CASE.37「生徒会は止まらない(前編)」


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「生徒会四天王である真名井が敗れたか……」

 生徒会長・来栖はどこぞの司令官よろしくのポーズで椅子に腰かけている。


「ですが彼は生徒会四天王の中でも最弱ですよ。面汚しです」

「あのー、俺だけじゃなく会長も負けて、」

「シャラップ」

 来栖の部下と思われる何者かは陰に隠れてどのような人物なのかはハッキリ見えない。真名井をディスったかと思いきや、彼の言い分などガン無視した。

 

「真名井の敗北によって生徒会の名前に泥がついた……少しは反省してほしいものよ、最弱さん?」

「もしかして会長の敗北なかったことにしようという魂胆? まさか、俺だけ敗北したって流れにしようとしてません!?」


 たった一人の風紀委員・真名井航平は咆哮する。まぁ、納得はいかないだろう。


「……ですが、私が敗北したのは事実。会長の名前を守るためでしたら、どのような汚名だって被りましょう」

「うむ、素直でよろしい」


 というわけで、会長の敗北はなかったことに。忠犬真名井、ここにあり。

 そもそもの話、完全なる八百長で心名が勝ったのだ。学園の生徒達も会長が敗北したと思ってる人はほとんどいないし、隠蔽でも何でもないような気がする。


 その理論で行くと真名井も反則されて負けたのだが、その部分はいかほどの事なのか。しかし彼はそこを指摘しない。すべては会長の顔に泥を塗らない為に。


「このまま、おめおめ引き下がるわけには行かないのよ。西都平和……必ず、屈服させてみせるわ! 次の計画に取り組むわよ! いいわね!?」

 扇を開き、来栖は生徒会部下の三人へと事を告げる。


「らじゃー」

「了解です! あの時の屈辱を果たす……!」

 真名井、そして誰か分からないもう一人はその言葉を即座に了承。


「……」

 ただ一人、隅っこの席で黙々と仕事をする女子生徒。生徒会最後の一人。

「了解しました」

 髪の毛は金髪。何処かハーフの空気を感じさせる眼鏡の彼女の名前は“鵜戸玲奈うとれいな”。生徒会の副会長にして、“書記”“会計”の二つの仕事を同時に担当する天才。彼女はクールに仕事をこなす。


「……ふむ」

 鵜戸玲奈は来栖生徒会長去りし後、微かに呟く。


「来年の総選挙、本気で勝ちに行くか」

 主に生徒会の騒乱の後始末を尻ぬぐいしている鵜戸にとって、来栖は生徒会の汚点としか考えていないのは秘密である。


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「はぁ~……!!」

 俺は酷くやつれた深呼吸をしながら、いつもの登校路を歩いている。昨日の一件のおかげで俺はまたも悪名が広がってしまった。


 卑怯な手を使ったのは事実ではある……だが、生徒会の連中に好き勝手されるよりは数百倍マシだ。数日で消えてしまいそうな悪評くらい耐えてやるさ。



「正義を振りかざしたクソテロリスト共めが……!!」


 だが、やはり理不尽なのに変わりはない。あの生徒会軍団め。なんだ。俺が何をしたというのだ。迷惑はかけ……てるかもしれないが、悪意はないんだ。


 どうしてだ。どうしてなのだ。


「おっ! 平和、こんな時間に登校とは珍しいな」

「おおおっとっ!」

 突如かけられた声。俺は両手を構えてポーズを取る。一切の隙のない臨戦態勢。


「って、俺だよ俺!」

「あぁ、お前か。ビックリした……」

 俺は臨戦態勢を解除する。

 そうだ、昨日の一件がある。またいつどこから、生徒会の刺客がやってくるかどうかもわからない状況。いつでもカウンターアタックを決められる準備はしておく。


 ちなみに声を駆けてきたのは小林牧夫。味方である。


「昨日は災難だったな」

「ああ……本当にいい加減にしてほしい」

「そうカッカするなよ。皆楽しんでたし、俺も楽しめたぜ?」

「俺は微塵も楽しくなかった!!」


 やりたくもない野外スポーツをやらされた挙句、心名のダークマターチョコレートを食べさせられて体力が擦り減らされたりと散々な一日だった。ああいうピエロのようなエンターテイナーなんて御免被る。


「警戒しすぎじゃねーの? 流石に連日で仕掛けては、」

「甘い、牧夫」

 俺は三本の指を立てて、牧夫に向き合う。


「血液型占い、星座占い、そして携帯のおみくじ。三つ並んで最悪の運勢だった今日の俺に何も起きないとでも?」

「見事なスリーセブン決めやがってるな、おい」

「一週間に一回のイベントだから。もう慣れた」

「スーパーの特売か何か?」


 悪運のスリーセブン。今日も不幸な何かが待っているはず。だからこその警戒態勢なのだ。油断するはずもない。


「平和氏。今日も元気で」

「おっと」


 即座に臨戦態勢のポーズ。


「おおっ!? 何故に戦闘態勢!?」」

「なんだ、三句郎か。驚かせやがって、ぺっ」

「なんでツバ吐かれたの!?」


 何かしたかと三句郎は唖然。

 その後、例の事情全てを話しておいた。生徒会との一件で酷く疲れている事、そして今日も何かあるのではと内心恐れていることを。


「深く考えすぎのような気が」

「やっぱそういうよな。皆」

 三句郎も警戒しすぎではと心配している。

「仕方ねぇんだ……もう俺は、これ以上嫌な目に遭いたくない……!」

 実際、そういう無駄な心配をする方が帰って嫌な事が起きるとよく聞く。だが無理だ。こういう体になってしまったのだから。


「おっと!」

 生徒とすれ違う度に俺はファイティングポーズを取っていった。


「……いつまで続くんだろうな、あのカウンター」

「手を出したら、腕が折れるじゃ済まなそう」


 二人の心配なんて、とっくに耳に届かなくなっていた。


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 数分後。何事もなく靴箱に到着した。


「はぁ~……」

 何度も身構えたせいか、俺は酷く疲れていた。授業に入る前から体力を擦り減らされた。


「やっぱり警戒しすぎでは」

「油断してはいけない。奴らの攻撃は既に始まっているかもしれない」

「生徒会はスタンド攻撃か何かか」


 友人二人の指摘が背中に刺さる。

 だが、確かに二人の言う通りかもしれない。こんな風に警戒しすぎるのもかえって体に悪いし、疲れも溜まる。これで疲れ切ったところに生徒会へ襲撃されたと考えるだけで……





(いや、駄目だ! 油断するな西都平和!!)


 駄目だ。やっぱり警戒は解けない。

 ここは学園だ。奴らのテリトリーだ。むしろここからが本番だ。俺は今までよりも警戒を強める結果となった。


「駄目だこりゃ」


 不幸体質とか周りの目つきに対しては特に気にしない俺ではある。だが生徒会だけは駄目だ。アイツラだけはどうしても気に入らない。

 二人の心配を他所にしてしまうのも、それだけあの連中を毛嫌いしている証拠である。本当に大っ嫌いだ、アイツラ……!!


「まあ、何かあったら協力はするでござるよ」

「そうさせてもらう。この一件だけは一人の力ではどうにも…、」


 友人の厚意が嬉しくて涙が溢れそう。俺は靴箱を開いた。


「がふっ!?」


 ____飛んでくる。

 “バネのついたボクシンググローブ”が俺の顔面へ。吹っ飛ばされた俺はそのまま尻もちをついて倒れ込む。


「「わーお、超古典的」」

 超昭和なトラップに嵌められた俺を、二人は哀れむ目で見降ろしている。


「……やっぱりダメかも、今日」

 俺は靴箱前で横になりながら天井を見上げていた。

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