第2部<純情 SAD DAYS>
CASE.18「純情サッドデイズ その1」
「それでね、昨日はピアノの先生が想像以上にうるさくてなんだよ……もっと、綺麗に弾けないのかーって。楽しく弾いてて何が悪いのかなって思ったのだよっ」
「あぁ、そう」
ここ、常春学園では学園の七不思議以上に深い謎が存在する。
常春学園では嫌な意味での有名人、その中でも最下層、接近禁止・相互理解不可能と言われるほどに暴力的で猟奇的。散々にもほどがある根も葉もない噂が立ち込めている人物・西都平和。
一方、それとは真逆に、彼女にしたい・友達になりたい・嫁にしたいと三拍子そろって評判の良い学園のシンデレラ。脳内お花畑で誰に対しても壁を作ろうとしないラブアンドピースな女の子・高千穂心名。
そんな二人、最上位と最下層という交わることなどほとんど無いであろう二人組。
学園のマイナスの塊だと言われている少年・西都平和に対し……何を血迷っているのか、あの高千穂心名は毎日アタックを仕掛けているのだ。
「くっそぉ、なんであんな奴なんかと……」
「俺だったら、心名姫の話なんていくらでも聞いてやるのに……何様だよ、アイツ!」
「爆発しろ! 粉々になりやがれ!!」
男子たちは西都平和に対して嫉妬の視線を向けている。
学園のシンデレラと呼ばれている高千穂心名に話しかけられることは男子にとって幸福の極み。そのありがたみを平和は、ほぼ毎日受けているというのだ。
「つーん」
ところが肝心の西都平和はあの対応。悪評通りのコミュニケーション能力の最悪さ、そのツンツンとした対応に話しかける気すらも失せてしまう。
しかし、高千穂心名はどれだけ冷たい対応をされようが懲りることなく話しかける。しかも彼に話しかける彼女の姿は、明らかに他の人物と話すときと比べ温度差の違いが目に見えてわかる。
羨ましいにも程がある。その上、何て贅沢な奴だと恨めしくも思う。
男子たちは嫉妬を越えて、軽い殺意すらも浮かべてしまいそうだった。
「……とっとと転校の一つでもしてほしいぜ」
「無理無理、そんなことしてもたぶん、あの子は転校してまで追いかけるぜ」
「あり得るな、そりゃ……気が狂ったようにゾッコンだもんなぁ~」
「何なんだ……アイツに何を感じてるってんだよ……!?」
ビックリするくらい平和に対してホの字である高千穂心名の愛の深さは男子の間ではあまりにも有名で、彼女の高嶺の花っぷりをさらに加速させる要因となっていた。
あの男が存在する限り、勝機はゼロなのである。
「なんであんな奴を。物好きなものだぜ」
「本当だよ……痛い目にあいたいのかな。実はドMとか?」
「学園の平和のために欠席の一つでもしてほしいくらいだな。その名前通りにな。ガハハハ……って痛っ!?」
ビックリするくらい不謹慎な悪口に対して天誅が下る。
「……ごめん。腕が、あぁいや、手が滑った」
平和だ。彼はその場にあった新品の消しゴムを男に向かって投げたようである。
しかも彼だけじゃない。息があったかのように心名も頬を膨らませて、男子生徒を睨んでいる。
二人とも会話に夢中になっていると思いきや聞こえていたようだ。
平和も堪忍袋の緒とやらがしっかりあるのか、その度が過ぎた悪口には眉間に皺を寄せていた。
「悪い! 冗談だよ!」
「……笑えない冗談は冗談じゃない」
それだけ言い残して、平和は再び読書に戻る。
「はぁ、ダル……」
平和のマイナスイメージの要因は二つ。
まず一つはビックリするくらいの不幸体質だ。小さいことから大きい事まで、中には科学的にあり得ない不運まで呼び寄せてしまうのだという。しかもその不運は周りにも伝染するようであり……その結果立ち入り禁止のお店とか、問答無用でブラックリストに入れられる店まで現れる始末。
そんな体質のせいか、彼は疫病神だなんて呼ばれている。
更にもう一つの問題点……それは彼の攻撃的な性格だ。
沸点がかなり低く感情的になりやすい彼はともかく言いたいことはすぐ口にする棘だらけの少年。先程のような悪口に対して問答無用で制裁を加え、読書中に話しかけたり指を向けたりするものなら腕を飛ばしてくるなど激情しやすい性格なのだ。
故に誰も彼に話しかけないし、近づこうとしない。
不運に巻き込まれるどころか、乱暴されて痛い目にあうだろうという噂から、女性の間では勿論、男性の間では評判は底をつくかのように酷いモノだった。
「……授業始まるぞ。早く準備したら」
今も尚、話を続けようとする心名に声をかける平和。
「うん、わかった! あっ、そういえば授業で思い出したんだけど、」
「宿題なら貸さないから」
「節操な~~~っ!!」
何故、悪い噂ばかりが立ち込めている彼の元へこうまでして、この少女はアタックを仕掛けるのか。何故ここまで惚れ込んでいるのか。
……少し、昔の話をすることにしよう。
それは不幸体質の男子学生と、シンデレラと呼ばれた女子学生。
二人の少年少女の出会いのお話。
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