CASE.19「純情サッドデイズ その2」
____9年前。
彼らがまだ小学校低学年の時の話である。
この頃はまだ、彼らの地元である常春町は田舎町としての側面が強く、今のように都会の真似事をしているような光景が少ない頃だった。
今となっては公園に置くことが禁止になってしまった遊具がたくさん並んでいた時代。雲梯や巨大ブランコ、その他懐かしい遊具が並んでいる。
公園にはサッカーボール片手に遊びまわっている子供や、携帯ゲームやスマートフォンのアプリゲームで楽しむ子供達の姿がある。
「……」
そんな中、当時小学校低学年であった西都平和は____
「……」
常にジャングルジムの内側から、遊んでいる子供達を眺めていた。
「おい、またきてるぜー、あいつ」
「ちょっとはなれようぜ……おれも、いやな目にあっちまう」
当時、この頃からもしかしなくても、彼は仲間外れにされていた。
彼の運の悪さは幼稚園時代かららしく……その頃からあり得ない数の不運に見舞われ、その不運を周りにもまき散らしていた。
疫病神。なんてアダ名こそ当時はなかったが、彼を仲間に入れようと思う子供は当時誰一人としていなかった。
「……」
そのせいもあってか、当時の彼はかなりやつれていた。
幼稚園、そして小学生になってからも先生やPTAには心を開かないし、話しかけようとしても警戒してそのまま何処かへ立ち去ってしまう。
しかも何より面倒だったのは、今と比べて聞き分けもかなり悪い子供だったのだ。
褒められる点があるとすれば、勉強の成績は良かったところくらいだろうか。授業をちゃんと受けているかは分からないが、友達のいない彼は自宅で教科書を延々と眺めているのが当たり前だったそうだ。
「……」
彼はここに来ても、自分が仲間外れにされるのは分かっている。だけど、どうしても、この公園に来たい理由が……”一つだけあった”。
「おれ、帰ろうかな……」
「いや、それはまとうぜ。もう少ししたら……ほら、きたっ!」
公園いる男子たちの顔色が一斉に変わった。その視線は公園の入り口にある巨大な”真っ黒のリムジン”へと向けられる。
「いこう! いまりちゃん!」
「おまちください! おじょうさま!」
平和と同じく、当時、小学校低学年だった心名と五鞠である。
彼女達もまた、平和達と同じ小学校の生徒であり、この頃から心名は人当たりの良い可愛いシンデレラと評判だった。当時の五鞠もボディガードの勉強として常に心名の隣にいた。
眩しい笑顔。男子たちが一斉に心名の元へ向かって行く。
「ねぇ、ここなちゃん! よかったらいっしょにあそばない?」
「うーん……いいよ!」
一緒にサッカーをする。それにオーケーを出してくれた心名に男子一同は一斉に喜んでいた。
「おじょうさま。ようふくがよごれますよ」
「いいんだよ! わかいうちにあそばなきゃ!」
「おじょうさま、わかいにもほどがあるんですが」
このように、誰に対しても優しいのだ。お誘いを受けたら断らないし、困ってる人がいたら放っておけない。まさにドラマやアニメに出てきそうな“理想の敷き詰められた女の子”と言ったところ。しかも、かなり可愛いとまで来た。
可愛い。そう、可愛いのだ。
「……」
西都平和は……そんな彼女のことが“気になって”いたのだ。
理想的な美少女である彼女。その感情は一目惚れなのか憧れだったのか分からない。とにかく、当時やつれていた少年の心を揺さぶる何かが彼女にはあったのだ。
この時間になると彼女がやってくることを知っていた。彼はずっと、このジャングルジムの中で心名がやってくるのをずっと待っていた。
「……」
心名と五鞠は男子たちに交じって今日もサッカーを楽しんでいる。
それをただずっと、平和は眺めているだけ。
「ん?」
その最中。
「!」
平和と五鞠の目が合った。
「……!」
驚いた。ジャングルジムの中でただ一人仲間に入ろうとしない彼を見つけた時、五鞠は驚いた。それは平和も一緒でジャングルジムの中にて怯えている。
「どうしたの、いまりちゃん?」
立ち止まった五鞠を見て、心名はその視線の先へと目を向ける。
「あっ! ねぇ、きみ! きみもいっしょにあそぼうよ!」
声を、かけられた。
五鞠の目線に気付いた心名が、ジャングルジムの中にいた平和に声をかけたのだ。
「……っ!」
驚いた彼は逃げ出してしまった。
恥ずかしいのか、びっくりしたのか。それは誰も分からない。
「あれー……?」
「ここなちゃん、あいつのことはほうっておけよ」
「そうだよ、ろくなことにならないよ」
男子たちは平和へと近づけない様に、心名を一斉に取り囲む。
「うーん」
「……?」
ジャングルジムの少年。
心名と五鞠はあの少年の事が、気になって仕方がなかった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
数日後。それから心名達と男子達の交流は続いた。
「……」
サッカーボールを追いかける日々。とても楽しそうにはしゃぐ子供達を眺めるために今日も平和は一人ジャングルジムの中でその風景を覗き込んでいる。
(いいな)
___とても楽しそうだ。
胸の中で芽生えつつある感情に、平和は徐々に胸を痛めていた。
(おれも……だめなのかな)
でも、苦しくても。仲間に混じるのは無理だとわかっても彼は気になっていた。
あの高千穂心名という少女の事が強く、とても。
「……うわあああ!」
声が聞こえる。
「!」
ふと我に返った平和はジャングルジムの中から、その声のする方向へ視線を戻す。
「グルルルルルッ!」
……野良犬だ。
イカツい表情を浮かべた狂犬が、子供達へ近づいている。
「「「うわぁあああああッ!?」」」
当然、子供達はサッカーを中断して一目散に逃げ始めた。
それが刺激となってしまい、大型犬は逃げた子供達を次々と追いかけていく。子供達は大きな喚き声をあげながら散っていく。
(えっと、えっと……)
ジャングルジムの中、どうしたものかと平和は震えている。
(あっ!)
そして、気付いてしまう。
「はぁ…はぁ……!」
……逃げ遅れている。
“少女達”が逃げ遅れてしまっている。
「う、うわわ……」
「ここなちゃん!」
近寄ってくる大型犬。
それに対し盾になろうと五鞠が前に出るが、恐怖のあまり足がガクガクに震えている。とてもじゃないが犬を追い払えることは出来ない。
「グルルァアア……」
このままでは不味い。
変に刺激を与えなければ怪我をすることはないと思うが……あれだけ殺気たっているのだ。二人が怪我一つしない保証は何一つとしてない。
「……っ」
ジャングルジムの中で震える平和。
「……ううぅッ!!」
しかし、彼は飛び出した。
ジャングルジムから出た彼は、近くにあった巨大な棒切れを持って心名達の元に迫る。
「こっちをみろ!!」
大型犬に対し威嚇をする。
近づけさせない。彼女達には絶対に近づけさせないと意識をこちらに集中させようとする。
「……こっちに、こいっていってるんだ! くそいぬ!!」
棒切れを投げた。
犬には当たってない。地面に向かって投げつけたのである。
それが、大型犬の刺激を与えるにはあまりにも充分すぎるものだった。
「ガルルル……!」
振り向く。大型犬は息を荒くしながら平和の方を見る。
走り出す。大型犬は攻撃をされたと思い込み、標的を平和へと変更し、牙を立てて次第にその距離を近づけていく。
「……!!」
飛びつく大型犬。
平和は、そのまま大型犬の体当たりを正面から受けてしまった。
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