CASE.13「カエルの子はオタマジャクシ」


 数日後。五月を迎え小テストも無事突破。ゴールデンウィーク前の今日、俺は宿題を初日にまでに終わらせようと真っすぐ家へと帰っている。

 

 ちなみに五鞠は余裕で合格、三句郎も無事突破。牧夫と心名は死に物狂いで勉強したおかげか赤点ギリギリで合格したようである。

 全員、合格が決まったところで、ゴールデンウィークの予定は何の変更もなく実行されることとなる。俺はその事実を知ってホっと胸を撫でおろした。


「……はぁ」


 そして同時に悲嘆する。


 これで毎年恒例の“高千穂心名特製・ラブリーな手作り弁当こどもの日スペシャル”のイベントが決行されることが決まってしまった。


 ……帰りに激辛のレトルトカレーを購入することで逃げ道の確保にも成功した。



「ただいま」


 自宅、俺の家は普通の一軒家。


 父親は近所の土木の現場監督でビール腹な中年。母親はちょっとドギツイ目つきをした姐さん肌の女性であり、自身で経営しているスナックのママをやっている。

 お互いに収入はこの不景気な世の中にしては安定しているため、このような一軒家で俺は暮らせている。


 しかも、俺の不運に合わせてしっかりお祓いだとか、風水だとかで家の設備も徹底されている。突然家が崩壊して露頭に迷うという心配もこれで大丈夫だ。たぶん。


「誰もいない?」

 父親と母親の靴はないが、それ以外に元気に脱ぎ捨てられた中等部の学生靴が転がっている。

「……いや、友希ゆーきが帰ってきてるか」

 ちゃんと正位置に戻して片付けておく。元に戻したところで俺は一度自分の部屋に向かい、学生服を片付けることにした。 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 俺の部屋。

 牧夫や三句郎からは若干殺風景と言われている。


 本棚には適当に遊んでいた昔のゲーム機やソフト、後はちょっと有名な芸能人の自録伝小説だとか、サスペンス及びホラー小説、あとはここ最近の社会行政などの闇を描いた現代のダークヒーロー小説などがひっそりと置いてある。


 最新のゲームはないし、ライトノベルとかもない。アニメも見てはいるが、三句郎のオススメされて借りた作品のDVDを流し見しているだけ。


 部屋には机とベッドに本棚、後はクローゼットにテレビだけとこれだけなのだ。最近の学生にしては何の尖りもないとハッキリ言われた。


 ……ただ一つだけ、褒められたのは。

 隅っこに置いてあるギターとアンプ、そしてベッドの枕元にあるラジカセと複数のCD。DVDデッキの近くに置いてある、とあるアーティストのライブDVD。これがオシャンティーだと言われたことくらいだろうか。


 それと、押し入れの中の棚にしまってある大量のコレクション。

 褒められたのは本当にこれくらいである。


 ……そこまで殺風景ではないんじゃないだろうか。

 着替え終わった俺は部屋を出て、リビングへと向かう。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 リビングに到着した俺は早速ソファーで横になる。


「……父さん、今日は遅くなるみたいだな。母さんはお店のイベントらしいし」

 テーブルの上には今日の分の御飯代が置いてある。

 今日も両親は家のローンと俺達子供のために稼ぎにいっている。


 ちなみに両親との関係は良好だ。面倒見の良いご両親である。


「まぁ、ゴールデンウィーク前だし」


 頃合いを考えれば忙しくなるのも当然である。

 ソファーで横になると、疲れからかアクビが飛び出す。


「あっ、兄貴おかえり~」

 ……突然開くリビングの扉。そして入ってくるのは背が低めで俺にちょっと顔つきが似た女の子。


 俺の真似をしているのか髪に赤いメッシュをつけている。俺と同じで多少髪の毛にボサつきがある長髪からシャンプーの匂いが香ってくる。


「そんなとこで寝てると風邪ひくぞ~」

 自分で言うのもなんだが、俺から毒と気だるさを抜いて、活発さにステータスを全部降ったような女の子


 湯上りのタオル片手に、スポーツブラとスパッツだけというアグレッシブな姿で入ってきた。


「……お前にだけは言われたくない」

「いいよー、馬鹿は風邪ひかないから~」

「丸三日、寝込んでろ」


 この子の名前は西都友希さいとゆうき。俺の妹だ。

 スポーツ能力は高く、中学校では陸上部のエースである。ちなみに勉強に関しては心名とトップを争うレベルで馬鹿である。


「あ、そうそう兄貴。今日の晩御飯見た?」

「ああ、何か買ってこないと」

 一緒に出掛ける準備をするように促す。


「うん、行ってらっしゃい!」

「いや、お前も来い」

 俺はラフな格好の妹の頭にすかさずチョップをした。


「だって、面倒くさいもん」

 

 買い物を頼まれるのはいいのだが、何が欲しいかと聞いた時に「なんでもいいよ」と言った際、何かそれっぽいものを買ってきたら「これじゃないんだよなぁ」って言われるのがすこぶる大嫌いなのである。



 こ の 少 女 は そ れ を や る。



「んじゃあ、何か勝負しようよー、負けた方が買い出し~」

「一緒に行くっていう選択肢は?」

「だってさ、私はゴールデンウィークであっても部活で三日は学校に行くんだよ~。妹の体を気遣ってはくれないものかなぁ」

「残念だが、うちも鬼コーチだから」


 あとのワガママが嫌なため、ついてきてもらう。ちゃんと食べたいものくらい自分で買えと鋼の意思を見せつけた。


「よし! じゃあ、くじ引きで決めようか!」

「くじ引きはダメだ。俺の運の悪さを知って言ってる? 俺は4年連続で大凶を引いた男だから。フェアじゃない」

 運がからむ勝負はやめた方がいい。

 そこ、勝負は運もあってこそとか言い出したら、おしまいだからやめてくれ。


「じゃあ、ポーカーで勝負しようか!」

「やめておくんだな。俺は過去8回以上ロイヤルストレートフラッシュを食らったことのある男だ。万年ノーペアと言われたこの俺が勝てると思って言ってるのならやめておけ」

「なんでさっきから負け腰なのに上から目線で誇らしげ?」


 ちなみに全部事実。麻雀に至っては過去に天和を五回食らってる。


「よし、じゃあ文句なしでじゃんけんだ!」

「わかった。はい、じゃーんけーん……」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「くそったれッ!」


 数分後、あいこもなしに一撃で負け、買い出しにおもむく俺の姿があった。

 あそこまで清々しく負けると、こうも愚痴を吐きたくなる。


「ん?」

 コンビニまで向かう途中。

 俺の後ろ、買い物に付き合おうとしてくれる一匹の小さな同行者が。



 野良猫だ。

 黒く目つきの悪い野良猫がそっと俺の後ろをついて来る。


「はっ、来るかよ」

 俺はその可愛らしい姿につい心を許したのか笑ってしまった。

 疲れが溜まって状況で、その癒しは俺の心に安らぎを与えたのである。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 ……数分後。コンビニ到着。


「いい加減離れろクソ猫!!」

 

 俺はコンビニの前で、体から引っ付いて離れない野良猫と数分間格闘する羽目となってしまった。


「平和もクソもないな!チクショウがぁああ!!」

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