CASE.38「生徒会は止まらない(後編)」
早速だった。何者かの毒牙が俺の顔面に食い込んだ。
(くそっ……生徒会め……)
だが、アレはまだ生徒会によるものかどうかは分からない。恨みは誰にでも買っているために生徒会以外の連中が攻撃を仕掛けている可能性だってある。
(油断した矢先にこれだ……生徒会。次は何処から来る?)
だが、面倒事を避けたいために俺へ構おうとする者が少ないこの事実。
ここまで堂々と靴箱を細工して、喧嘩を売るような真似をする連中は……生徒会以外ありえないというのも事実だ。
「絶対アイツ……俺には分かるんだ……!!」
何より、あんな古典的トラップには“見覚え”がある。
実はあのようなトラップを食らったのは初めてではなかったりする。他にも思い当たる節があるのだ。
「おはよー、カズくん!」
「ああ、おはよ」
教室へ到着。何事もなく心名と挨拶。そして椅子に座って。
「……下よしっ!」
と、その前に椅子をチェック!
さっき攻撃を食らったばっかりだ。何から何まで油断をするつもりは毛頭ない!
しっかりと調べる椅子の上。画鋲や毛虫、そして噛んだ後のガムとかそういうものが仕掛けられていないかどうかを入念にチェック。
「異常なし!!」」
椅子には何もトラップは仕掛けられていないようだ。
「平和なことはなによりだ。うんうん」
ホッと安心した俺は鞄の中から教材用具を取り出して、それを引き出しの中へ。
「……あれ」
入らない。引き出しの中にピッタリ入るはずなのにギリギリ入らない。
確か引き出しの中は空っぽにしたはずである。それとも昨日に取り忘れがあったのだろうか。
(おかしいな。確か机の中のものは全部持って帰ったはずなのに)
一度教材用具を机の上に置き、俺は引き出しの中に手を突っ込んだ。
(これは……本?)
本がある。
取り忘れがあったのかもしれない。俺は静かにその本を抜き取った。
「!?」
固まる。俺はその本を前に背筋が凍り付く。
“エロ本”だ。
コンビニで定価480円で売ってそうなB級エロ本。
本にデカデカと描かれている”下着姿”のお姉さんの群れ。タイトルは【男に荒れ狂う若妻特集(80分DVD付き)】!エロい!
「ちょ、カズ。それ……」
後ろから五鞠の声が聞こえてくる。
「いや、待って……違う」
俺は、”男に荒れ狂う若妻特集(80分DVD付き)”を手に取りながら必死に否定する。俺はこんな本を学校に持ってきた覚えはないし、そもそも自分で購入しない。怯えながら必死に弁論する。
否定する。これは自分のものではないと必死に首を横に振る。
こんな本。仮に読んでいたとしても机の引き出しに入れるようなことはしないし、そもそも学校に持ってくるはずがない。
「カズくん……」
”若妻特集(80分DVD付き)”を手に取りながら焦る俺に心名の顔色が変化する。
「……やっぱり、もっと胸が大きい方が好みなんだね!?」
「違うからッ!!」
俺は若妻etcを手に取りながら必死に弁論を続けた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
___学園屋上。
騒がしい平和のクラス。その様子を向かいの学舎の屋上から双眼鏡で眺める人影。
「ふふっ、
双眼鏡から目を離した“来栖”は面白そうに平和を眺めている。
あのエロ本と靴箱のボクシンググローブは全て“綾橋”と呼ばれる人物が仕掛けた罠である。
あまりにも陰湿で古典的なトラップを前に翻弄される平和を娯楽のように楽しんでいた。
「他にも大量にトラップを仕掛けてるみたいだからね。これは楽しみだ……にっしっしっし!」」
「どういうトラップですか?」
真名井は首を傾げ、来栖に聞く。
「彼の携帯に動画付きのメールを送る。ちなみにそのメールは、何気ない猫のハプニング映像なんだけど、動画の途中で超大音量のエロ動画が流れる仕様。あとは清武さんのメールに“西都君が友達に送る予定だったエロ画像付きのメール”という設定のものを送り付けるとか」
「おおっ……我々男性には拷問でしかない鬼畜の所業をよくも簡単に!」
「さすがは綾橋ね、人の心がないわ!あ ーはっはっは!!」
それは大声で言う事なのだろうか。大笑いしながら来栖は再び双眼鏡を手に平和を眺める。舌なめずりがこうも気持ちよさそうだ。
「さぁ、もっと翻弄されなさい。そして私に屈服するのよ! 西都平和!」
振り回される平和。それを眺めながら息を荒くする来栖。
「……」
そんな彼女の様子を眺めながら、副会長の鵜戸はこう思う。
(来年の総選挙、どんな手を使ってでもこの人を潰そう)
二連覇は阻止してやろうと心に誓っていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
昼休み。屋上。
「はぁ……」
俺は真っ白に燃え尽きていた。
あれからも続く猛攻撃。体的な意味でもそうだが、メンタル面でのダメージが酷くでかい。皆からは色欲魔なんて言われて厄介な事態である。
卑怯な事を繰り返す上にエロに忠実な変態とか救いようのない異名が広がりつつあった。下手すれば、疫病神の部分がおまけになる勢いである。
「大変そうでござるなぁ。平和氏」
「他人事みたいに言うな。他人事だけど」
パクパクと開く口にそっと弁当を運んでいく。
さすがに弁当には手を出さなかったようだ。お昼の食事にまでいらない細工を仕掛けられていたら怒り狂っていたと思われる。
「……この悪戯、犯人はアイツだろうな」
牧夫はこの悪戯の正体が誰なのか察しがついていた。
「お前も気付いてるだろ」
「ああ、何となく察しはついてる」
これと同様の悪戯は以前も食らった事がある。
「……
犯人は生徒会。確定だ。
確かこういうのを担当しているのは広報担当の“綾橋椛”だったと思われる。
こんなイジメにも近い嫌がらせをしておいて何故問題ごとにならないのか。生徒会パワーとやらなのか、生徒会長が隠蔽でもしているからなのか。
理不尽な政治社会に俺は怒りにまみれた起訴の一つでも叩きつけたい。何処かに凄腕の弁護士でもいないものだろうか。
「いいのか。直接抗議に行かなくて」
「……行ったところで証拠がない。それに」
弁当を口にしながら俺は理由を言う。
「正直慣れた。これが初めてじゃないしな……一週間でもしたら飽きて向こうが辞めるだろ。これで俺が生徒会室に殴り込みに行けば、それこそ向こうの思う壺」
目に見えてわかるようなちょっかいだ。
「ここからは我慢比べ。吠えたら負けだ」
鳥を捕まえるために用意した“籠と木の枝に紐を使った例のトラップ”みたいなものである。そこへ迂闊に近づくほど、俺は馬鹿じゃない。
この程度の攻撃では俺は動じない。なんだかんだ言って、心名と五鞠も俺を”学園にエロ本なんて持ってくるような奴”とは思ってないし、友達にエロ画像添付のメールを送るような奴じゃないと信じてもらっている。
なんか、五鞠の携帯に俺の名義でエロ画像付きのメールが届いたらしく、それに関しての講義は四十分近く続いたけど。疑われたけど、まぁ気にしない。
「向こうが飽きるまで待つ。残念だったな生徒会」
「おお、流石に煽り耐性は完璧か」
批評は慣れてるし、このような環境も初めてじゃないんだ。
余裕の表情を浮かべ、俺は次の攻撃もドンと来いと胸を張っていた。
「……ん?」
携帯が鳴る。母親かそれとも心名達か。俺は携帯を手に取る。
「不在着信?」
嫌な予感がするので当然でない。不在着信の電話は8回くらいコールをかけて黙り込んだ。
___しかし、また鳴る。
どれだけ無視しようと鳴り続ける。
「ああ、くそっ! うるさいっ!」
飯に集中できない。面倒なので俺はその着信に出ることにした。
「電源切れば早かった話なのでは」
その方法もあったか。
だが出てしまったからにはもう遅い。俺はその着信先と対談することに。
「どちら様ですか」
『やーい、若妻大好き色欲魔』
聞こえてくる大人しめの女の子の声。
分かる。この声の正体が誰だか分かる……!
そう、この声の主は“綾橋椛”だ。本人から直接攻撃が来たのだ。
「何の用?」
『やーい、エロ画像掲示板常連おじさん』
「……用がないなら、切る」
目に分かるような挑発。棒読みが少しムカツクがそんなもので俺が釣れるものか。
あまりに幼稚な攻撃のため、俺は釣られることなく通話を切ろうとした。
『……やーい、お前の音楽センスゼロ』
「ぶっ●してやる」
通話を切った俺は一目散に生徒会室へと向かって行った。
「ああ、駄目だ! 音楽絡むと煽り耐性クソザコだ!!」
「追うぞ!」
後ろから三句郎と牧夫が追いかけてくる声。
俺達三人は向かった。
……主犯の待つ、生徒会室へ。
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