CASE.14「フィッシュ アンド フライ」
ゴールデンウィークが始まって二日目。
「クッソ、釣れねぇなぁ……」
「そんな早く釣れるかって、もうちょっと用心しろよ」
(釣れない)
俺達がやってきたのは釣り堀である。
目の前に広がるのはちょっと濁った大きな池。そこには大量のボラが餌を見つけるたびに群を成して食らいついてを繰り返している。
何故、釣り堀に来ているのか。
理由は三句郎だ。どうやらここ最近、釣りアニメが始まっているらしく、その登場人物は決まって美少女たちで、そのアニメにハマったこの男はホイホイと釣られてしまい、こういった釣りに興味を持ったのである。
ここ最近、ジジ臭い趣味を二次元の美少女がやるだけで流行るなんて現象がある。アニメの影響は恐ろしいなと思いながら、俺は釣竿を握っていた。
ちなみに牧夫は元々釣りが好きだから付き合うことに。釣りのいろはを教えてやるぞと凄く気合いを入れていた。
(……どうしようかな。心名の弁当)
釣りをしながら、数日後に迫る”試練”の事を考えている。
「こう、スパーンと釣れたりしないものかぁ?」
「スパンとはいかねぇよ。釣りっていうのはな」
そう簡単にアニメみたいにうまくいくわけがない。こういったのは、大体現実を知って飽きる人も多いわけだ。
過去にそういったアニメの影響でゴミ捨て場に沢山のギターだとかベースが捨てられているのを見た時には怒りがこみ上げそうになった。ここ最近の出来事だから記憶に新しい。
「……釣りを舐めるなよ。やるといった以上はちゃんと向き合え」
「は、はい、頑張りまーす」
やはり喧嘩番長を前には、オタクも逆らえないか。
羽交い絞めにされて、干物のように天日干しにされたくない三句郎は震えながらも釣竿を握っていた。
「まあ、そのアニメがどんなのかは知らないがな、釣り上げたボラを焼いて食うのは確かに美味いぜぇ~。塩をふってよぉ、大根おろしとポン酢をちょぴっと……くぅ~!!」
牧夫はボラの塩焼きのおいしさを数分くらい語る。まるでおっさんだ。
程よい苦み、ホクホクとした身、そして味を変えるためにスダチをかける。それを語る牧夫の表情は昭和のグルメ漫画を思わせた。
「……よっしゃ! 頑張ってみるか!」
「楽しそうだな。お前ら」
俺はそっと二人にほくそ笑む。
「おいおい、そういうお前も実は楽しみなんじゃないのか? 釣り上げた魚を焼いて、塩をかけてホクホクと」
「俺、魚食べられないよ。昔、喉に骨が刺さって以降トラウマで」
「「あっ……」」
牧夫と三句郎は悟った表情で、暗い瞳を浮かべながら釣竿を握っている俺の顔を眺めている。
そう、俺は小さい頃に魚の骨が喉に刺さってしまい本気で苦しんだ思い出がある。しかもその骨は想像以上に大きくて深く刺さったもの。なかなか取れない上に、位置も悪かったせいで嗚咽と吐き気が止まらず本当に大騒ぎしたのを覚えている。
それ以降、それがトラウマのせいで魚が食べれない。魚を口にした途端に嗚咽が止まらず吐き出してしまう。それくらい魚が大嫌いになった。
「気にしないで。釣った魚は二人に譲るから……あっ、逃げた」
俺は餌の抜けた釣り針を眺めながらガックリと肩を落とす。
「牧夫ごめん。餌をつけて」
「おう、任せとけ」
牧夫が取り出す餌。
この釣り堀で購入したものではなく、実際の釣具屋さんで買ってきたものだ。
すり潰した身もあれば、小型大型の虫もあるなど、用意した餌箱の中にはそういった生き物たちがウジャウジャと動いていた。
「おお? 平和、お前もしかして蟲は駄目なタイプかい? 見た目によらず可愛いところがあって、」
「俺、釣り針が駄目」
「あ……そうか……」
先端恐怖症だと言ったはずである。
アレルギー反応を起こすほどではないが、釣り針に自ら手を近づけるのが少々怖くて仕方ない。なので牧夫に頼んだのだ。
「……なぁ、平和殿」
「なんだ」
「……今日何しにここへ来たの?」
「釣りに来たんじゃないの?」
俺は黄昏気味に空を見上げながら笑ってやった。
本当、今日は何をしにここへ来たんだろうか。ひとまず、ボラを釣り上げていることに変わりはないからいいんじゃないかなと三句郎に言ってやった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
数時間後。一通りボラを釣り終えた俺達。
なんだかんだ言って苦戦していたが三句郎もコツを掴んだのか次々にボラを釣り上げていた。俺も途中から5匹くらいは釣れた。
そして経験者である牧夫は流石である。10匹近く釣り上げ、本人も大満足の結果で終わったようである。
釣った魚は追加料金で購入することが出来る。6匹くらい購入した俺達は釣り堀のすぐ近くにある調理コーナーへと持っていき、串刺しにしたボラを七輪の炭でこんがりと焼き上げていく。
「くぅー、うめぇな、これは!」
「苦っ……思ったより苦いな」
牧夫と三句郎。それぞれボラの感想を口にする。
(まぁ、慣れてはいるから大丈夫だと思うけど)
そんな中、魚を食べられない俺はポチポチと携帯電話をいじっていた。後日の事を考えながら。
(一応、胃薬は買っておこう……)
深く溜息を吐いて、空を見上げた。
そんな中、魚を食べられない俺はポチポチと携帯電話をいじっていた。
「おい、平和」
牧夫はそんな俺を見兼ねて話しかけてくる。
「これ食うか? さっき売店で帰ってきたおにぎりだよ」
「おっ、いただく」
ちょうどお腹が空いていたところである。香ばしい匂いの海苔がまかれたオニギリを手に俺は即座に食らいつく。
「んっ」
オニギリの中に何か入っている。
このフワっとした触感、口の中でホロっとほどけていく”魚”の身がご飯粒と海苔に絡みつく。ちょうどいいくらいに塩も効いてて、ポイント高い。
「これなら、お前でも食べられるだろと思ってさ」
……牧夫が気を遣ってくれたようだ。
「牧夫」
俺はそっと、オニギリを片手に口を開く。
「……すまん、吐き気が」
「これでも駄目か!」
体の拒否反応にだけはどうしても逆らえない俺であった。
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