CASE.06「チャーミングな関係(後編)」


「もう、五鞠ちゃん! 日直のお仕事はどうしたの!?」

「いやぁ、お嬢様が心配になりまして。無理を言って変わってもらいました」


 公衆の場であろうと知った事ではない。私はベンチの上で一人正座をさせられた状態で“お嬢様”こと高千穂心名に説教を食らう羽目になっている。


 ちなみに不良生徒達はノビたまま。その風景も相まって、シュールかつ衝撃的な映像のスケールがあがっている。早いところ処理したいものなのだが。


「お仕事をサボっちゃダメなんだよ! いくら、私の“ボディガード”でも!」


 ……改めて自己紹介させていただきます。


 私は清武五鞠。学園のシンデレラこと、高千穂心名のボディガードを幼いころから務めさせていただいている女子生徒でございます。よく、男性と間違われることがありますが、御覧の通り声も高いし、胸も並み以上についてるから女です。はい。


 お嬢様のボディガードを務めて十年近く。幼い頃から護身用の武闘の一環としてカンフーや空手、その他武器を使った武術を幾つかマスターし、こんな有象無象相手でございましたら、一人で相手出来るくらいには容易い御用です。


 趣味は山籠もりと水泳。特技は太極拳です。

 女性らしさゼロかよと思った人、この景色の一部になりたいのなら言い続けてくださいな。


「……それ、宿題毎日サボってる主人が言えた口じゃないから」

「ぐふっ!」

 後ろで呆れながらフォローを入れた平和にお嬢様は固まった。


「だ、だって、ウチの学校って宿題だろうと容赦しないんだよ!? 五鞠ちゃんは宿題見せてくれないし、どうしようもないというか」


「何処の学校もそんなもの。甘ったれるな」


 平和はやはりお嬢様相手だろうと容赦しないのであった。


「そ、それはともかくだよっ」

 何とか誤魔化そうと、お嬢様は私にターゲットを切り替えた。


「私の事が心配って言ってたけど、まさか、カズくんのこと!?」

 ちょっと怒り気味に。こうやってコソコソと監査を仕掛ける程に重要な事なのかと、お嬢様はこちらを見て、叱ってくるではありませんか。


「カズくんはそういう人じゃないって知ってるよね! 失礼にも程があるんじゃ」


「いえ、私は逆にお嬢様がカズに変なことして迷惑かけないか心配で」


「私の心配だった!?」


 正直、誤魔化しても面倒だし、主人相手であろうとそこは正直に言う事にした。


 そうだ、高千穂心名は後先考えずに行動することが多いのだ。今日の学園での休み時間の泣き寝入りとか、放課後に靴箱の外で平和の背中に抱き着こうとした件とか、どれも後のことを考えてやっているとは思えない。


 とにかく行動あるのみ。恋はアタックあるのみ。

 結果などを考えるよりも先へ進む。石橋を叩かず、堂々と進むタイプの人間なのである。高千穂心名は。


「お前、相変わらず主人相手でも、隙あればドつくよな」


「思った事があったら遠慮なく言ってと口にしてましたし~」


 高千穂心名本人から告げられたことを正直に白状する。


「だとしても、もっとビブラートで隠してほしかったよ!」

 オブラートかな。そんなもんで隠せるかよ、人の感情が。


「大丈夫って言っても、今回のような一件があったじゃないですか。流石にカズ一人じゃ、無理がありますよ。アレ」

 いつもの不運が炸裂して面倒な事態に。こういったトラブルの対処はそれなりに出来るようになってしまった彼でも複数人は無理がある。


「そんなわけないもん! 私がピンチになった時、カズくんはどんな時でも活躍してくれるもん! 空から隕石が降ってきても単騎で宇宙まで飛んで行って受け止めに」

「「それは無理」」

 私と平和は二人して拒否した。

 そういうアルマゲドンな仕事はNASAかスーパーマンに頼みなさい。


 ……とまあ、これ以上長居すると、そろそろお店の人に迷惑をかけかねないので移動を開始することにする。私もせっかく助けたのに説教されてばかりでは、なんというか気がめいってしまいそうだ。


 溜息を吐きながらも、私はそっと立ち上がる。


「あれ、五鞠ちゃん。その手!」

 お嬢様が切り傷だらけの私の腕にそっと触れる。

「あ、ああ、さっき切っちゃったみたいで」

「大変だよ! 急いで病院行かないと……カズくんもほっぺが沢山切れてるよ!」

「こんなの掠り傷」

 大した怪我ではないと強く、西都平和は言い切っている。


「駄目だよ! 早く薬局へ行こう!」

 ここはショッピングモール。探せば何処かにはあるはずの薬局。

 

 私と平和。二人を心配しての行動。

 お嬢様は必死に私たちをショッピングセンターの売り場まで連れて行く。


「……っ!」

 振りほどく。

 平和はイラついた表情でお嬢様の腕を振りほどいた。


「カズ君!」

 これ以上戯れるつもりはない。付きまとう気もない。

 彼はそんなことを言いたげな顔をしている。


 ……そう、顔だけ見ると、そう思ってしまうだろう。







「薬局、逆方向だけど?」

 平和は一人、早足で反対方向へと向かって行った。


「そうなの!? よし、五鞠ちゃん行くよ!」

「うわわわっ」

 綺麗にUターン。ジェットコースター感覚で引っ張られる私はあまりの眩暈に気持ち悪くなってくる。


「ほら、カズ君も急ぐよ!」

「ああッ!? 掴むな、引っ張るなッ!」


 平和も掴まってしまい、何処にあるかも分からない薬局へと向かい始めた。





 ……何故、私が西都平和の事について少し詳しいのか。

 ……何故、高千穂心名が西都平和に付きまとうのか。


 

 そして、私達三人。それなりに交流を深めている理由は何なのか。




 


 その理由は、お察しの通り。


「さぁ、行くよ!」


「……はい!」

「ちっ」


 私、清武五鞠。

 そして西都平和と高千穂心名。




 私達三人は、昔からの“幼馴染”なのである。

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