CASE.40「生徒会長のターゲット」


 放課後。生徒会室。

 

 トランプを捨てるのはもったいないので、何処か養護施設にでも寄付するかどうか話し合っているようだ。使いものになる品に戻すため、来栖は自らの手でトランプを整理する。


「くっ……やはりシャッフルは綾橋に任せるべきだったか……でも、綾橋だと体も手も小さいから、トランプを隠せなかったし……ぐぐぐっ」

「会長。さり気に私をロリだとディスるのやめろください」

 小声で本音を漏らしている来栖。トランプを整理する片手間に爪を噛んでいた。


「あと少しで西都君を生徒会に……真名井がミスをしなければ……!!」


 ちなみにミスをした真名井には罰として大量の用紙の買い物に行かせた。結構な量を任せたために拷問としては充分である。


 来栖と綾橋と副会長である鵜戸の女性三人。生徒会の仕事を休み、トランプを直していく。


「……会長」

 鵜戸はトランプの束を箱に戻しながら口を開く。


「何故、そこまで西都君を生徒会に入れることにこだわるんです? 確かに彼は見た目によらず良い成績は収めているし、その気になれば仕事は出来る方だと思います……ですが、彼の評判は地の底、何より本人が強くそれを望んでいません」


 西都平和本人のスペックはそれなりにある。それは趣味である音楽の方面に強く表れており、興味を持った事に関しては強い意欲を見せる。

 しかし彼は生徒会には全く興味を示していない。いくら成績優秀であろうとも、やる気がないのなら意味がないのではと鵜戸が問う。


 何故そこまでして彼を生徒会に招き入れたいのか。


「……鵜戸。君は生徒会においてとっても優秀な人材。私は君を信用している。だから君には話しておくよ。何故、私が彼にこだわっているのかを」

「はい」


 鵜戸はこの生徒会の仕事の8割を担当し、すべてこなしている。

 それだけの人材。それだけのスペシャリスト。この生徒会にいないといけない大切な戦力である。


 故に来栖からも信頼を置かれている。

 信頼のできる部下……だからこそ、会長は真意を告げる。


「それは」

「それは?」










「私は“西都君のことが好きだからだ”」

 

「……は?」


 幻聴。そう信じたいと彼女は願った。


「聞いてくれ、私が西都君の事を好いている理由を」

 何か変なスイッチが入ったのか来栖はその場でクルクル回りながら自分だけの世界に入っていく。頭の中で彼女の思い出のビジョンが映り始める。


「数年前。私が小学生の頃だった。ちょっとお金持ちだった頃の私は、ある少年の事が気になっていた……それが、当時から疫病神と言われていた“西都平和”だ」

 彼女は小さい頃から気になっている人がいた。その人物は西都平和。

 ずっと公園のジャングルジムの中で公園の様子を眺めている少年。それを公園の外から彼女はずっと見ていたようだ。



「中学生になってから彼へ対する悪評はエスカレートしたよ……でも彼は何といわれようとへこたれることもしなかったし、自分を曲げなかった。その一匹狼みたいな孤高のカッコよさに……私は心を奪われた。そして、それを決定づける日があった! そう、それは雨の日の事だった!」


 生徒会長専用のテーブル。持っていた扇でそのテーブルをバンバン叩きながら当時の思い出を語り続ける来栖。まるで狂言師だ。


「たまたま、傘をさして一人で帰る西都君を見かけてね……帰り道、段ボールに入っていた捨て猫がいたんだ」


 彼女の頭の中では、当時の映像がよみがえっている。

 電柱の近く、雨に濡れながら震える捨て猫。傘をさした平和は当時、その猫をそこからずっと見下ろしていたという。


「……西都君はね。そんな子猫に傘をあげて、自分は濡れたまま帰っていったんだ……彼は自分を曲げないだけではなく! そういう優しさも持ち合わせた人なんだ! 私は彼の良いところを知っている!」


 近くにあったカーテンを来栖は自分の体に巻き付ける。


「……その日から気持ちを決めた。私はいつか、彼と一緒に添い遂げたいと……彼を振り向かせるために、私はある方法に目を付けた。それが生徒会だ!」

 ミノムシのように体を絡め、そこから顔を出した来栖は生徒会長のテーブルへと目を向ける。


「そこら辺のモブが彼にちょっかいをかけたところで見向きもしない。だが、学園生徒会長となればどうだろうか! 少しは注目を集めるだろう……そして、次第に距離を詰める方法として、私は彼を生徒会に招き入れたいのだ! まあ、簡潔に言えば……私は“彼とずっと一緒にいたい”のだよ! すべてはそのためなのだ!」


 顔を桃色に染め、恋する乙女のようにキャーキャー騒ぎ立てる女の子。

 それはいつもの女王様のオーラとは真逆に可憐で愛らしい。左右に揺らす体のせいでカーテンが強く揺れている。


「……鵜戸! 私はこの決定的な愛を叶えたいのだ! 是非とも君の力を……私に貸していただきた、ぎゃぁあっ!?」

 それだけ暴れれば当然カーテンも引きちぎれる。

 カーテンが体に絡まったまま来栖は床に倒れ込んでしまう。身動きが全く取れない故にずっと助けを求め続けている。



 恋する乙女。その為に奮闘する少女。

 来栖生徒会長を、副会長鵜戸はずっと眺めている。



 生徒会長からの願い。

 鵜戸は……心の中で新たな思いを誓った。







(こいつは絶対潰す)

 ゴミを見るような目で、鵜戸は悶える来栖への宣戦布告を呟いた。

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