CASE.05「チャーミングな関係(前編)」
数分後。西都平和と高千穂心名の二人はショッピングセンターの中央広場で二人仲良くベンチに座っている。
中央広場はこの時間になると、美味しいシャーベット屋さんがやってくる。舌が触れるだけで優しくとろける甘いクリームが若者に大人気。
「おいしぃよぉ……カズくんもそう思うよね!?」
「ああ、うん。冷たい」
高千穂心名はそれはそれは子供のようにはしゃぐお姿が愛らしい。ここのシャーベット屋さんでも格段に甘いストロベリー味を蕩けた表情で味わっている。
「……甘ッ」
一方、西都平和は何食わぬ顔でシャーベットにちまちまと口をつけている。ちょっと苦いビターが特徴的なチョコレート味である。
___なんだかんだ言いながら、二人はデートを満喫しているようにも見える。
「さて、問題なし。適当に買い物でもしますか」
その光景を観察し終えたところで、私は背を向ける。
一安心したので今日は撤退しようかと考えることにしました。
え? 私は結局何者なのかって?
そして、あの二人は都市伝説が何だと言われておきながら、それなりに仲が良いように見えている。二人の関係は一体何なのかだって?
そうですね。そろそろお答えしてもよろしいでしょうか。
はい、あのお二人の関係は___
「よぉ、可愛いお嬢ちゃん連れてるじゃねぇーの」
待ってストップ。やべぇわ、緊急事態発生。
「ねぇねぇ、こんな根暗そうな奴といて、楽しいの~? さっきからさぁ?」
「なぁ、俺らと遊ばねぇか? そんな暗そうな奴に構ってないでさ」
おいおいおいおい、ライトノベルとかでよく現れそうな強引クソザコナンパ不良男に絡まれてるよ。なんつー、テンプレイベントだよ。どんだけ運ないんだ、アイツ。
「おい、お前もなんか言えよ~? ビビッてねぇか~?」
数人の不良生徒に囲まれる二人組。
さすがは西都平和。公共の場に足を踏み入れて、物の数分でトラブルを引き寄せやがった。はやい・まずい・きついの三連撃や。
「むっ、これはデートイベントではよくあるハプニングの一つ! ヒロインが可愛すぎて声をかけられてしまうというものでは!? この状況、ピンチのヒロインを救う晴れ姿…… 主人公のカズ君が輝く一世一代のチャンスなのですよ!」
もっと危機感を持ってください高千穂心名。何、盛り上がってるんですか。
「そんなチャンスいらないんだけど。目立ちたくないし」
西都平和もあまりの能天気さに呆れかえってるじゃないですか。無心でシャーベットをペロペロ舐めてるし。
「はっは! やっぱり根暗でビビりじゃねーか!」
「ほら、こんなのより俺らと遊んだほうが楽しいって!」
不良生徒達は煽り立てる様に二人ににじり寄ってくる。
西都平和が動く気配はない。高千穂心名はあの様子だし、ハッキリ言ってピンチなのではなかろうか。
「さぁ、一緒に行こうぜ」
「嫌なのです! 君達みたいな馬鹿みたいな人達よりも、私はカズ君と遊びたい!」
馬鹿に馬鹿と言われてる……だなんて、思ってるんだろうな西都平和は。
「馬鹿に馬鹿と言われて可愛そうだな」
ジャストミートだった。相変わらず刺々しい態度のままである。
「いいから来いって言ってるんだよ!」
「……!!」
飛んでくる腕。手加減も何もない。
獣のように爪を突き立て高千穂心名に魔の手が迫った。
「あっ、悪い」
その瞬間。
その場の空気があっという間に戦慄した。
「いやー、悪い。マジで悪い」
響き渡る。
足が”股座に食い込む”音。聞くだけでも身の毛がよだつ鈍い音。
「足が滑ったわ」
___”西都平和”だ。
高千穂心名にのばされた魔の手。それにいち早く反応した西都平和はニヤけた表情を浮かべ、振り上げた足で不良生徒の大事な所を潰しやがった。
「ぐおおおおおおッ!?」
あれは全力だ。不良生徒の何とも言えない涙目の表情を見る限り絶対ガチだ。
顔などを殴って傷を作らないあたり、何処か悪意のある自己防衛で不良生徒の一人を撃退した。
「テメェ!」
「やりやがったな!?」
ニヤける西都平和に不良生徒の鉄槌が下る。
「……っ!」
顔面を殴られる。そこから立ち上がれない様に追撃で腹を殴るなどの暴行を続け、あまりの猛攻に耐え切れず西都平和は冷房で冷え切った地面に転がった。
「カズ君!」
「さぁ、こっちに来な!」
守りがガラ空きになった高千穂心名に再び手がのばされる。
「……しつけぇ」
立ち上がる西都平和。
のばされた不良生徒の腕を掴むと、反対方向へと折り曲げ始める。
「誰が根暗だッ!? ネチネチネチネチうるせぇんだよ!!」
捻られる腕。悲鳴を上げる男子生徒。
ブーメラン発言全開の暴言を吐きながら、西都平和は反撃する。
「この野郎がっ!」
不良の仲間からまた殴られる。
多少の防衛能力を持っているが喧嘩が強いわけではない。それにあれだけの人数がいれば西都平和に勝ち目があるはずない。
「根暗が調子乗んなこの野郎!」
倒れている西都平和に執拗以上の追撃。何度も突き入れられる蹴り。
顔、腹、背中。ボロ雑巾のように。
「ふぅ、いっけね」
……ああ、いけないな。私。
”かなりムカついた”。
「こいつ、ぶっ殺して、」
「……おい、野郎ども」
西都平和の顔面は殴られ過ぎたせいか傷ついている。
……黙っていられるかい。
怯え始めた高千穂心名。そして、ボロボロになりながらも反抗した西都平和。
___“主人”と“ダチ”がさぁ。こんな目にあって。
___黙っていられるとお思いかヨ。
「おっ、もう一人心地の良さそうなネェちゃんが」
「……ああ、そうかい」
私は拳を鳴らす。
「だったら、まとめて病院でデートするか? ”ボンクラ”」
軽くステップを踏んで、首を鳴らして。
ニヤつきを隠せない表情で、男達に飛び掛かった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
数分後。ショッピングセンターは修羅場と化した。
不良生徒達。文字通り“ボンクラ”であった野郎は全員冷たい地面に転がっていた。
駆けつけた警備員が何があったのかと聞いて来る。その一部始終はシャーベット屋さんのおじさんが見ていたようで目撃証言は残っている。
はい、おしまい。
大人げなく全力を出した私は溜息交じりに勝利の余韻に浸りましたとさ。
ヒーローになってしまいました私の大活躍。これにて、めでたしめでたし……
「五鞠ちゃん」
「あっ」
目を覚ます。私はこの状況を見て我に返る。
「……何してるの」
言い逃れできねぇな。これぇ。
はい、お答えしましょう。
私の名前は清武五鞠。常春学園所属のうら若き美少女女子高生。その正体は。
「……やっぱいたのか。五鞠」
向こうで私を見つめている西都平和の数少ない友人の一人であり……
「いろいろとお話を聞いてもらうんだよッ!!」
学園のシンデレラ……高千穂心名の“ボディガード”でございます。
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