吹っかけるのは国内世論の反発を招くだけだった。だから、同盟国の皇国に戦争をさせるように仕組んだんだよ。」
「なるほど。」
「まあ、ローウェルの考えはそんなところだろうな。ああいうタイプのやつの考えは手に取るようにわかるよ。しかしながら、大幅に皇国を過小評価していたようだがね。」
「過小評価ですか?」
「ああ、水晶湾の被害状況を見れば一目瞭然だよ。主力艦である戦艦がこんなに停泊させているのに、空母が一隻もないのはおかしい。知っていたんだよ、連衆国はな・・・。」
「!」
「恐らく知っていたから、水晶湾には航空戦力となりうる空母を一隻も置かず、戦艦だけが停泊していたんだ。だが・・・、読みは甘かったようだがね。」
「と言いますと?」
「分からないか? もし、これだけの打撃を食らわせることのできるほどの艦隊が来ることが分かっていたなら、なんらかの対策を取っていたいはずだ。しかし、この報告書を見る限りその形跡は全く見当たらない。つまりローウェルだけでなく軍部の人間もほとんどが皇国の戦力を過小評価していたってことだ。」
「なるほど・・・。だとしたら・・・。」
「ローウェルは、典型的な白人至上主義者だ。恐らく、最大の目的は大陸で膨大化しているヒュッテ以下国家社会主義連邦国との戦争だ。皇国との戦争は添え物程度にしか思っていないだろうな。」
「こちらとしては、戦力を投入してくれる分、悪い話ではないように感じますが?」
「まあ確かにな。しかし、現実はそう簡単ではないんだよ。皇国は全力で連衆国を叩きにかかるだろう。戦争のためには人間はどんな怪物や悪魔にもすがるものだ。そして、禁断の果実にだって手をつけたがるんだよ。」
「そんなものでしょうか・・・。」
「それが人間というものだ。閣僚たちを集めるんだ。皇国との戦争について話し合わなければならん。」
チャールストンの頭には、この時全面戦争とは別のプランが頭に浮かんでいた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます