CASE.11「放課後茶番タイム」
俺達は憂鬱である。
以前も話した通り、評判の問題上、たまり場となれる場所は凄く限られている。
特に“お店”に至っては営業妨害になりかねないと門前払いだ。
「いやはや、今日はついてないな」
俺たち三人、ガックリと肩を落としながら、放課後に街中を歩く。
「雛音どの……マジックアイテム探しにまた”旅”に出られてしまわれた」
今日の俺達は、放課後のたまり場の一つであるオカルト研究部が課外研究の為に休みという理由にて外で放課後を過ごすことになった。
趣味であるマジックアイテム集め。そのために数日休みを取って日本各地に旅に出るなんてよくあることらしい。よく退学にならないなと思ってしまう。お金もどこから入っているのだろうか。
「ファミレス行くか?」
「ごめん。あのファミレス、俺の事、NGだって」
洗礼。こうも、厄みたいな扱いを受けるとウンザリもしたくなる
「……平和殿。この間、立ち寄ったファミレスの新入りの店員さんすっごく綺麗でしてねぇ。胸と脚をこっそり撮影したものがあるんですが、へへへ」
ねぇ、なんで俺がダメで、コイツはOKなの?
世の中全くと言っていいほど分からない。こっそり、この事件を店員に知らせて通報してもらうか本気で考えるくらいに理不尽だ。
「となると」
牧夫が足を止めると、俺と三句郎も二人並んで足を止める
「ここに来るわけでござるなぁ~」
「だな」
そこは一つの喫茶店。
俺達にとってオアシスの一つ。
その名は“喫茶店フランソワ”。
街中の表通りから少し外れた場所にある小さな喫茶店。味の評判が悪いわけではないが、あまり人の立ち入りは多くはないお店。
「マスターに会うのは久々だなぁ!」
牧夫は勢いよく、扉を開いた。
「あらぁ~ん、いらっしゃぁい~! 坊やたち、おっひさぁ~ん!」
お店に入ると出迎えてくれたのは年上お姉さん言葉の”大男”。
ハートエプロン。それを身に纏うのは“泣く子も黙るスキンヘッズに色黒の肌、身長180メートル以上でアメリカ軍人もビックリなサングラスのおじさん”である。
「マスター、お久!」
「お久でござるよ!」
「お、おひさでーす……」
ちなみにここの店長のテンションは少し苦手だったりする。何というか、温度差がありすぎるような気がして。
「あらぁん、平和ちゃん相変わらずテンション低いわねぇ~ん! シャキっとしなさいな!」
「ぐぶっ!?」
ドンっと叩かれる背中。背骨が逆方向に曲がりかねないショックに俺は声を上げる。つらい。
「男は元気が一番っ! さぁ、もっと顔もさわやかに、胸も張りなさいっ!」
この人の名前は“エルメス大淀”。
ここ、喫茶店フランソワを営業している御年40越えのおじさん。
見ての通り、色黒で大柄、その上不気味なほどに声が低いと来た。ハートのエプロンがビックリするほど似合わない筋肉モリモリマッチョマンの変態だ。
「ちょっとぉ、誰が変態よぉ!」
なんで俺の頭の中の声を聞き取られている。
「いたい……」
俺は制裁がわりに再び背中に一発ビンタを食らう羽目になった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
このお店、牧夫が今以上に荒れていた昔からお世話になっていたお店らしく。いつもかくまってもらっては、マスターにお世話になって貰っていたらしい。
実際、色物であるが、ここのマスターは凄くいい人である。このテンションは苦手だが、俺もここをよく利用している。
趣味とかいろいろ……ここでは”お世話”になっている。
「それじゃ、メニューが決まったらボタンを押してねぇ~ん」
マスターは腰をクネクネしながら厨房の方へ。海外のモデル歩きを意識しているのだろうが、どっからどう見ても二足歩行のセイウチにしか見えない。
一世代前のスプラッターよりもエゲツない風景を見たところでメニュー表へ。
「俺は決めた」
「俺も決まってるぜ」
「えっと、俺は……」
俺は迷っていた。
正直、ここの料理はどれも美味しいのだ。家に御飯があることも考えて、軽く済ませるに丁度いいのはどれかと探りを入れる。
「このチョコレート味のフレンチトーストがオススメなのだよ」
「じゃあ、それで……って!?」
突如聞こえた声。その“聞き慣れた声”に驚いた俺はメニュー表を落としてしまう。
「やぁ、カズくん!」
そこにいたのは“ウェイトレス姿”の心名。
店長の趣味か分からないが”フリフリのメイド服を着た彼女”がそこにいた。
「私に会いに来てくれて嬉しいのだよ!」
「いや、違うから」
呆れたように、俺は再びメニュー探しに戻る。
……そうだ、この喫茶店でお世話になっているのは俺達だけではない。
まだ学生である心名は社会勉強としてバイトが許されている。平和が唯一入れる飲食店であるこのお店を気に入ったのか、心名はここでバイトをしているのだ。
(すっかり忘れてた……)
彼女が今日、シフトであることを完全に忘れていた。
俺がメニューを選んでいる中、心名は三句郎と牧夫に挨拶をしている。ちゃんと従業員らしい一面を見せてアピールと言ったところか。
「……じゃあ、注文」
「はい、きたのだよ!」
持っていた伝票を気合い満々に構える。
ちゃんと店員として仕事を全うしようとしている。ならば文句もない。
「このフレンチトーストを一つ」
「もう! ダメだよカズくん! 私はメニューには載っていないのだよっ」
「すいません。店長呼んでもらっていいすか」
話にならん。お前は今すぐタイムカードを切って、耳鼻科に行ってこい。
心名相手、俺はクレームをつけてやることにした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
長らく男三人で何気ない会話を楽しむ。
ちなみに注文でグダついた心名はお店の隅っこでマスターから軽く説教を食らっていた。当然である。
お金をもらっているのだから、仕事とプライベートは分ける大人に成長してもらわねば。説教も出来る良い大人なのだ。あのオカマのマスターは。
「……」
ちゃんと説教を受けている心名を俺は何となく眺めていた。
「ふっふー、興味ないとか言って、やっぱり平和どのは心名姫の太ももを凝視して」
「悪い、手が滑った」
「ぐぼぁあっ!?」
俺の裏拳が三句郎の眉間に命中した。
三句郎は“なんか変な音がした”と叫びながら、自身の眼鏡を何度も触っている。
「おまたせしました」
数秒後、三句郎がメガネの無事を確認している合間に注文した品が届く。
「おっ」
そして、その注文の品を持ってきたのが___
「いらっしゃいませ。皆」
そうだ、心名がいるのなら当然その近くには”彼女”もいる。
ボディガードとしての仕事を全うする中、同じく心名と一緒にこの喫茶店のバイトをしている五鞠の姿。勿論、メイド服姿である。
「うほぉ、眼福眼福」
三句郎は眼鏡をかけ直して、メイド服姿の五鞠に合掌している。
やっぱ、再生不可能なくらいに壊してしまえばよかったか。
「こちらがフレンチトースト、こちらがクリームパフェ、そしてこちらがパンケーキセットとなります」
「五鞠さん五鞠さん! あれやって、メイドさんなら、ほら!」
三句郎は両手を出してハートのマークを作る。
ああ、あれか。メイド喫茶とかでは有名なあの呪文みたいなアレか。
「お客様」
五鞠はそっと人差し指を口元に添える。
「そういうのは、めっですよ?」
「あひぃっ! ありがとうございます!」
失禁しやがった。気持ち悪い。この眼鏡馬鹿もう一発殴ってやろうか。
「両手でハート……ああ、あれか! 『感謝するぜ、お前と出会えたこれまでの』」
牧夫は牧夫で別のものと勘違いしていた。五鞠は五鞠で、その作品を見ているのか、そのシーンの真似までしていた。
「……」
「どうしたカズ? もしかして、おねーさんに見惚れた?」
五鞠は伝票で口もとを隠し、ニヤつきながら悪戯気味に聞いてきた。凝視していた俺に気づいたようだ。
「恐ろしいほど似合わないなって思って」
「●ねッ!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
数分後、心名に続いて五鞠も説教を食らう羽目になった。
当然である。お客さん相手に”殺傷用語”とか最早クビ案件である。
「平和殿。流石にアレはないでござるよ」
そんな中、説教を食らっているのは店員二人だけじゃない。
「そうよ~。女の子心を少しは理解して差し上げなさい!」
「……???」
チョコレート味のフレンチトーストを食べながら、俺も正座をさせられていた。
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