CASE.69「不幸少年のラブストーリー(その2)」
それから一週間近くと短い期間だったけど、カズ君と一緒に遊んだ。
皆と一緒になってからも不器用で不愛想なのは変わらない……ううん、カズ君の場合、距離感が分からなくて戸惑っていたんだと思う。サッカーで遊んでいるときもずっと挙動不審だったし、どうやって声かけるかで迷っていたのも覚えている。
もっとこれから楽しくなる。
皆ともっと遊べるんだと思っていた。
……だけど、そうはいかなかった。
そうだ、アメリカに帰る時が来たのだ。
どうやら新しい企業を立ち上げる土地として充分な場所をここに決め、そのプロジェクトを立てるために帰国することになったようだ。
都合とはいえ仕方ない。
でも、もう少し遊んでいたかったなと心から思っている。
『きょうげんきないけど、どうしたんだよ』
そんなことを考えてたら、意外な人物から声をかけられる。
カズ君だった。
彼は帰り際、心配してくれたのか私の元へ駆け寄ってくる。
……私は後日、アメリカに帰ることを正直に伝えた。
会社を継ぐのはお兄ちゃんだけど、私もパパの会社を支えるために関連の企業で働かないといけない。勉強の為に一度アメリカに帰らないといけないということも。
またここに戻ってくる可能性もある。でも、帰ってこれない可能性もある。
寂しくなるなという正直な心境をカズ君に打ち明けた。
『そうか……』
その時だった。
カズ君が私と一緒で寂しそうな表情を浮かべたのは。
『さびしがってくれるの?』
あまりにも意外で、私はつい聞いてしまった。
『そうだとおもう……おれ、ここなちゃんのこと、ずっときになっていたから』
私は、その言葉に固まってしまった。
気になっていた。私の事を気になっていた。
『それって、ぷろぽーず?』
『いやっ、ちがっ……』
この慌てよう。必死に誤魔化そうとするその素振り。ついさっきの発言をなんとしてでも取り消したいと心から願うその姿。
心が揺れる。目の前の少年に私の体に熱が帯び始める。
『もし、わたしがこっちにもどってきてくれたら、またまもってくれる?』
つい聞いてしまう。
止められない想いに正直になって、私は彼にそう聞いた。
『わかった』
カズ君は頷いた。
『おれ! もっとおおきくなってつよくなって、ここなのことをまもってやる!』
ここには私と五鞠ちゃんしかいない。
誰もいないことが彼の鎖を外したのか、思うがままに彼は叫ぶ。
『おれはここなのことがだいすきだから!』
それは正真正銘本物の告白だった。
一途な少年の告白。何一つとして誤魔化しのない……いつも素直じゃない彼が正直な気持ちになって告げてくれた言葉。
それがとても嬉しくって……泣き出しちゃったのを覚えている。
帰りたくないと思った。ずっとここに残ってカズ君と遊びたいと思った。
ずっとワガママを口にして、そこから動こうとしなかったのも記憶に残っている。
……その告白を受けてから、私はずっとカズ君のことで頭がいっぱいになった。
アメリカに帰ってからも、向こうの小学校で過ごしているその間も……ずっと。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
あれから数年後、中学校生活を迎えるときに日本へ帰国して、久々にカズ君と再会して……色々あって、昔のような仲を取り戻すのに時間がかかった。
相変わらず不器用で周りと関わろうとしない。一匹狼の性格が昔以上に頑固になった彼に寄り添うのは本当に大変だった。
こうして昔のように戻って、彼にもまた友達が出来て。
今日もまた、何気ない高校生活の日常を送っている。
「カズくん」
目の前でずっと音楽を聴きながら、作詞をしているカズ君。
今まで以上に集中している。あのライブが終わってから音楽活動により一層集中するようになり、周りの声なんてほとんど聞く耳持たずでテーブルの上の楽譜と睨めっこをしている。
「カズくんってぱ!」
私はカズくんのヘッドホンを取り上げた。
「なんだよ……」
不機嫌そうな顔。集中していたのに阻害されたことを怒っているのだろう。相変わらずなその姿に、私はふと笑ってしまいそうになる。
「カズくん、私ね」
ヘッドホンを手にしたまま、私は彼に告げる。
「アメリカに帰らないといけなくなったのです!」
数日後。私はまた____
アメリカへ帰国することになったということを。
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