CASE.04「気分ゲリラ豪雨感覚」


 というわけで前回に引き続き清武五鞠でお送りいたします。


 一体私が何者なのか。その質問へのコメントは返す時間がハッキリいって”ない”と思うのでスルーする案件で行こうと思います。いつか絶対に答えるので。


 午後の部も終わり私は、とある人物をここで待っている。

 その人物はもしかしなくても、あの人物。


 “西都平和”である。

 靴箱。自分と同じクラスである彼が靴箱に現れるのを待つ。




 ……数分後。西都平和は靴箱に姿を現した。



「捨て垢批判厨、呟くたびに自宅が爆発する仕様にならないかな」


 また何か物騒なこと言ってる。

 あれかな、お気に入りの芸能人のツイッターアカウントに捨てアカウントと呼ばれる批判用のアカウントで好き放題言ってる奴が目に入ってイラっとしたのかな。


 分かるよ分かる。私もそういう輩を見るたびに面倒くさい奴だなって思うし、同時にすげぇ暇な奴だなって思う事もあるよ。でもそういうのは無視に限るよ。構う方が思うつぼだよ。


 ああいうのは誰も得しないし、大抵は痛い目見て、人権という名のアカウントを抹消されるのが大半だから。そんな暇な事やめて、大人しく勉強しとけって話だから。



 ……同調も終わったところで、私が西都平和を何故、ここで監視しているのかを説明するとしましょうか。



 その理由はとても明白。ただ一つ。

 この学園では四天王の存在以上にザワつかせている“謎”がある。



 ”それに関することで私はここにいるのだ。”

 ……その不可思議現象とやらの発端である、もう一つの存在が、もうじき現れる。







「カズくん、はっけーん!」

 西都平和が靴箱を出てすぐ、それを追うように姿を現す女子生徒。


 主人の帰りを喜ぶチワワの尻尾のように揺れるツーサイドの髪。大きなピンクのリボン。キュートという言葉は彼女のために存在していると言われるほどに可愛いシンデレラ。


 “高千穂心名”だ。

 彼女は西都平和を発見するなり、背後より彼に目掛けて大ジャンプ。


 あの構えは……抱き着く気か。

 現に彼は捨て垢厨に対して執拗なヘイトを口で呟いている。他人から見れば隙だらけである彼。スキンシップを計るなら今がチャンスと言わざるを得ないだろうよ。


 高千穂心名はムササビのように両手を広げ、平和の背中に飛びついた。




「よいしょっと」


 その途端、平和の鞄から取り出され開かれる“折り畳み傘”。


「ぐえぇっ!?」

 頑丈な折り畳み傘のバリアにより平和へのスキンシップは見事に失敗。高千穂心名はズルリと地面に転がってしまった。


「カ、カズくん……いきなり傘を開くとは何事ですか。外は雨降っておりませぬぞ」

「後ろから嵐の気配がしたから」


 学園のシンデレラを悪天候扱いである。

 実際嵐のように騒がしかったのは事実である。だが、学園のマドンナの一人に数えられている彼女にその毒づきは大した度胸である。


「んで、何の用?」

 シールド用の折り畳み傘をしまい、平和は転がっている高千穂心名へ声をかける。


「あっ、そうだ!」

 目的を思い出し、彼女は起き上がる。

「カズくん、私とデートをしてほしいんだよ!」

 それは何とビックリ、デートのお誘いであった。しかも、学園のシンデレラと呼ばれる有名人な彼女から。


 オブラートで隠すこともなくストレートに。真正面からデートのお誘いを仕掛けたのである。


「この後暇なら、是非とも」

「やだ」

「二文字で断られた!」

 

 あっさりの敗北にあんぐりと口を開ける高千穂心名。


 デートの一件を断った西都平和はショックを受ける高千穂心名を他所に、そそくさと学園から去っていくではないか。


「俺は暇じゃないから。それじゃ、」

「……付き合ってくれないと、カズ君の部屋に置いてあった、えっちな本の事を言いふらすもん」

「待て」


 頬を膨らませた高千穂心名の精神的脅迫攻撃!

 断る一直線だった西都平和が綺麗なUターン。砂埃をあげながら戻ってくる。


「何が目的だ。俺の金か、財布か、財産か」


 全部マネーだよそれ。どれだけ焦ってるんだ、あの子は。


「いや、待って。違うから。アレ、俺の本じゃないから。あのスケベクソ野郎のものだから。あんな本、普段買わないから。いや、マジで。ねぇ」


 どうやら、部屋の机の上に友人から借りたというエロ本を置きっぱなしにしていたトラブルがあったようだ。しかも、割とハードなやつが。


 彼にそういう趣味があるか分からないが、無理やり渡された本だという。彼は何度もそれを告げている。メッチャ焦りながら。


「んで、どうするのだ!」

「……行く。行けばいいんだろ」


 悪評を広げられることには慣れているようだが、そういった方面で広められるのは嫌なようだ。現に“レイプ魔”って言われてた時はこれでもかと表情に嫌悪感が浮かんでいたしね。


「そうと決まれば話は早い! さぁ、行くのだよ!」

「待て、引っ張るな……ああ、もうッ」


 そのまま、制服のジャケットを引っ張られ、西都平和は高千穂心名に連行されてしまった。




 そうだ。この学園の一番の謎と言われている現象。

 女性たちからはセンスを疑われ、男性陣からは嫉妬の視線が送られる。



 この学園で一番不人気かつ、嫌われている問題児・疫病神の西都平和。






 そんな彼に___あの”学園のシンデレラが大胆かつ強引な<恋のアタック>をし続ける”という現象。




 何故、彼なのか。何故、彼を選んだのか。

 今世紀最大の謎だと、学園では有名な話である。



 連れ去られる西都平和。テンションが上がっている高千穂心名。




「全く」

 では、私もあの二人を追おうとしましょうか。


「……相変わらず、ツンデレっすねぇ~」

 あれだけ嫌々言っていながらも。


 実はほんの一瞬、”まんざらでもない”表情を浮かべていた彼の行く末を見守りに行くために。



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